その他の崩壊

今回も完全に途中状態だったご質問の続きからで、前回見ていた放射能ネタですね。


早速参りましょう。

 

ちなみに、水素の放射線もヘリウムの放射線も、全く同じものということですか?

中性子の数が違うということは、パワーが違うということなのか、中性子の数が多いと半減するまでの時間がどうっていう法則があるのか、もしかしてそれについて記事中に書かれてあったのかもしれませんが、とりあえず丸投げしておきます笑

 

⇒こちらも説明不足だった気がして、補足しておきたかったポイントでした。


まず最初のご質問ですが、たまたまヘリウムを挙げられていたもののそれはひとまず置いておくとして、以前見ていた三重水素3Hトリチウム)も、化石とかの年代測定で使える半減期5730年の14C(カーボン・フォーティーン)も、生化学実験で非常によく使われる32P(ピー・サーティーツー)も、目ぼしい放射性物質(と言っても、僕がいる生化学分野でよく耳にするだけで、一般的には目ぼしくもなんともない気もしますが(笑))はどれも全く同じ、実体が電子ビームの放射線ですね。


とはいえ、「目ぼしい放射性物質」と限定的な形で書いた通り、違うタイプの放射線も普通に存在しています。


そもそもの話として、電子のビームがぶっ放されるタイプのもの(放射線は、原子の崩壊起こるときに出されるものなので、いわば「崩壊タイプ」ですね)は、ベータ崩壊と呼ばれる形のものでした。


ベータ崩壊では、中性子から電子が1つ弾丸のように発射され、その弾丸が我々人間の細胞にはDNA損傷などを引き起こす厄介なものとなっている、って話ですね。

(なお、ベータ崩壊の際には電子だけではなくニュートリノなんかも一緒に放出されるのですが、入門編としてはマジでどうでもいいにも程があるので、無視しましょう(笑))

 

で、「違う放射線」の最も代表的なものとしては、ベータといったらアルファ…ってことで、アルファ崩壊と呼ばれるものですが、実は、こちらは既にこの記事で見ていた通り……

con-cats.hatenablog.com

「陽子2+中性子2」が飛び出すという結構大掛かりなもので、そこまで多くの原子で見られる崩壊パターンではなく、有名所だとウランの同位体で多くみられるものですね(ウランは原子番号92、中性子は140個ぐらいあるという、とても大きな原子です)。


小さな電子1つが飛び出すベータ崩壊とは違い、こちらはかなりのデカブツ(陽子2+中性子2ということで、まさに完全にヘリウム原子と同じものです)ということで、勢いとしてはベータ崩壊で生まれるベータ線と比べるとしょぼく、紙一枚で跳ね返すことができるというのも上の記事で触れていた話でした。


ちょうどそれと関連して、ご質問後半の放射線のパワーや安定性に関してですが、これはズバリ、全く法則性はありません。


もちろん、三重水素みたいなクソちびっこい原子から放たれる電子弾丸がかなり弱いというのはまぁ間違いないんですけど、必ずしも原子が大きくなれば比例して放射線の威力も上がるとか、中性子の数が多いほど放射能が上がるとかいうわけではない感じですね。

(もっとも、基本的には中性子の数が多くなればなるほど不安定になるのはそうだと思うので、中性子が安定型よりズレればズレるほど「安定性が落ちる=半減期が短くなる」のは基本的にはそうなっているはずですが……あぁでも、ちょうど前回見ていたヘリウムの同位体は、そうなっていないパターンがいきなり登場していましたね(=中性子+1より中性子+2の方が半減期が長い))


具体的に、代表的な放射性物質のエネルギーが、公益社団法人日本アイソトープ協会(J-RAM)の記事にまとめられていました。

j-ram.org

といってもそんなに沢山のものは挙がってませんでしたが、数字をいくつかお借りしますと…

  • 3Hトリチウム)の最大エネルギー=18.6 kev(キロ・エレクトロンボルト)
    (そんな単位見ても全く何のこっちゃわかりませんが、一応、1 evはこないだ見ていたエネルギーの単位・ジュールで表すと624京ジュールという、割と凄まじいエネルギーですね)

  • 14C=157 kev(トリチウムの9倍ぐらいのエネルギー)

  • 32P=1.711 Mev
    (いきなり単位に「メガ」が入るので、同じ量でトリチウムのおよそ100倍のエネルギーの放射能ですね!)

  • 35S=167 kev


僕も未だにたまに実験で使っている32Pは1.711 Mevと、原子番号が大きくなるのとともに順当にでかくなっていたエネルギーですが、しかし一方、これまた生化学実験でしばしば用いる35Sエス・サーティーファイブ;DNAにはリンが、タンパク質には硫黄が含まれるので、こちらはタンパク質実験で使われることが多いです)、こちらはリンより大きい原子なのに、最大エネルギーは167 kevと、大分小さい炭素14Cとほとんど同じ放射能でしかないんですね。

そんな感じで、必ずしも大きい原子が大きいエネルギーの放射線をぶっぱするというわけでもないという話でした。


…と、話は少し戻って、「ヘリウムは、ひとまず置いておいて…」と書いていたそちらに参りましょう。

そんなわけで、放射線のタイプ=崩壊タイプには種類があるわけですけど、これにも法則性はなく、僕もどの原子のどの同位体がどのタイプかなんて、一部の自分がよく使う核種以外、全くこれっぽっちも覚えていません。


そんなわけで令和時代の生き字引(生きてはないけど(笑))ことウィキペディア先生の力を借りてみますと…

ja.wikipedia.org

…む、中性子が2つ増えた6Heは、「β崩壊する」と明記されているのでこれはトリチウム32Pなんかと同じパターンでしたけど、非常に不安定な5Heは、崩壊様式について何の記述もないですね……

あまりにも半減期が短すぎて不明なのかな?と思ったら、流石は人類、そんなわけはなく、既にちゃんと偉い人の手によって判明していました。


何気に、英語版ウィキプの同位体(Isoform)ページには、「Decay mode」として各同位体の崩壊様式がちゃんと一覧で表になっていましたね!

en.wikipedia.org

めっちゃいいデータだし、日本語版にもちゃんと載せておいてよ…と思えましたが、これを見てみますと、5Heの崩壊モードは、βではなく、まさかの「n」!

「n」って何だ…??と思ったら、これはNeutron emissionのことで、日本語でいう、中性子放出のことでしたか!

ja.wikipedia.org

うおぉ~、めっちゃマイナーなやつキタァー!と思えましたが、アルファ崩壊でもベータ崩壊でもないパターンに、「中性子が1つ、そのまんま放出される」なんていう放射線もあるんですね!!


しかし、冷静に考えると、これは5He=「ヘリウム(陽子2+中性子2)に、さらに中性子が1つ加わったもの」でしかないので、実はこいつ、「中性子が1つそのまんま飛び出す」ってのは、視点を変えてみたら、ヘリウム原子が1つそのまんま飛び出すともいえるので、何てこたぁない、まさに↑の記事にもその記述がある通り、一応定義としてはアルファ崩壊の一種であるとも考えられるんですね。

(とはいえ、勢い良く飛び出すのは中性子の方ですから、放射線としてはアルファ線というより中性子を放出する物質だといえるとは思います。)


そう、この中性子線、電気も持たない雑魚粒子が飛び出しても大した威力ないんちゃいますのん?って思えるんですが(別に思えないかもですが(笑))、何気にこれは「放射線利用者安全講習会」みたいな、世界中どの大学でも放射性物質を使う前に絶対に全員が履修させられる講義でよく見る図で、「一番何でも透過するやつ」として描かれているのが印象的なのです。


その画像、軽く検索してみたら、イギリスのオンライン学習サイトtelgurusの記事に、人体込みで大変分かりやすいものがあったため、こちらをお借りさせていただきましょう。

https://telgurus.co.uk/what-is-the-difference-between-alpha-and-gamma-radiation/より


一番上がアルファ線(Alpha Rays)、例のヘリウム原子が発射されるデカブツですが、これは何度も書いている通り、ペラ紙1枚で防御可能になっています。


その次が、実験室でもよく使っているベータ線(Beta Rays)になりますけど、紙は普通に透過して、人体も貫通して細胞にダメージを与えていく感じですね。

防御できるのは、画像だと「薄いアルミニウム板」となっているものの、これはプラスチック板でも十分でして、実験室ではアルミ板ではなく、透明なプラスチック板(1 cmぐらいの厚さの透明なアクリル板みたいなやつですね。透明なので、自分の向こう側に試薬を置いて、色々作業することも可能なのです。アルミ板だと向こうが見えないので、不便極まりない感じです)を使っています。

(せっかくなので画像も紹介しておきましょう。こんな感じ(↓)の、L字型で実験ベンチに置いて使えるやつが主流ですね)

https://axel.as-1.co.jp/asone/d/1-3875-04/より


で、1つ飛ばして一番下が噂の中性子線(Neutron Rays)ですが、これはアルミニウム板どころか、分厚い鉛の板すら透過するので、大量の水に吸収させるか極めて分厚いコンクリートの壁でもないと防ぎようがない…という厄介なビームになっているんですね。

 

ただ、それはあくまで「透過性」の話であり、放射線の持つエネルギーですと(画像だと「ionization(イオン化)」として、放射能マークで描かれているように)、実は透過しないアルファ線が最強で、何度か「紙一枚で防げる雑魚」と書いてはいたものの、弾丸自体は重厚で高エネルギーなので、実際のところ「簡単に防げるけれど、威力はバリ強」でして、間違って体内に侵入でもしたらめちゃヤバなやつなんですね。

アルファ線を出すのはウランでしたが、まさに原子爆弾の威力を思い浮かべれば納得といえそうです)

 

一方中性子線や、1つ飛ばしていたガンマ線X線は、物質の透過率は極めて高いものの、人体への影響はアルファ線ベータ線と比べると、そこまで強くはない感じです。

(とはいえもちろん放射線ではあるので、全くノーダメではなく、食らってしまうとある程度のダメージはあるわけですが…)


最後せっかくなのでそのガンマ線X線についても触れておくと……と思ったのですが、またちょっと時間切れということもあり、正直大した話もなく一瞬で終わりそうな内容ではあるのですが、続きはまた次回とさせていただきましょう。


次回で放射線ネタのご質問も終わり、次のポイントに移れそうですね。

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