最近はおもむろに金属の各種データを眺めていたわけですが、以前、温度と湿度とか圧力とかその辺の話を書いていた時に、「あ、硬さってのもそういえば温度とどういう関係があるのか気になるな」と思って、メモ帳に予定ネタとして残していたものの、そのまま触れずじまいで保留となっていました。
で、金属の結晶構造データを見ていたことから脱線して、ちょうどそのネタを消化するいい機会だと思えたため、今回は硬度の話に逸れてみるといたしましょう。
まず温度うんぬんの前に、そもそもの金属の硬度についてですが、一般的に金属ってのは硬いってのが常識ですけど、とはいえ前回の記事で最軽金属として名を馳せていたリチウムとか、僕が実際に見たことがあるのだと金属ナトリウムとかは、金属のくせしてあいつらまるで豆腐みたいなもんで、ナイフでスパスパ切れるぐらいに軟らかいやつもいるんですね。
当たり前ですが物質ごとに硬さというものは違っており、今回は例の表に「硬度」を加えてみるといたしましょう。
とはいえ一口に「硬さ」といっても色々あり、以前、確かダイヤモンドの話をしていた時に、「硬さと脆さ(壊れやすさ・割れやすさ)とは全く違うのです」などと書いていましたが…(この記事ですね↓)
…脆さとは違うのみならず、同じ「硬さ」を示す指標というものにも色々あるみたいなんですけど、今回は最も代表的な「硬度」といえる、モース硬度というデータを参考にしてみようかと思います。
こちらは上記ウィ記事にある通り、「あるものでひっかいたときの傷のつきにくさ」を示すものであり、まさにこの記事にも「『たたいて壊れるかどうか』の堅牢さではない」とありましたね。
結局、「ダイヤモンドは砕けない」というのは完全に誤りで、「ダイヤモンドは傷つかない」じゃないといけないということになるわけですが、「表面に傷がつかないものは、それだけ硬い」という、まぁ極めてイメージしやすい話ではあると思います。
記事日本語版には各金属元素を含めた一覧データがなかったので、以下のデータは英語版のモース硬度ウィ記事からお借りさせていただきました。
残念ながら代表的な金属のデータしか掲載されていなかったため、今回はここにリストアップされていた金属のみを採用する形で縮小した表になりますけど(多分、各元素のページにモース硬度も載っているので、調べればデータは取得できるはずですが、時間がなかったのでパス)、しかし、金属以外に挙げられていた他の参考物質のデータも併記するといたしましょう。
とはいえ、鉱物の類(ルビーとかサファイアとか、エメラルドとかアクアマリンとか、そういう宝石っぽいのですね)も沢山あったのですが、特に宝石には興味ないので(まぁそんなこと言ったら金属にも興味ないですけど(笑))、鉱物はほとんど省略しました。
カタカナの宝石は英語でもそのまんまの名前がほとんどなので、気になる方はリンク先をご覧ください、という感じでいかせていただこうかと思います。
(分かりにくいのは、トルコ石がturquoise、琥珀がamberぐらいでしょうか。あぁ、真珠もpearlですが、これもパールで通じますしね。)
では早速、こちらが代表的な金属の硬度一覧表になります。
金属の結晶構造と密度と硬度の表(硬度の昇順ソート)
金属 | 結晶構造 | 密度 (kg/m3) | モース硬度 |
Cesium (Cs) セシウム | bcc | 1930 | 0.2–0.4 |
Potassium (K) カリウム | bcc | 890 | 0.2–0.4 |
Rubidium (Rb) ルビジウム | bcc | 1530 | 0.2–0.4 |
バター | 参考アイテム | - | 0.2–0.4 |
Lithium (Li) リチウム | bcc | 530 | 0.5–0.6 |
Sodium (Na) ナトリウム | bcc | 970 | 0.5–0.6 |
ロウソク | 参考アイテム | - | 0.5–0.6 |
Lead (Pb) 鉛 | fcc | 11300 | 1.5 |
Tin (Sn) スズ | Tetragonal | 7260 | 1.5 |
氷 | 参考アイテム | - | 1.5 |
Calcium (Ca) カルシウム | fcc | 1540 | 2 |
堅木 | 参考アイテム | - | 2 |
Bismuth (Bi) ビスマス | Rhombic | 9790 | 2–2.5 |
プラスチック | 参考アイテム | - | 2–2.5 |
Gold (Au) 金 | fcc | 19300 | 2.5 |
Magnesium (Mg) マグネシウム | hcp | 1740 | 2.5 |
Silver (Ag) 銀 | fcc | 10500 | 2.5 |
Zinc (Zn) 亜鉛 | hcp | 7140 | 2.5 |
爪 | 参考アイテム | - | 2.5 |
Aluminum (Al) アルミニウム | fcc | 2600 | 2.5–3 |
Copper (Cu) 銅 | fcc | 8960 | 2.5–3 |
歯(象牙質=歯の内部) | 参考アイテム | - | 3 |
Platinum (Pt) 白金 | fcc | 21500 | 3.5 |
Iron (Fe) 鉄 | bcc | 7870 | 4 |
Nickel (Ni) ニッケル | fcc | 8900 | 4 |
Zirconium (Zr) ジルコニウム | hcp | 6520 | 5 |
歯(エナメル質=歯の表面) | 参考アイテム | - | 5 |
Beryllium (Be) ベリリウム | hcp | 1850 | 5.5 |
Cobalt (Co) コバルト | hcp | 8860 | 5.5 |
ガラス | 詳細不詳 | - | 5.5 |
Rhodium (Rh) ロジウム | fcc | 12400 | 6 |
Titanium (Ti) チタン | hcp | 4510 | 6 |
Uranium (U) ウラン | Orthorhombic | 19100 | 6 |
Iridium (Ir) イリジウム | fcc | 22500 | 6.5 |
Silicon (Si) ケイ素 | ダイヤモンド型 | 2329 | 6.5 |
クォーツ(石英・水晶) | 三方晶系・六方晶系 | 2700 | 7 |
Tungsten (W) タングステン | bcc | 19300 | 7.5 |
Chromium (Cr) クロム | bcc | 7150 | 8.5 |
あずきバー | 参考アイテム | - | 9 |
Boron (B) ホウ素 | 複雑な結晶 | 2080 | 9.5–near 10 |
ダイヤモンド | 等軸晶系 | 3515 | 10 |
…まぁ「あずきバー」だけは僕が勝手に足したやつですけど(笑)、とりあえずそれは置いておいて、軟らかい金属といえば僕は上述の通りナトリウムが「驚きのヤワさ」の印象だったんですけど、なんと、カリウム・セシウム・ルビジウムという、周期表でいう第1族の、リチウム・ナトリウムより下にいるやつらが、まさかのもっと軟らかい3バカ金属として存在しているようで、その硬さ(ヤワさ)、なんとバター並み!
こんなもん手で千切れるわ、雑魚すぎワロタ(笑)…って感じですけど、当たり前ですが、1族元素単体の反応性の高さを舐めてもらっては困る…という話で、素手で掴んだら一発で焼けただれることになるため、どうか道端に金属カリウムが転がっていても、人間様の強さを誇示すべく素手での破壊などは試みないようにご注意ください(しねーよ、っていうか転がってねーよ(笑))。
そしてリチウムとナトリウムは、どちらももう少し硬い、ロウソクのロウレベルだということで、でもまぁやはりナイフでスパスパ切れるレベルでは間違いなくある感じですね。
ここまでどれも結晶構造はbcc、例の密ではない、スカスカ構造の結晶なので、やっぱ体心って雑魚だわ……と思いきや、まさかの金属界最硬の元素・タングステンとクロム様もbcc!
意外や意外、体心立方格子でも硬いやつは硬いということで、やっぱり結晶構造と密度に完全なる関連性がなかったのと同様、結晶構造と硬度にもそんなに関係はないといえそうですね。
スカスカだと結晶の位置がズレて傷がつきそうな気もするのに、意外なものです(まぁミクロのレベルの構造と、マクロなレベルの物理的衝撃にはあまり関係ないのも当然かもですが)。
そして面白いのが、金や銀はなんと爪と同等の硬度 (2.5)だということで、まぁ爪を引っ掻いて爪に傷をつけるのは難しいため、同等の硬度のものなら傷をつけられるというわけでは決してないものの、頑張れば金とか銀って、爪で削れちゃうレベルの硬さでしかないんですね。
一方、銅 (2.5-3) や 鉄 (4) はこいつらよりは硬いですけど、歯の表面本体 (5) よりもヤワな物質だということで、案外金属ってザコい…?(笑)
まぁ鉄に関しては、現実世界で素材や部品として使われるのは「鉄鋼」がメインで、この「ハガネ」ってのは鉄に炭素を混ぜたものになるわけですけど、こちらの方が硬度はアップする感じですね。
「てつのよろい」より「はがねのよろい」の方が高価で強いのはドラクエの常識といえましょう。
その辺の話は、もう残り時間的にも諦めた「温度と硬度の関係」に関するネタと絡め、また次回見ていこうかなと思います。
(ついでに、「あずきバー」という謎の物質(知ってるっつーの(笑))も、出すだけ出して何やねんって話ですが、次回持ち越しとさせていただきましょう。)
そして表を順に見ていくと、ガラス (5.5) はやっぱり歯よりも硬い物質で、まぁそれはイメージ通りですね。
そしてそして、前回も軽く触れていたみんな大好きタイタニウムことチタンは、やっぱりガラスよりも硬いモース硬度6を誇るということで、ガラスごときには負けない金属もちゃんといてくれて何よりでした。
しかし、チタンよりも硬い物質に、前回No. 2ヘビー元素として出てきていたイリジウムと、さらにそれと同ランクで、金属ではない単体元素、まさかのシリコンことケイ素が6.5で登場してきていましたねぇ~。
まぁでもケイ素は「半金属」と言われるぐらい、金属と非金属の性質を併せ持ったもので、そもそもガラスってのは主に二酸化ケイ素からできているものですし、炭素と同様、四本腕で複雑な構造を取れる物質ですから、カチッと並んで硬い構造を取れるのも納得といえましょう。
ちなみにその下にあるクォーツ (7) は、これも二酸化ケイ素の結晶で、やや不規則な結晶構造を取るガラスに比べて(とはいえガラスというのは不思議なもので、未だに構造がはっきりとは断定できておらず、複数の学説がある……とガラスのWikipedia記事にも掲載されていました)、こちらは規則正しい結晶構造を取る(生成時の温度によって、三方晶・六方晶と異なる…より硬いのは六方晶のようですね)のが特徴といえそうです。
そしてクォーツよりもさらにカチコチなものに、硬い金属代表・タングステン (7.5) とクロム (8.5) がいるわけですが、タングステンは前回チラッと見ていた通り密度も重量級(金ゴールドと同等……↓のウィ記事に、「比重が金(Au)に近いため、金の延べ板の偽造に用いられた事例が有る」という面白い記述もありますね)、そして硬さも最ハード級、さらには元素記号も、アミノ酸で一番大きいトリプトファンの一文字略記と同じ「W」と、何とも硬派な金属な印象があります。
今回のアイキャッチ画像は、ナンバーワン硬度ではなかったものの、そのタングステン先生をお借りさせていただきましょう。
しかし、しばしば硬い金属の代表として挙げられることもあるタングステンですが、何気にナンバーワンはクロムなんですね!
クロムは、もうずーっと前ですが「ミネラル」の記事(↓)で画像をお借りしたことがあったため(アイキャッチではなかったものの)、Wikipedia記事はリンクカードのみの引用としましょうか。
そう、クロムというのは、↑の記事にある通り、「酸化状態によってさまざまな色を呈することからギリシャ語のχρωμα(chrōma、色)にちなんでルネ=ジュスト・アユイにより命名された」ということで、ズバリ「色」を表す名前になっているわけですけど(「モノクローム」は、Mono=「単一の」という接頭辞と合わせて「白黒」って意味ですね)、それは主に化合物によって出る色で、単体の金属は普通にこういう(↑)いかにもなメタルですけど、まさに「傷つかない!」かつ「とても高級感のあるシックな金属光沢を呈する」ことから、クロムメッキなんかでよく使われる感じですね。
クロムメッキのミニ四駆とか、いやぁ少年時代は憧れたものです…って画像付きで書こうと思ったら、既に↑のミネラル記事で全く同じこと触れてました(笑)。
まぁそんなわけで金属で最も傷がつきにくいのはクロムという結果になりましたが、とはいえそれは金属元素単体での値で、「鉄とハガネ」の関係同様、合金にすればもうちょい強い物質は作れるみたいですけど(表では省略しましたが、硬度9に炭化タングステンなど)、何気にあらゆる合金よりもさらに硬い単元素の物質が、まさかのまさか存在していました。
それがホウ素で、「水兵リーベー僕の船」の「ぼ」になるわけですけど、こちらも実は半金属と呼ばれるグループであり…
↑のサムネ画像からも分かる通り、極めて硬いけれど極めて脆いのが特徴のようで、クロムのような実用性のある硬い物質ではない感じのようですね。
とはいえ結局、「この世で最も硬い物質」は誰しもご存じの通りダイヤモンドになるわけですけど(そもそものモース硬度は0-10の値で表されるもので、ダイヤモンドにその最高値10が既に割り当てられているため)、他にもっと硬いものはないのでしょうか…?
軽く検索してみたら、2週間前にアップされていたサイエンス系記事が見つかったので軽く見てみた所……
…UCLAのマテリアル化学研究系の教授・Richard Kanerさんによると「ほとんどの実用的な目的においては、ダイヤモンドが依然として最も硬い素材である」とのことですね。
ただ、研究レベルの話でいえば、天然では極めて微小にしか存在しないかつ大規模合成もまだできていないものとして、ロンズデーライトというものが知られており……
…何となくどっかで名前を聞いたことある気もしますけど、ダイヤモンドよりも1.6倍程度硬いと推測されている(実測できるほどは得られないということでしょうか)、って感じのようですが、これも結局、上記サムネ画像から分かる通り、ダイヤと同じく炭素の結晶でしかないようです。
結局、金属よりも我々生命体を作る炭素、つまり有機物の方が無限の可能性があるということで、炭素というのは体になったりダイヤになったり本当に素晴らしい元素ですね…というこれまた浅い結論で、時間切れとなったため続きの温度うんぬんの話は次回とさせていただきましょう。