放射能も買えるよ

今回は既に触れていたご質問から派生した脱線ネタの続きからですね。


ネタ元となる前回の話は、ズバリ、違うタイプの放射線……一番メジャーな(かどうかはともかく、出す原子(放射性同位体)の数が断トツで多い)ベータ線、ドデカい大砲で飛行距離は短いものの威力は強烈なアルファ線、そして新しくたまたまヘリウムが話に出ていたため見ていた、透過力抜群ながらも威力はそないでもない中性子なんかを見ていました。


まずこちらはおさらいですが、ベータ線電子1粒が弾丸のように飛び出すもの、アルファ線陽子2+中性子2のセット=いわばヘリウム原子そのものが飛び出すもの、そして中性子線は、名前そのまんまの、中性子が1つそのまま飛び出すというものでした。


それぞれの弾丸を防ぐ方法も前回の記事では画像付きで紹介していましたが、まずベータ線、こいつはまさに生化学実験でしばしば使われるもので、最近は健康懸念を考慮してか大分使われることも減ってきてはいるものの何気に僕はまだたまに使っていますけど、プラスチックの板(普通に厚さ1 cm程度のアクリル板)があれば防御可能です。


前回書こうと思って忘れてた…というか時間とスペースの都合で書きそびれていたことですが、これは本当に「凄い、本当に理論通りになるんだね」と思えるとでもいいますか、例えば買ったばかりの放射性物質、よく使うのは「32P-ATP」といった、ATP(もうずっと前の分子生物学入門で触れていた、RNAの4塩基の1つA(アデニン)にも一部使われているし、それ以上に、生体反応のほぼ全てのエネルギー運搬役として使われているという、生命科学最重要分子といっても過言ではないでしょう)の中にあるP(リン)の1つを、安定な31Pではなく放射能を持つ32Pに変えたものなわけですが…


(なお、ATPは「アデノシン三リン酸」という名の通り、リンが3つ含まれるわけですけど、アデニン塩基に近い方から「α-」「β-」「γ-リン酸基」と名付けられています。

 よく使うのは、一番端っこが放射性ラベルされた「γ-32P-ATP」ですが、場合によってはアルファも用いることもありますね。

 なお、初学者が混乱しがちな点として、この「α」「β」「γ」は、放射線の「アルファ線ベータ線ガンマ線」を出すってことなの?…などと勘違いしがちなんですけど(実際一番最初に習った…というか習った記憶もなく、実地で出会った際、僕はそんな風に思ってしまっていた記憶もあります)、これは同じギリシャ文字で表すくせして全く関係なく、まぁ冷静に考えればどれも同じ32Pという物質の崩壊で生じる放射線なので当たり前ですが、あくまでATPでいう「アルファ・ベータ・ガンマ」とは、放射能を持たせたリンの場所のことであり、当然、どの32P-ATPもβ崩壊でベータ線を発射します。

…ややこしすぎワロタ、名前つけたやつ無能すぎんだろ(笑))

 

…と、補足があまりにも長くなりすぎてしまったので仕切り直しますが、買ったばかりの32P-ATPなんかはマジでバリクソ強い放射線をぶっ放し続けてるんですけど、これに放射線検出器であるガイガーカウンター(正確には、荷電粒子のみを検出可能な装置ですけどね)を近づけると、「ビビビビビビビ!!!!」と尋常じゃない反応を示します。


しかし、ガイガーカウンター32P-ATPの溶液の間にアクリル板を一枚挟むだけでアラ不思議、マジで「……ピッ………ピ…」と、完全に世の中のバックグラウンドに存在する微量の自然放射線を検出するぐらいにまで、板1枚向こうにある激ツヨ放射線は一切、完全に届かなくなるんですねぇ~。


(なお、「自然放射線を…」と書いた通り、放射性物質はこの地球上のどこにでも必ず一定量漂っています。

 ガイガーカウンターをONにすれば明らかなのですが、本当に数秒に一回は「ピッ」と放射線が検出される感じですね。

…「本当にそのガイガーカウンターとやらは信頼できるのか?適当に、ランダムなタイミングでピッピ音鳴らしてるだけじゃねぇの?」と僕ぐらい疑り深い男だとそう思えもするんですけど、これはマジで、買ってきた激ツヨ放射性物質を近付けるとマジでちゃんとその量に応じた反応を示すので、完璧に機能していることは疑いようもない形になっています。

 そんなわけで、放射線に触れずに生きることは絶対に不可能だということになりますけど、実際自然放射線程度のビームに負けるほど人体はヤワではないので、意識する必要は全くないといえるレベルですね。)

 

なので、実験中は常に放射性物質と自分の間にはプラ板シールドをかますことで(まさに前回紹介していたL字型のスタンドシールドとか、運搬時は全面がアクリル板でできた箱に入れて、箱を開けるのは常にシールドの向こう側で…みたいに徹底する形ですね)、自分にはベータ線=電子の弾丸ビームが当たらないように気をつけながら実験を行ってるわけですけど、本当に何度確認しても、プラ板一枚かますだけで、どんなに強い放射線でも、自分側には全く届かなくなっているのも大変面白いものです。

 

…と、意外と長くなった&例によって最近は中々時間不足ということもあり、その辺の話が結構な量になったので、予定を変更して今回はもうこの話で終わりでいいや、と諦めたのですが(笑)、ほんならガイガーカウンターなんかの画像も紹介しておこうかな、と思えたものの、既にずーっと前の放射能記事(↓)で貼ったことがありましたね。

con-cats.hatenablog.com

この時は「アルファ線などの放射線の違いは、細かすぎるのでまぁいいでしょう」と書いていたようですが、結局今触れることになっているのも、ネタ切れに苦しんでいることが窺えます(笑)。

 

ガイガー画像は使用済みだったため、仕方ないので、僕が使っているその32P-ATPが実際どんなものなのかを紹介させていただきましょう。


放射性物質は、言うまでもなく取扱い厳重注意の危険物質なので、販売のために生産・合成できる会社は世界中でも限られているんじゃないかな、と思います。


まぁ調べたことがないので実際は分かりませんが、僕はずーっとこちら(↓)、Perkin Elmer(パーキン・エルマー)社から買っており…

 

www.perkinelmer.com
(※もしかしたらリンクはアメリカ国内から専用で、日本からだと見られないかもしれませんし、アイキャッチ用の画像も欲しかったのでスクショ画像も使わせていただきましょう)

https://www.perkinelmer.com/product/easytides-atp-g-32p-blu502a001mcより


(あとせっかくなので、我らがパーキンエルマーの解説記事にあった、ATPのα・β・γの違いを構造式込みで図示してくれていた画像も貼っておきましょう。

https://www.perkinelmer.com/lab-products-and-services/application-support-knowledgebase/radiometric/which-formulation.htmlより

…まぁ、先ほど文字で説明した話ですし、あんま解像度も高くないショボい英語画像なので、別に貼るほどでもない内容ですが…)

 

最初の画像にあったような、こういう、手の平サイズの青いボトル(これはチャチなプラスチック製ですが、放射能が非常に強いブツを買った場合、保管時に周りに放射線が洩れないよう、グレーの鉛製のボトルで来ることもあります)の中に入っている(画像だと外に出されてますが)、赤キャップと透明ガラスバイアル瓶に、超強力な放射性物質・ピーサーティーツーの溶液が入っているんですけど、「Easytides」という名のこの製品は、画像でもギリ分かる通りATPの溶けこんだ溶液が緑色に着色されていまして、全く目に見えない放射性物質を扱うリスクを少しでも小さくしてくれる工夫がされています。

(もちろん、使うときは必ずガイガーカウンターを横に置いて「ピピピピ!!!」と気を付けながら使うので、要は音でも見た目でも気を付けながら扱える、って感じですね)


ちなみにどうでもいい豆知識として、この赤キャップは六角形になってるんですけど、青い容器のフタのてっぺんはちょうどドンピシャサイズの六角形型の穴(くぼみ)が空いており、フタをひっくり返して赤キャップにはめることで、楽に赤キャップの開閉が行えるようになっています。


割と小さい瓶ですし、素手で小さいキャップを直接開け閉めして手に放射性物質のシブキがつくのも嫌ですから、より大きい青容器のフタをかますことで、楽に回せるわけです。

僕は毎回しっかりこのフタの形状を使って便利に開け閉めしてますけど、案外ベテラン研究者の方でもこの仕組みを知らず、「へぇ~、そのフタそんな風に使えるんだ、知らなかった!」とおっしゃる方もいた記憶がありますねぇ。


いずれにせよ、ピペットでこの緑色の溶液を吸って、別の反応用のチューブに移すことで実験を行うわけですけど、ちゃんと正しく吸えていることや、正しく目的のチューブ内に吐き出せたかどうかなんかが、色からも分かりやすくなってる、ってことですね。


ちなみに放射線を扱う際は必ず白衣・ゴーグル・使い捨て手袋の着用が義務付けられており、割と神経を使って細心の注意のもと取り扱っていますけど、昔はその辺も緩い感じだったようで、以前、年配の教授と話している際、

「昔は放射性物質を含む溶液をピペットで吸うときなんて、口で吸ってたもんだよ」

とおっしゃる方がいて(っていうか日米のどちらでも聞いた記憶があるので、マジで当時はそうだったんだと思います)、よくある駒込ピペットみたいな細長いピペットの上部に口をつけて、放射線が出まくってる溶液を吸い上げてたってことですけど、クッソ危なすぎワロリンチョ(笑)。

 

今もし放射線管理室の人にその現場を見られたら一発で即利用許可停止になるぐらいヤベェ行為だと思いますが、でもまぁ実際、「強い放射線」とは書いたものの、32Pとかが出すベータ線なんて案外タカがしれてますから(ちょうど、↑で貼ったずっと前の記事でもそんなことを書いていましたが)、実際はそこまで恐れる必要もないのかもしれないな、って気もするかもしれませんね。


ちなみに、学生の頃に出会った生化学系の教授は、ほぼ100%に近く全員娘さんしかいなかったこともあり、「…放射線使ってると、もしかしてY染色体がやられて、娘しかできなくなるんちゃうか…??」とか思ってたんですけど、こちらに来たら普通にその「昔口で放射能吸ってた」教授には息子がいましたし、他にも立派な息子さんがいらっしゃる教授も大勢いたため、それは杞憂であったと安心したものでした。

…ってな所で、めっちゃ些細な小ネタに脱線して終わりになってしまいましたが、次回も脱線補足ネタの続きを見ていこうと思います。


あぁ、記事タイトルにした「放射能も買えるよ」は、まぁ当たり前ですけど医療機関や研究機関を通してしか買えないので、「俺は大学で研究してっから買えるけど、普通は買えねぇかもな?」みたいなウザイ感じのマウントになっていたかもしれないことをお詫び申し上げます(全然1ミリも羨ましくない、クソみたいなマウントが過ぎるだろ(笑))。

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