続・英作文で使える便利なつなぎ言葉のまとめ・注意点:thus, thereby, hence編

論文やビジネスレターなど、割とお堅めな英作文で使える「つなぎ言葉」として、前回は「therefore」に触れていました。

主にマーク・ピーターセンさんの名著の解説を勝手にご紹介させてもらっていたわけですが、前回引用しようと思って忘れていた文があったのでそちらも引っ張らせていただくと、

また、日本語で書かれた論文に見られる因果関係を示す表現の中では、「従って、~」という言い回しの使用頻度が特に高い気がします。まるでこれを使わないと論文を書いた気持ちにならないかのような印象を受けるほどです。従って(※注:実際は傍点で強調)、日本人の書いた英語論文にも、……

…という、非常にウィットに富んだ流れの逸文とともに(以前も書きましたが、マークさんは日本語非ネイティブでありながら、書籍の全文をご自身で(もちろん日本語で)直接執筆されているという凄まじさです)、「日本人というものは『従って…』と書き始めないと気が済まないのだろうか?」という、「その通りでござい(笑)」と認めざるを得ない鋭すぎる着眼点に笑ってしまいましたけど、我々日本人のその悪癖から生じる英文つなぎ言葉の筆頭「Therefore, ...」という表現は、基本的に一考の余地があることが多い……というのが前回のまとめですね。


ポイントとしては、「Therefore, ...」が導く因果関係は、そこで出す話以外の可能性を一切認めないほど強固なものであるけれど、現実的には多くの場合2つの文がそれほど「したがって」いないことがしばしばあるため注意を要する……って話だったわけですが、ではそれほど「したがって」いない場合はどうすればいいのでしょうか?


もちろん実際の文の流れ・論理関係次第のケースバイケースの話ではあるわけですけど、基本的に僕が学生のレポートや作文を添削する際は「thus」に置き換えることが多い気がします。


例えば、「これこれこのような結果が得られた。したがって、これこれといった可能性が考えられる。」というような流れの文の場合、これはまさに「それ以外の可能性」も普通、理論上はあり得るわけで、例によって論理のつながりが「therefore」でつなぐほどには強くないといえるわけですね。

こういった、いわば「○○である。よって、××といえよう」程度の緩いつながりであれば、「かように」「こうして」「だから」というニュアンスの「thus」の方が、少なくとも「therefore」よりは適切である場面が多いように思います。

(改めて、文脈次第なので必ず上手くいくとも限らないわけですが、不適切に使われているthereforeの置き換えとしてまずそれを考えてみる価値がある…ぐらいには思える感じですね。)


これと非常によく似た単語として「thereby」があるわけですが、もちろんこれも(やや古めかしい響きはあるものの)英語論文では大変重宝される便利なつなぎ言葉ではあるんですけれども、こちらは「thus」とは違い、文頭で用いることができないという特徴があるため、使い方にやや注意が必要といえる単語でしょうか。

(またまたLSDコーパスで検索してみたところ、一応、たったの1件だけ文頭のコンマ付きで「Thereby, ...」としている文章が見つかったのですが、こちらはブラジルの研究者による論文であり、まぁ誤用とまでは言えないものの、英語ネイティブであれば、この単語を文頭単独コンマ付きで使うことは決してしないであろう…と断言して構わないように思います。)

LSDコーパスでの「thereby」検索結果

(上記例文1番の論文がこちら(↓)…)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

thusとtherebyの微妙な違い含め、マークさんがまたしてもこれらの語の秀逸な解説をしてくれていたので(例によって引用しすぎな気もするものの…)、またポイントを抜粋してご紹介させていただきましょう。

前回同様『日本人の英語』に、まさしく「therebyとthus」という小題の節がありました。こちらの節からの(一部例文は省略して)引用ですね。

 

therebyとthus

ところで、therebyという言葉は語感として、学術論文にとてもふさわしい表現で、そのためならばぜひすすめたいと思う。本来の意味の"by way of that place"(「その辺を経由して」あるいは「そのルールでやってきて」)という点からみれば、「それによって」あるいは「そうしたために」という現在の意味はわかりやすいと思う。

(※例文一つ省略)


それと同じように、科学論文に

  • We increased the temperature of the solution by 4℃, thereby eliminating any danger of freezing.
    (その溶液の温度を4℃だけあげたことによって、凍結の危険を除いた。)

というような"thereby"はよくみかける。科学論文には、同じところにthusもよくみかけるが、それはtherebyのニュアンスとは少し違う。つまり、

  • We increased the temperature of the solution by 4℃, thus eliminating any danger of freezing.

にしても、基本的な意味は変わらないが、二つの例文を比べれば、印象は同じとはいえない。すなわち、therebyは"by this specific action"(この特定の行為によって)という感じが強いけれども、thusはそれより"in this general way"(このようにして、こうして)のような感じの方が強い。極端にいえば、

  • We increased the temperature of the solution by 4℃, thus eliminating any danger of freezing.

を日本語に直すとすると「…したことによって…」というより、「溶液の温度を4℃まであげた。このように(あるいは「よって」、「そういうふうにして」など)、われわれは凍結の危険を除いた。」

にした方が、そのニュアンスの違いが正確に伝えられるであろう。


しかしtherebyとthusは、両方ともかっちりした英文に非常に大切な表現である。次のように使えばよい。

  • The university has decided to add an aural comprehension section to the English entrance examination, thereby attempting to attract students with more practical language ability. Thus, applicants who have actual experience living in English speaking countires may be expected to have a special advantage.(その大学は英語の入試にヒアリングを加えることにし、それによって、より実際に使える英語力をもった学生をひきつけようとした。英語圏で実際に暮らしたことのある受験生はこうして特に有利になることが考えられる。)


また、上の"thus"を入れる場所として、

  • Applicants who have actual experience living in English speaking countires may thus be expected to have a special advantage.

にした方が、著者が文章に慣れているような印象を与える。

 

かなり微妙なニュアンスを説明してくれており、言われてみれば何となく理解はできるものの、正味な話、この区別は毎度そこまで厳密に意識できるほどでもなく、個人的には「さっきtherebyを使ってしまったから、今回はthusにしよう」とかそのぐらいの意識で若干ランダムな採用(もちろん、より合っている方に適切な語をチョイスしようとはしますが)をしているといえるかもしれません。


しかしいずれにせよポイントとしては、最後の例文にあった通り、「thus」は文頭で用いることが可能だ、ってことが挙げられましょう。


もちろん、最後の最後で触れられていた通り(そして前回もチラッと似たようなことを書いていた通り)、この語の挿入場所として、文頭より文の途中に入れた方が小慣れている感じがするとはいえるわけですが、こちらは普通に文頭での使用も全く問題なく見かける感じですね。

 

コーパス検索で1語前ソートをしてみたら明らかな通り…

LSDコーパスでの「thus」検索結果

まだまだ下に「文頭のThus」の例文は続き、(LSDコーパスの場合、件数は表示する数次第なんですが、何件表示で検索しても)ちょうど半分ぐらいが文頭での利用になっていました。

そして、この単語については、コンマで区切る方が普通だといえる感じですね。

 

もちろん文中に置いた方が小慣れて洗練された英文になるとはいえ、(これは僕が英語話者ではないからかもしれませんが)正直文頭にドーンと置いてコンマで区切った方が意味としては極めて分かりやすいですし、「Therefore, ...」とは違い、僕は文頭「Thus, ...」で始める文は、それなりに使っているような気がします。


論理的なつながりもthereforeほど厳密・緊密ではないですし、困ったらとりあえず「Thus」で始めてみるのでもいいんじゃないかな、と思えるぐらいかもしれません。

(もちろん、後で読み直して、「ここはしつこい。ここはちょっとthusではなかったな」という感じで消えるものも大いにあるわけですけど、「ってことで」「こういったことから…」みたいな適当な緩いつなぎ言葉として、詰まったらひとまずこいつを置いてみるようにすれば、英文を紡いでいくのが多少容易に感じられるのではないか、って気もしますね。)

 

一方、thusやtherebyとほぼ同じ感覚で使えながら、さらに「お堅い」雰囲気を持った単語に、「hence」なんてのもありますね。

これ、僕の学生時代の指導教官がよく使っていた単語で、論文を直してもらった際に、当時は訳も分からず使いまくってしまっていた「Therefore, ...」などの単語が修正されてこのhenceに置き換わっていることがままあったのですが、「hence、何語だよ(笑)。先生hence好きすぎだろ(笑)」とか思っていたのを今でもよく覚えています。

 

とはいえ改めて考えてみると、この単語はやっぱり単語の雰囲気も意味も論文なんかにピッタリといえまして、僕もまあまあ実際に論文を書く際は使っている感じですね(未だに、「(学生の頃の)○○先生が書いてるみてぇだな(笑)」と思えますが(笑))。


ちなみに、大変似た用語であるため、先ほど引用したマーク本の次の行は新しい節に入る形で、『論文にふさわしいhence』というタイトルの、この章の最後を飾る段落になっていました。

流石にたくさん引用しすぎなのでこの段落の解説文はもう具体的に引っ張りませんが、この単語はまさに説明として挙げられていた「for this reason」という意味の、「こういった理由から」「そんなわけで」「それゆえに」という、これまたボンヤリと緩い感じでつなぎたいときに日本語だと汎用されるつなぎ言葉にピタリの表現なんですね。

 

マーク本の例文の代わりに、こちらもLSD検索で、どんな感じで使われているのかを見ておきましょう。

LSDコーパスでの「hence」検索結果

まさにこの通り、文頭で「Hence, ...」(まぁ日本語なら「したがって、…」と言って差し支えない意味ですね)とされることもあれば、文中で「and hence...」と使われることもある、という感じです。

 

より細かい使い方に関してもまとめておくと、thusもそうだったわけですが、これ自体は接続詞ではないため、同じ1つの文の中で、文と文(ややこしいですが、主語と動詞のある、文法的に完全な「文」のことですね)をつなぐことは絶対にできません。


接続詞であるandやbecauseは、このように…

  • I forgot my wallet and I have only 310 yen.
  • Because I forgot my wallet, I have only 310 yen.

と、主語と動詞のある「文」を2つ接続することができるわけですが、thusやhenceはダメなんですね。

  • (×)I forgot my wallet, thus I have only 310 yen.
  • (×)I forgot my wallet, hence I have only 310 yen.


これらは、1つの文で両者をつなぎたい場合、接続詞「and」の力を借りる必要がありますし、あるいは2つの独立した文に分けて、それをつなぐ形にすれば、全く何の問題もなくなります(2つの文に分けてしまうと間違いになるbecauseとは真逆ということですね)。

  • (OK)I forgot my wallet, and thus I have only 310 yen.
  • (OK)I forgot my wallet. Thus, I have only 310 yen.
    (財布を忘れた。よって、310円しかない。)

あるいは、ピリオドで完全に分けなくても、もうちょい区切り力の強いセミコロンで分ければ、これも文法的に正しい表記となります。

  • (OK)I forgot my wallet; thus, I have only 310 yen.

(henceの方は、本当に格調高い単語ですから、文法的に正しい形であっても、こんないかにも日常会話っぽいしょうもない話には、語感が正直合っていなさすぎておかしいといえるかもしれません。まぁそんなこと言ったら、thusもかなり堅すぎて、会話ではまず聞かないとはいえるわけですが…。)

 

ちなみに、上の方で引用していたマーク本で紹介されていた例文は、(最後の「文頭のThus」を除き)andがないのに続く単語たちをつなげていたように見えるわけですけど、これは、主語動詞の備わった「文」ではなく、分詞というただの修飾語みたいなものがつながっていただけなんですね。

文法解説はお呼びではないので詳しい説明は省くものの、このいわゆる分詞構文を副詞句として用いるスタイルも、非常~に英語っぽい表現で、使いこなせるとめちゃくちゃ洗練された英語らしい文章になるわけですが、案外難しく、適当に使うと誤用になることもままあるので、オススメしない……わけでは決してないものの、訓練が必要な表現法といえるかもしれません。

 

…といった所で、これ系の単語のまとめは今回で終わらせようと思っていたのですが、案外大したことなさそうなthus達も結構なボリュームになってしまいました。

(ほとんどがマークさんの本の引用で、ただのパクリくさいですが(笑))

 

これ系の単語、もう1グループぐらい触れておこうと思うので、次回で完結編ですね。

正直完全に書き言葉(かつ、論文みたいなフォーマル系)に特化した話で、会話ではマジで一切どうでもいい(というかほとんど顔を出さない)話、かつ割と細かすぎる話になってしまっていますが、まぁもしかしたら今後より国際化も進みどなたも英文を書くことはあるかもしれないので、知っておくと得するかもしれないネタとでも思って大目に見ていただければ幸いに存じます。

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