抗原抗体反応を応用した検出テクニックの例として、前回はELISAなる手法を紹介していましたが、記事アップ後自分で読み直してて思ったんですけど、クソみたいにややこしいにも程がありましたね。
まぁ説明が下手だっただけともいえますが、正直読んでて「これ意味ある…?」と若干思えたものの、冷静に考えたら一連の分子生物学・有機化学入門講座にそもそも意味なんかなかったので、「元々意味なんてなかったわ(笑)」と開き直るとしましょう。
でもまぁせっかくなら、あんまり細かくなりすぎて「何ゆっとんこの人」とならないように、しかしポイントは抑えて、何をやってるのか・何が知れるのかをズバッとまとめていきたい限りですね(いやそれができるなら最初っからやってるわけで、それが難しいからややこしくなってるんですけどね)。
…ということで前回の続きですが、ELISAと一緒にウェスタンという名前は出していたのに、説明まで入ることができなかったので、今回はそのウェスタン・ブロッティングについてですね。
そもそも「何だよその名前、西かよ」って思うかもしれないんですけど、実はこれマジで意味なんてなく、本当にそのまま「西」のウェスタンなんですよね。
まぁこの辺の話は、学習するとき必ず聞かされることになる、生化学講義の鉄板エピソードなので知ってる人にはもう耳にタコな話なんですけど、元々、この技法に類似した検出技法はサザンさんというイギリスの研究者によって開発され、その名も「サザン・ブロッティング」と名付けられました。
(ちなみに、サザンさんがそう自称したのではなく、あまりにも優れた手法であったので、研究者仲間が自発的に敬意を込めてそう呼ぶようになった、という形ですね。
こちら(↓)が記念すべき、サザンさんによるいわゆる“サザンブロッティング”がはじめて報告された1975年の論文ですが…
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
…本文の中には、Southernという言葉も、それどころかblottingという言葉も、どこにも登場しません(一応、blottedという動詞では一箇所だけ使われていましたが)。)
こちらがサザンさん、2021年現在御年83歳ですが、ご存命です!
何だよサザンさん、全然知らなかったけど、エドウィンとかいうカッコいい名前だったのかよ!言ってよも~!(何をだよ(笑))
関係ないですが、エドウィンと聞くと誰でもジーンズメーカーが思い浮かぶと思うんですけど、こちらEDWIN、めっちゃ外資系企業の香りがするのに、外国資本は一切なく、「DENIM」の文字を入れ替えた(Mは逆さまに回転)アナグラムで、かつ、「江戸に勝つ」=ED-WINという意も込めてつけられただけという、実は普通に純国産企業だと知ったときは驚きましたね。
基本的に海外の俳優さんを使ったCMが多かった気がしますし、それを聞いたときは何だか騙された気がして、心底悔しかったです(いや何で悔しいんだよ(笑)。まぁ普通に「マジかよそれ、意外!」と思えたというだけですね)。
…ただ、これ、「江戸に勝つ」という意を込められた社名、って聞いた記憶があって、大阪とか東京以外の地方発の企業かとずっと思ってたんですが、普通に本社は品川みたいで、単に「江戸・勝つ」という意味が込められただけだったようです。
…と、なぜかまさかのいきなりエドウィンに話が飛びましたが、このサザンブロットはDNAを検出する方法だったんですけど、後年、別の研究者が、RNAを検出する方法としてこの手法を改変応用し、その検出技法を、サザンさんリスペクトで、サザンの反対の「ノーザン・ブロッティング」と名付けたのが全ての始まりだったのです。
まぁ実際の論文では「Northern」という単語は出てきませんが…
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
こちらは筆頭著者のAlwineさんが自らnorthern blotというニックネームをつけて呼んだのが広まった、という話が伝えられていますね(参考記事:Southern, northern, western (and eastern?)より)。
そして最後に、抗体を使ってタンパク質を検出する方法が開発されて、Southern → northernときて、こちらはwesternと名付けられた、という逸話を、まぁこのネタになる度にもうイヤという程聞いていて飽き飽きしていたんですが、上の参考記事によると、ウェスタンと名付けたBurnetteさんは、当時所属していてこの技法を開発したシアトルにある研究所と、Alwineさんの所属するスタンフォード大学との地理的位置関係から、「western」と命名したそうで、これは正直知らなかったですね!
なので、もしBurnetteさんの所属がニューヨークだったら、今研究者が毎日のようにやってるウェスタン・ブロッティングは、「イースタン・ブロッティング」と呼ばれていた可能性が微粒子レベルで存在していたということで、これは面白いです。
(まぁ、なじみがない方には何のこっちゃという話かもしれませんが、ウェスタンはマジで最もよくやられている実験の1つで、「じゃあウェスタンで見てみよう」とかめちゃくちゃ使われる言葉なので、それがもし違ったら…と思うと何とも不思議な感覚なのです。
…ってまぁ別にウェスタンという言葉に思い入れもなければ、冷静に考えたら言う程しっくり来る感じでもなんでもないので、イースタンだったら普通にそう呼んでただけだろ、って話でしかないんですけどね(笑))
…おっと、気付けばいい分量になっていたので、当初ウェスタンの仕組みを見てみようと思ってましたが、もう今回はやめましょう!
今回は名前に関するエピソードだけで十分ですね、最近記事が長すぎますからね。
結局、日本でいうと、たまたま南野さんが開発した方法が「南野チェック法」とでも名付けられ、その後、大まかな原理は同じでちょっと違うタイプのものに用いられるやり方が「キタノチェック法」、さらに続いて「ニシノチェック法」とシャレで名付けられたようなものなわけですが、こうして見ると、正直ちょっとだけ「おちょくっとるのか…?」って思える気もしないでもないんですけど(笑)、まぁ南野さん自身がどう思っているのかは分からねど、敬意をもって付けられた通称であることには間違いありませんし、名誉なことには変わりないといえそうですね。
(実際、サザンブロットは、35年以上前に開発されたあの条件が今でもほぼ同じように使われていることも多い、非常に完成されたやり方でした。)
ちなみに、eastern blottingは、それを提唱しようとした人も中にはいるみたいですが、定着した手法には一切ならず、未だ欠番の状態ですね。
実際、生体分子の流れは、DNA→RNA→タンパク質なので、主要登場人物は3人しかいませんから、4方向の1つが欠けるのは仕方ないことなのかもしれません。
なお、「タンパク質を、DNAで検出する」というサザンとウェスタンの合いの子みたいな手法を「サウスウェスタン」と呼ぶこともありますが、まぁそういう実験自体がそこまで頻繁にはされることがないので、あまりなじみはない感じですね(でも、こちらはイースタンとは違い、ちゃんと使われている実験用語だし、確実に通じます)。
(また、「タンパク質を、RNAで検出」のノースウェスタンや、「タンパク質を、(抗体以外の)タンパク質で検出」するウェストウェスタン(ファーウェスタン)というものもあります)。
名前について触れていたので、最後「ブロッティング」のblotという言葉にも触れておこうと思いますが、これはまず各種ブロッティングの技法についてちょっと触れる必要があるんですけど、どのブロッティングも、基本的に「ゲルで流した分子(例の、何度か貼ったアガロースゲルの写真をイメージしてもらえればと思います)を、膜(メンブレン)に移して、固定する」という流れなんですが(詳細は次回ですね)、この、「ゲルからメンブレンに分子(サザンならDNAだし、ノーザンならRNAだし、ウェスタンならタンパク質)を移動させる作業」のことをブロッティングと呼んでいます。
意識したことがなかったので、「blot」という単語にそういう、「あるものから別のものへ移動させて、貼り付ける」的な意味があるかと思ってたんですけど、この英単語自体は、「汚れ、染み、傷」みたいな意味合いがメインだったんですね。
まぁ、アガロースゲルの写真を思い出していただけると、確かにシミっぽい感じがあることは納得いただけるようにも思えるので、「まっさらな膜に、シミのような汚れを移す作業」ということで、ブロッティングと呼ばれてるのかもしれません。
(繰り返しですが、最初の開発者のサザンさんは、論文中でblotという単語は使っておらず、transfer(移す)という言葉しか使っていませんでした。
(※…と先ほどの参考記事に書いてあったのでそうだと思ってたのですが、一応チェックしたら、一箇所だけblottedという書かれ方はしていましたね。でも、transferという単語の方が圧倒的に使われています。)
まぁいずれにせよ、ゲルからメンブレンに移す作業そのものは、今でも普通に「トランスファー」と呼ぶことの方が多いですけどね(日本語でも)。
実験手法は「○○ブロッティング」「○○ブロット法」みたいに呼ばれているという形です(もちろん「タンパク質をゲルからメンブレンにブロットする」とも言われますが)。)
ということで、次回はブロッティングの詳細というか仕組みを、ごくごく簡単に見ていくとしましょう。