改めて質問や気になる点の補足(筋ジス・血液型)

前回、ゲノムブラウザを垣間見ることで、人間の遺伝子・染色体の深淵を覗く(入り口に立つための)やり方を紹介していましたが、まぁ正直あれは生命科学専攻の大学生が専門の講義ではじめて聞きかじるぐらいの内容なので、しっかり理解する必要も使いこなす必要も全くないでしょう。

せめて日本語対応していたらもっと親しみやすかった気もするんですけどね、まぁあれは商売ではなく、善意で無償公開されているだけのものなので、その辺の手厚いサポートが望めないのは仕方ないかもしれません。

ってなところで、遺伝子&染色体については大分理解も深まったのではないかと思えますし、残っていた質問や触れそびれていた補足事項をちょろっと見ていくとしましょう。


まずはこちらの記事で「ちょっとややこしいので、改めて別の機会に…」と書いていたコレ…

Q. 筋ジスの、途中のコドンが停止コドンになってタンパク質が途中でブツ切りになってしまい発病する例……例えば、母由来の方が変異してて、父由来の方が変異してなかったら、自分は発病する可能性があるし、しない場合もあるのか?
 もしも、母が正常遺伝子と異常遺伝子の両方をもっていて(例:母親は、母方の祖母から正常、祖父から異常遺伝子を受け継いでいたとすると)、自分がもらったのが変異してない方だったら、母親は筋ジスでも、自分は絶対に筋ジスにならない…?


⇒筋ジスはややこしいので…と書いたのですが、その理由としてはまず、一口に「筋ジス」といっても色々なタイプがある、ということが挙げられます。

とりあえず今回は、筋ジスの大部分を占め、かつ重症なタイプである、「デュシェンヌ型」(Duchenne muscular dystrophyを略して、DMDと呼ばれます)に着目して話を進めてみようと思います。

ひとまずご質問のうち、DMDから離れて遺伝一般の話をチェックしておくと、「一方の親から異常遺伝子、もう一方の親から正常遺伝子を受け継いでいたら、発病するかもしれないし、しないかもしれないのか?」という点については、こないだ説明していた通り、そうではないということでした。

DMDの場合は、えんどう豆の丸とシワのやつと同じく、正常と異常の両方を持った場合、正常遺伝子が優性(顕性)として現れるため、発病しません

なので、母が正常遺伝子と異常遺伝子の両方をもっていた場合、母親はDMDを発病しないし、正常遺伝子を受け継いだ時点で、自分自身もDMDを発病しないことになります(「するかもしれないし、しないかもしれない」ではなくて)。

しかし、ご質問いただいた内容には、それ以外の点で、筋ジス (DMD) ではあり得ない状況が描かれていたため、どうしても気になってしまったのです…!

その理由がこちら!
(せっかくなので、ゲノムブラウザーからまた抜粋させていただきましょう!!)

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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genome/gdv/browser/genome/?id=GCF_000001405.36より

そう、DMDの関連遺伝子であるジストロフィンは、実はX染色体上に乗っているのです!

それが一体どういうことか?

まず、性染色体は、女性はXX、男性はXYとなっているのでした。

つまり、ジストロフィンはX染色体にしか存在しない以上、男性はジストロフィン遺伝子を1つしか持たないんですね。

なので、男性は、Dを正常ジストロフィン、dを異常ジストロフィンとすると、XDYXdYかのどちらかしか存在しないということなのです!

いうまでも、なくXDYであれば正常、そして、XdYになると、DMDを発病してしまうという形になっています。

したがって、筋ジストロフィーというのは、基本的に男性のみが発病する疾患になっているのです。

「…え?なぜ?女性のXdXdは発病しないの?」と思われるかもしれませんが、XdXdの女性が生まれるには、XDXdの女性とXdYの男性が子供を産み、両者からXdが選ばれた場合に限られます。

筋ジスの患者は、小学校高学年ぐらいから筋力が低下し、車椅子生活が必要となり、20歳前後で心筋の衰えにより心不全で亡くなることが多いといわれています。
(現在は医療の発達で10年ほど生命予後が延びているそうです。もっともっと医療の発達を期待したい限りですね…!)

なので、もちろん絶対と断言することは決してできませんが、基本的に、XdYすなわちDMD患者の男性が子をもうけることは稀であるため、XdXdの女性が生まれることは、極めて稀であるわけですね。

したがって、ご質問の「母が、祖父から異常遺伝子を受け継いでいたとすると…」というのは、現実的には考えづらい例になっている、という、ごく些細な点でしたが、そこも一応気になったポイントだった、というお話でした。


「…ということは、自分の息子がDMD患者になった場合、母親の私が異常遺伝子を託してしまったということ?私が原因??やり切れない…」…と苦しまれるお母さんがいらっしゃるかもしれませんが、これが実は、必ずしもそうとは言い切れないのです。

先ほどのゲノムブラウザのポップアップウィンドウにある通り、このジストロフィン遺伝子はX染色体の3111万9219番から3333万9460番と、なんとまさかの、222万242塩基もの巨大な遺伝子となっているのです。

これだけ超巨大な遺伝子ですと、母親からは正常遺伝子を受け継いでいたはずだったのに、配偶子の形成時や発生の過程で突然変異を起こしてしまう可能性というのも、非常に大きくなるのです。
(当たり前ですが、大きければ大きいほど、変異が入ってしまう確率は高まります。
 先ほどのゲノムブラウザの画像、だいぶ拡大率の小さい画像なので具体名は表示されていませんが、Cited Variationsのコーナーに、青い線がたくさん存在することが分かるかと思います(一部、ポップアップウィンドウで隠れていますが)。
 線1つ1つが実際に報告されて調べられている変異なので、これだけたくさんの変異が、ジストロフィン遺伝子には知られているということなんですね。)

突然変異を引き起こし得るものとしては、紫外線や放射線、大気や食品に含まれる化学物質なんかが代表的なものとして挙げられますが、それ以外にも、全くの偶然でDNAにエラーが入ることも、当然あります。

世の中何事も、100%確実に正確に全てが行くわけではありませんからね。

なので、あくまでそれは偶発的な要因であることも多いので(ものの本によると、DMD患者の遺伝子変異の約40%は、患者の母親のもつ変異とは異なるものだそうです。つまり、お母さんの遺伝子が原因というわけではなく、突然変異によるものですね。その変異が入ってしまった具体的な原因は、誰にも分かりません)、仮に子供が遺伝病をもって生まれてきたとしても、それに関して親本人が自分を責めること(もちろん、周りから責められることはいうまでもなく)だけはされないでほしいな、と願ってやみません。


ということで、筋ジスというのはX染色体上に乗っているため、伴性遺伝と呼ばれるものだ、という話でした。

あともう1点、こちらは全く大した話でもないですが、同じ記事で血液型の話をしていましたが、スペースの都合で書こうと思いつつも省いていた話があったんですけど、面白い所ですし、ここももうちょい触れてみるとしましょうか。

Wikipediaから抜粋した画像を改めて貼らせていただきますが…

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A型はA抗原というタンパク質を、B型はB抗原というタンパク質を、AB型はその両方を、そしてO型は全く何の抗原も、赤血球の表面にもっている(O型はもっていない)という話でした。

抗原というのは、免疫反応を引き起こす物質のことであり、自分のもつ抗原はスルーされるけれど、自分がもたない抗原に対しては、人間は免疫反応を引き起こすことで排除する、という話も、以前の記事でチラッと書いていました。

名前から明らかかと思いますが、その免疫反応に関わるのが抗体と呼ばれるもので、抗○○抗体というものが体内にあると、体内に○○が侵入してきた時、速やかに攻撃して排除することが可能となるのです。

…で、血液型に話を戻すと、A型の人は、A抗原は自分のもつ抗原ですからこれに対する抗体は当然もたないんですけど(それがあったら、自分で自分の血液を攻撃して、ヤバすぎる状態に!)、B抗原に対する抗体は、これは自分にはないものですから、体内で作られるようにできているのです。

なので、画像にある通り、A型の人は、赤血球にA抗原をもち、抗体としては、体内にB抗体をもつ、という形になっています。

逆に、O型の人は、自分自身は抗原をもっていませんから、A抗体もB抗体も両方もっているんですね。

このことから何が分かるかというと、輸血するときは当然同じ血液型が一番望ましいのですが、どうしても同じ型のものがないときは、どうすればいいのか…?

攻撃対象となるのは赤血球の表面にある抗原ですから、実は、抗原が全くないO型の赤血球は、誰からも攻撃されることが絶対にないので、万能で使えるんですね。

同じ理屈の逆パターンで、実は、AB型の人は、自分自身は体内に赤血球を攻撃する抗体をもっていませんから、A型の血だろうとB型の血だろうと、受け入れて使うことができるのです。

そして当然逆に、AB型の人の赤血球にはA抗原もB抗原も乗っていますから、AB型の人以外に輸血することはできない(必ず、輸血される側(AB型以外)の人のもつ抗体に攻撃されて、血液が凝集してしまう)ことになり……
また、誰にでも血液を与えることのできる献身的なO型は逆に、O型以外の誰からも血をもらうことができないのです!
(O型は体内にA抗体もB抗体ももっているため。)

哀れO型、自分は他者に血液を与える立場にはなれるのに、他者から血を受け取る立場には決してなれないとは、なんと因果な話でしょう…。

しかし、O型は日本では30%とA型に次ぐ割合でいて、一方世界では実はO型が最大多数で40%程の割合に及ぶらしいので、幸いにしてO型の血が足らなくなることはあまりなさそう(献血での提供者もその分多いため)、というのは、O型にとって朗報ですね。


ちなみに、個人情報ですが、まぁ自己紹介になるので書いておくと、僕は哀れなO型です(笑)。

大学院の実験で、自分の血液型を抗原抗体反応からチェックするという面白いのがあったんですけど、ばっちりO型だったことが実験からも確かめられました。

ということで、僕の子供は絶対にAB型にはなれないのですが、まぁAかBかOかは、お相手の血液型次第ということですね。


…ってなところで、筋ジスと血液型だけで終わってしまいましたが、順次話も進めつつ、残っている疑問点もおいおい触れていくとしましょう。

次回は……まだ何も考えていません!!適当に何か見繕おうと思います(まぁ実際いつもそうなんですけどね)。

何かご質問等ありましたら、お気軽にどしどしどうぞ。お便り、お待ちしています。

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