分かりにくかった点の補足その2(バラバラ→ペタペタのサイクルを繰り返すよ、他)

前回の補足の最後、dNTPとかヌクレオシドヌクレオチドとかの点、相変わらず書いてて「言葉だけでは回りくどい!これは分かりづらい!!」と思っていたので、補足の補足で、最初に分かりやすい図だけ載せておくとしましょう。

これまでA(アデニン)、C(シトシン)、T(チミン)の構造の図は貼ったことがあったと思うので、今回はG(グアニン)の含まれるヌクレオチドで例示してみます。

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GTPの図は、Wikipediaより

完璧…!

この図を載せれば一発で済む話を、前回うだうだと書いていたのでした。
(dNTPは、正確には「デオキシリボヌクレオシド三リン酸」だけど、リボは省略されることも多いし、ヌクレオド三リン酸と書いても「ヌクレオチド(既にリン酸1つを含んだ用語)+さらにリン酸3つ」とはならないので、普通にデオキシヌクレオチド三リン酸と書いてもいいと思う……的なことは言葉で説明する必要があった感じですが、まぁまたグダグダとなりそうなのでやめておきましょう。)

塩基の部分がAならATPだし、塩基がCでリボースの2'-OHから酸素がなくなったらdCTPだし、塩基がTで酸素が2つなくなったらddTTP…と、そういうことですね(4種類まとめて言及したいときは、NTP・dNTP・ddNTPという感じ)。

ややこしいけど、整理できれば意外と単純かと思います。


では、Q&Aに戻りましょう。

Q5. 「DNA合成反応で、伸びるものもあれば止まるものもある感じに落ち着く、dNTP/ddNTPの絶妙なバランス」というのは、確率的なことを計算して…って感じなのか?具体的には、どういう比?

A5. 最初にこの実験を立ち上げた人(サンガーさん?)は色々試行錯誤して、計算なりして条件検討をしたんだと思いますが、多分、プライマーが大過剰量あるので、結局何だかんだどんな比だろうと、よっぽど極端な量比じゃない限り、もう絶対全部の場所で止まる断片ができるのは確定してる、って感じではあると思うんですけどね。

実際の割合に関しては、企業が「シーケンシング反応用・dNTP/蛍光ddNTPミックス」という形で売ってるものをそのまま使うだけなので(…どころか、最近はそもそも反応から何から外注することがほとんどですし)、詳しい数字については実は全く分からないんですけど(企業秘密)、多分、企業側で最もシグナルが良くなるように研究され尽くした比率になっているんだと思います。

詳細は不明ではあるものの、確実に1塩基ずつ、1000塩基程度にわたって全塩基で確かに蛍光ddNTPが取り込まれているというのは、現実的に読まれたシークエンス結果(こないだ貼ったピークレポート。キレイな1塩基ずつのピークが、最後まで続きます)を見れば明らかな感じですね。

(一応、検索したら出てきた大学の講義用の資料によると、dNTP:ddNTP=10:1300:1ぐらいの割合がベストである(読みたい長さや、反応条件・使う酵素などによって多少の違いがある)とのことですね。
 これ以上ddNTPが多いとすぐ止まりすぎて先の方が全然読めない、少ないと逆に止まるものがいなさすぎて、シグナルが弱すぎで読めなくなる、という感じでしょう。)

Q6. 15兆ものプライマーを入れたら、最終的に余っちゃうこともあるのでは?くっつけずに終わるか、くっついてもddNTPが取り込まれずに終わってしまうものもある…?そもそも、やめ時はわかるのか?「よし、1000個(1000種類)完了!」みたいなのが目で見てわかる…なんてことはないだろうし……

A6. もちろん反応を終えて「さぁ読もう!」となった時点で、まだ使われずに余っているプライマーは大量にあるでしょうし、たまたま1000塩基以上ずーっとddNTPが取り込まれず延々と伸び続けるやつなんかも中にはいることでしょう。

でも、そういうやつらがいた所で、別に何も問題はないんですね。

ゲル(キャピラリー)に流して、シグナルとして十分読める量の蛍光断片が存在していれば、それだけでOKなわけです。
(=蛍光がついていないやつは、いようがいまいが何も検出されないので、全くどうでもいい。
 もちろん、蛍光付きddNTPの方も、DNA伸長に使われずそのままddNTP1分子がフリーの形のまま存在しているやつも恐らく反応終了後まだ残っているわけですが、結局キャピラリーではサイズに応じて順番に検出されていくので、そんな小さいやつは仮に残っていても一番最初にすぐ流されていなくなるので、これも結局検出の邪魔にはなりません。)

やめ時については、これももう経験上、大体どのぐらい反応させるかが決まってる、って感じです。

そのために、反応に加えるDNAの量が(読みたいDNAも、プライマーも、ヌクレオチドミックスも)指定されているわけで、指示通りの量を加えて、指示通りの時間反応を行えば、それでおしまいというかそれで完璧で、やめ時についてあれこれ自分で悩む必要は皆無という感じなわけですね(改めて、企業側が「この通りにすれば完璧です」という手順を確立してくれているので、我々はそれに従うだけということです)。

(また、もちろん、反応を繰り返せば繰り返すほど反応産物が増えるため当然シグナルは強くなるわけですが(詳しくは次のQ7で)、別にシグナルがピークとして読めればそれで十分なので、不必要に何度も何度も反応させる意味もない感じですね。
 DNA合成酵素も、100%エラーが絶対ないわけではないですから、繰り返せば繰り返すほどエラーの確率も高くなるという懸念があるといえます。
 「せっかく入れた材料がもったいない…」みたいにやめ時を逸するといいいますか、なるべくたくさん反応させたい気もまぁしないではないんですけど、いわれた通りに反応を終えれば十分なシグナルは見れますし、限界まで反応を進めても別にいいことはないので、適当な所で、まだ材料が余ってたりシグナルが強くなる余地があっても、ほどよい所で終える……シークエンスに限らず、何事でもそういう「ほどほど」がスマートな態度かもしれませんね。)


Q7. プライマーは過剰量加えるということだが、読みたいDNAもたくさん必要なのか?それとも、2本のDNAは温めたら外れて1本ずつになるってことなら、青字のやつ(読みたいDNAの相棒鎖)は再利用されるということ…?

A7. この点、前々回の記事の時点でいただいていたご質問ですが、ちょうどその「めちゃくちゃ分かりやすい図での解説」で、完全に抜け落ちてしまっている点でしたね!

素晴らしいご質問ありがとうございます。

まずはこないだの図を再掲しておきましょう。

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プライマーは大過剰量(15兆本)加えるということでしたが、読みたいDNAは、それに比べると圧倒的に少ない数しか存在しません。
(だから、「加熱して、DNAを一本鎖ずつに分ける→冷却して、二本鎖を再形成!」というプロセスを経たら、圧倒的な数存在するプライマーが青い鎖と優先して「部分的二本鎖」(上図のような形)を形成できる、という話なわけですね。)

…と、それを踏まえると、例えば読みたいDNA(これも、新しい言葉を出すのも何か気が引けたので今まで出していませんでしたが、「鋳型DNA」とか、「テンプレートDNA」と呼ばれます。まぁ別に専門用語じゃないですし、以後テンプレートと呼ばせていただきましょう)が数十万分子あったとしたら……って、また適当な数をでっち上げて話を進めるより、ちゃんと見ておいた方がいいですね。

前回紹介させていただいたGENEWIZのサンプル送付ガイドラインによると、テンプレートDNAは、「500 ng(ナノグラム)加えてください」ということでした。

DNAの重さと個数の関係(1分子あたりの重さ)は、当然DNAの長さによって変わるわけですけど、こちら大手試薬会社NEBの参考情報を引っ張ると、4361塩基対のプラスミドが、1マイクログラム(=1000ナノグラム)で0.35 pmol = 2.1 × 1011 分子になる、という関係のようです。

つまり、大体似たような大きさのpET-15bなら、500 ngでおおよそ10の11乗分子=1000億個の分子ということで、案外テンプレートDNAもめちゃくちゃ多いっちゃあ多く存在している感じですね(でも、15兆と比べたら、文字通り桁違いの少なさです)。


ともかく、そんなわけで、プライマーが15兆分子あるのに、テンプレートは1000億分子しかないという関係ですから、加熱→冷却で、仮に全てのテンプレートDNAにプライマーが結合したとしても、わずか1000億本のプライマーしか伸長することができないんですね。

そうすると、「残り14兆9000億本はどーなる!たったそれしか反応できないなら、意味なさすぎじゃねーか!!」と思われるかもしれないんですけど、これはズバリ、「プライマーの伸長を終えたら、また加熱してバラバラにする」という、加熱→冷却サイクルを繰り返すという話になるのでした。

実はこれは偉大なるPCRという、最近話題になることも多い技術が開発されたときに生み出されたテクニックで、以前書いていた通りPCRについてはまたいずれ詳しく触れてみたいんですけど、簡単にいえば…

1. 加熱して、二本鎖状態のDNAをバラバラにする。

2. 冷却して、一本鎖ずつバラバラになったDNAを、再度二本鎖にする(テンプレートDNAには、大過剰量あるプライマーが結合することが期待される)

3. また少し加温して、DNA合成酵素がプライマーDNAを伸長させられるベスト温度(72℃であることが多いです)に固定して少し放置、伸長が終わるのを待つ(…といっても、以前書いた通り、今どきの酵素は1秒で数百塩基伸ばせるものもあるぐらいですから、そんなに長い時間待つ必要はありませんが)。

4. 結合したプライマーの伸長・第1ラウンド完了!ステップ1に戻り、また別のプライマーを伸ばしましょう!

…という形になるわけですね。

つまり、テンプレートDNAはプライマーより圧倒的に少ないものの、加熱冷却サイクルを何度も何度もひたすら繰り返して、より多くのプライマーを伸ばすことができる、という仕組みになっていたんですね。

ここでポイントとなるのは、テンプレートDNAはいわば再利用されるものなので減ることはなく、実は何度も何度もサイクルを繰り返せば、テンプレートDNAの量は少なくても問題ない、ってことが挙げられるかもしれませんね。

そして、酵素も、これはただ「プライマーにdNTPまたはddNTPをつなげる」という役割をもった機械ですからこいつも数が減るということはなく、サイクルを繰り返すことで減るのはdNTP・ddNTPと、あとはまだ伸長していないプライマーのみだということになるわけです。

しかし、酵素もタンパク質なので、あまりに何度も何度も高温に晒すことが続くと、段々へたってきてしまい、伸長効率が落ちることもあり得ます。

なので、シーケンシングサービス業者に読みたいDNAを送るとき、「テンプレートDNAをそんなに送るのもったいないから、100分子ぐらいの超微量のテンプレートDNAしか送らない代わりに、そっちで反応サイクル数を増やしてよ。シグナルが弱いと困るからね、1万サイクルぐらい回してくれや」とお願いしてみたくなる気もするものの、1サイクルがそんなに長いわけではないとはいえ、業者も大量のサンプルを捌く必要があるわけで、そんなアホみたいなことをしている暇はないわけです。
(というか、上述の通り、酵素がへたってそんな回数も回せませんしね。)

だから、理論的には、サイクル数を回せばテンプレートDNAの量はそんなに必要はないものの、1サイクルでそれなりの数のプライマーを一気に伸ばせて、最終的に合計サイクル数が短くて済ませられるように、テンプレートDNAもある程度の量送るよう指定されているということですね。

実際「サイクルを何回繰り返すか」は、僕はもうずっとシーケンシングは外注なので自分で反応をやっておらず、最近の試薬でどうなってるのかは分かりませんが、学生の頃、自分で反応を行っていたときは、まぁ大体20サイクルぐらい回していたように思います。

(というかこの辺の話は、とにかく試薬代が高いので、色々な研究者が「いかに試薬を節約して実用に耐えるピークを得るか」みたいな話で結構盛り上がっていた気がしますね。

 時代を感じるページですが、こんな感じ(↓)で、色々多くの方が試行錯誤された情報が飛び交っていたのを覚えています。

シークエンスキットをけちけち使うhttp://cse.fra.affrc.go.jp/ksaitoh/seqchem3100.htmlより)

 僕もこの記事で触れられているBigDye Terminatorというやつを学生時代使っていましたが、マニュアルで指定されているより40分の1の量の試薬でも、反応回数を30サイクルまで増やせば、十分読めるとのことですね。)


ちなみに、一連の繰り返し反応は、サーマルサイクラと呼ばれる、温度と時間を入力してその通りに温度が動いてくれるマシーンを使って実施するので、DNAと試薬を混ぜて、専用チューブに入れて、後はサーマルサイクラーにかけて待てば、普通に何の手間もなく反応が終了します。

こんな感じの装置ですね(基本的にPCRに使うものなので、サーマルサイクラーより、普通にPCRマシーンとか呼ばれることも多いですが)。

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https://www.bio-rad.com/webroot/web/pdf/lsr/literature/10020523.pdfより

フタを開けて、真ん中の銀色の所が(画像では見にくいですけど)、温度がコントロールされる金属のチューブ立てになっており、ここにチューブを並べて反応させます。

そして、前面のタッチパネルで、温度変化を好きなようにプログラム可能という感じですね。

こんな感じ(↓)で(もちろん装置によって色々違いはありますが、大体どのマシンもこんな設定画面でしょう)。

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https://www.bio-rad.com/webroot/web/pdf/lsr/literature/10020523.pdfより

便利!


…と、今回はゲルの話まで行くつもりが、前段階の反応の話だけでまた長くなってしまいました。

次回、ゲルの話へと参りましょう。

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