90℃の熱湯は大ヤケドなのに、90℃のサウナが平気なのは…?

前回は各種「水」が気体になったり液体になったり微妙な領域(あるいは固体も)の気象用語の英語を唐突に見ていましたが、それはまぁ番外編で終わったとして、他にも湿度やら霧やらの話を書いていた際に、「あぁこの話も有名所だけど、考えてみたら(というか知らなかったら)意外と不思議なやつだね」と思えたネタがふと頭に浮かんだため、今回はそちらに触れてみようと思います。

 

それがズバリ、記事タイトルにもしました、

「熱湯だと90℃どころか50℃でもヤケドの可能性があるのに、サウナは90℃とか下手したら100℃以上の空間ですら平気で長いこと居続けられるのはなぜなんだろう?」

…ってポイントですね。

 

まぁ結論からいうと、これはズバリ、「サウナは湿度がかなり低く設定されているから」という話に尽きる感じだといえましょう。

 

結局熱というのは「分子の運動の激しさ」を表したものであり、手を高速で擦り合わせたら熱が生まれて温かくなるのと基本的には似たような話で、激しく振動や回転をしている分子に触れると、その分子の運動エネルギーが触れた相手に伝わる…という仕組みにこの世界はなっていまして、これはつまり言い換えると、より激しく動いている分子から成る物体=より熱を持つ物体に触れると、その振動が自分に伝わってくる結果、「熱い!」と感じる…という形になっているわけです。

(逆に、冷たいものに触れれば、自分の手の細胞を形成する分子の振動が、より振動レベルの小さい分子(=冷たいものを形成する分子)に奪われてしまい、自分の体の分子の振動が小さくなる=熱が弱くなることから、「冷たい!」と感じるわけですね。)

 

以上を踏まえて熱湯とサウナを比較してみますと、まずサウナの方は、もちろん一口にサウナといっても色々あるものの、まぁ我々が「サウナ」と聞いて一番に思い浮かべるのは、100℃とかの高温にまで温度を上げるいわゆる乾式サウナになると思いますが、こちらは以下のWikiP記事などによると…

ja.wikipedia.org

大体湿度は10%程度という、真夏の外気の湿度80%とかそういうのに比べると、かなり低い湿度になってるわけですね。

 

…とはいっても、サウナに入ると、「乾燥してんなぁ~!」という感想(クソウマギャグ)は全く抱かず、むしろ「ムワッ」とした空気を感じることが多いように思えるのですが、これは当然それもそのはず……

ここ最近の記事(↓の湿度記事などですね)で何度か見ていた通り、高温になると、その空間が含むことのできる気体の水の量が著しく増加していくため、湿度というのはその「限界量」からの割合のことでしたから、「10%」といえども、結構な水分が気体としてその空間には存在していることになるからなんですね。

con-cats.hatenablog.com

↑の記事で引っ張っていた蒸気圧曲線は39℃までしか載っていなかったので、もう少し高温のデータを調べてみたところ、立正大学の中川清隆さんが公開されている、温度を入力するだけでその温度での飽和水蒸気圧&水蒸気量が一発で表示されるという便利な計算機が見つかりました(↓)。

 

es.ris.ac.jp

早速ここに「100℃」と入力してみた所、100℃の空間における飽和水蒸気量は「594.51 g/m3」だそうで、39℃の飽和水蒸気量の方をチェックしてみたら「48.6 g/m3」でしたから、なんと、39℃というとろけそうな日の湿度100%よりも、「100℃の湿度10%」の方が、何気に遥かに大量の気体水分子が空間中に存在していることになるんですね!

 

よって、「湿度10%」といってもそこまで乾燥カラッカラという感じはなく、絶対的な水分量は結構なものがあるので、どこかモワッとした空気になっているのがサウナだといえましょう。

(とはいえ、その空間では水分子はまだまだその10倍も気体として存在可能なので、まとわりつくような蒸し蒸し感も一切なく、基本的にタオルや汗などの水は容易に蒸発する感じなわけですね。)

 

で、問題の「なぜサウナは平気なのか」については、それなりの量の気体の水分子が存在しているとはいえ、「液体」と比べると分子の量が天と地ほどの差がある、というのがその理由といえまして……

具体的に見てみると、「100℃の湿度10%」は、1立方メートルに59.451グラムの水分子が存在することになるわけですけど、1立方メートルってのは体積でいうと1000リットルですからね、液体の水でいえば、ズバリ1000 kg、まさかの1トンも水分子が存在するってことですから、これは桁違いにも程があります!

 

つまり、「90℃の威力で振動している分子」が、空気中からは(以下の話では、単位を分かりやすく「個」にしているだけで、実際は「個」ではなく、全く適当極まりない、あくまで「例え話」ですが)59個の分子が身体にヒットしてくるという感じで、これはまあまあ、熱いけどたまに当たってくるぐらいなのでそれぐらいなら全然耐えられる一方……

90℃の水中に身体を突っ込むと、まさかの100万個の「スーパーアチアチ分子」が身体に全力突撃してくるわけで、これは触れた皮膚があまりの熱エネルギー弾を食らいまくって一瞬で焼けただれて再起不能(重度のヤケド…を通り越して、90℃の熱湯だと、浸かっただけで人間は普通に死にますね)になってしまう……というのは、数字の違いからももう明らかに納得いくものだといえましょう。

 

結局は液体と気体の、空間中に含まれる分子密度の圧倒的な差が、「熱の伝搬効率」の差となり、同じ高温でも「その場にいられるかどうか」を決定している、というそれだけの話でした。

 

この辺の話、面白いのは、90℃だと液体は命に関わる一方、気体は(気体中の分子が少ない=湿度が小さいという条件付きですが)サウナのように、喜んで入る人まで大勢いるぐらいといえるというのに……

温度を下げて見てやると、例えば32℃なんかを考えてみますと、まさに最近の日本列島は連日ちょっとそれを超えているレベルですが、32℃の気温なんて真夏日でうだるような暑さである一方、32℃のお風呂とかだと、「ぬっっっる!!」と思える物足りなさを感じるんですよね。


とはいえこれは結局、我々の基準は体温=37℃弱であり、それより低い温度だと、水の方がその違い(体温より低いこと)に敏感になる、って話になっているだけだといえましょう。

 

…でも、そういえばよく考えてみると、32℃って体温より随分低いのに、なぜ我々は「あっちぃー」と感じるのか……?

 

これは難しい問ですね。

 

32℃ではなかった気もするものの、これに関しては今ふと、似たようなことを自由研究的に調べあげて、コンクールで最高の賞を受賞していた中学生のグループによるレポートが、ずーっと昔にまとめサイトで話題になっていたのを思い出しました。

 

検索したら、余裕で出て来ましたね、改めて読んでも、これは本当に面白くて素晴らしい研究レポートに思えます!

 

www.shizecon.net

詳しくはこの傑作レポートの方をぜひご覧いただきたいですが、この辺の話は大人が考えてもパッとは理由が分からないもので(実際僕も詳しくは分かりません。主観にもよるものですし、絶対的な結論は出しにくい話かと思います)、逆にそれだからこそ、中学生たちの面白い考察が光る話だといえましょう。

 

この記事を目にしたの、そんなに昔でもなかったと思いますが、実際のコンテストは2002年のものだったんですね!

 

僕が見たのは絶対にそんなに前ではないので、多分ネットで話題になったのはそれよりずっと後のことだったんじゃないかな、と思いますが、いずれにせよ、これは恐らくこの自然科学観察コンクールの最高傑作レポートの1つな気がします。

大変説得力のある考察ですね!

 

…と、あとは関連して、「風呂・サウナ・気温」以外に、「飲み物」も他の行為とは体感が全然違って面白いですよね、って話も書こうと思いましたが、時間不足につき……

…ってまぁ一瞬で終わる話なので最後触れてしまうと、お風呂は42℃とかを超えるともう入れないぐらいに熱いわけですけど、コーヒーとかは、適切な飲み頃は70℃弱程度なんて言われてるんですよね~。

 

(参考:UCCの記事など↓)

mystyle.ucc.co.jp

この差はもちろん、口の中の粘膜は、皮膚よりも熱に強いように作られているから、ってのがその結論になると思いますけど、お風呂として入るなんて論外どころか、70℃なんて一瞬手で触るのもきついのに、冷静に考えたら口内の強さは結構なものですね。

 

ちなみに、僕は大腸菌などを撒くための培地プレートを作る際、まず寒天をオートクレーブという圧力釜で滅菌&液状に溶融→シャーレに撒いて、冷えたら固まって固形培地に…って流れですけど、プレートには抗生物質を入れることもままあるのですが、もちろん完全に冷えて固まってしまう前に加える必要がある一方、培地が熱すぎると抗生物質が分解してしまうので、ちょうどいい加減にちょっと冷ます必要があるのです。

 

大体50℃ぐらいになったら抗生物質をペッと入れてやることが多いですけど、学生の頃先輩に教わった話として、素手で培地の入ってるフラスコを触って、10秒我慢できるぐらいが50℃だよ、ってのが今でも役に立つ便利な判別法となっています。


確か60℃が、一瞬なら我慢して触れるけど、すぐに限界、70℃にいくと、「アチッ!」と反射レベルで一瞬で手を離してしまうレベル…だったと思いますが、そう考えると手では触れないほど熱いぐらいの温度がコーヒーだと飲み頃ということで、同じ自分の体でも、部位によって感じ方は違って面白いなぁ、という話でした。

 

なお、50℃は10秒以上我慢できますけど、実際は低温やけどを誘発するレベルの温度ですね。

(「低温やけど」って勘違いしがちですが、氷みたいな超冷たいものを触り続けて肌に異常が出てしまうことではなく、大体45-50℃のものを長時間触って発症することを指す言葉なので要注意かもしれません。)

 

…といったところで、今回はサウナの話でした。

アイキャッチ画像も、適当にサウナのいらすとをお借りしましょう。

実は湿度関連ではもう1つ脱線ネタを思いついていたので、次回はそちらに逸れてみようと思っています。

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