ごっちゃになりがちな、似た言葉を整理しておこう

前回、染色体の話に入る前段階として、「DNAが情報=文字の集まり」とはどういうイメージを持てばいいのか、そして中途半端に話に出してしまっていた遺伝学入門みたいな、遺伝子が親から子、子から孫へと伝わっていく話で、説明不足だった点を補足するとともに、簡単に(クドクドと?)まとめていました。

遺伝の話は元々の本筋(アミノ酸とは?→タンパク質とは?→DNAとは?…的な一連の流れ)からは外れた雑談的な話だったんですが、こちらは遺伝子・細胞レベルの話が血液型とか、お酒の強さとか、耳垢が乾燥してるか湿ってるかといった、日常生活でも盛り上がれる話(耳垢で盛り上がる日常、嫌だな(笑))につながっていてインパクトも出しやすく、余談なのについつい筆がのってしまった、という感じでした。

実際、中学理科~高校生物を思い出してみると、遺伝のところが一番面白かったかなぁ~、って気がしますしねぇ。

やはり身近なこととか、イメージができることってのは面白いんですよね。
(まぁ、遺伝より、漫画とかゲームの方が面白いですけど(笑)。)

と、そんなわけで話はまだ全く途中なので、そういうどうでもいい前置きはおいておきましょう。


前回の補足情報のおかげで、ご質問いただいていたアンさんからも「理解完了!(…できた気がする)」的なコメントをいただきました。

確認のためにアンさんご自身が解釈披露をされており、ほぼバッチリ理解されていたのですが、1つだけ、些細な点ではありましたが微妙な表現で気になった所があったので、こちらも説明不足が原因で、他にも似たような表現ミスに陥る方がいらっしゃり得る話になっていた気がしたため、改めて追加補足説明として、簡単に触れさせてもらうとしましょう。

(以下一部引用。最初の「」内は、前回の記事で書いていた話ですね。)

「アン父は、目の遺伝子に関して、祖父からは一重まぶた遺伝子を、祖母からは二重まぶたになる遺伝子を譲り受け、結果、アン父本人は奥二重になりました」

↑この場合、父から奥二重の遺伝子を譲り受けた私は、例えば母からも全く同じ条件で奥二重の遺伝子を譲り受けたとすると、半分ずつもらって奥二重になる可能性があるということ……

 アンさん自身がこのあと続きでなされていた解釈自体は正しかったのですが、気になったのが「奥二重の遺伝子を…」の部分!

アンさんの父親は奥二重(という設定)ですが、この例では「奥二重の遺伝子」というのは存在しなくて(あるのは奥二重という「見た目」だけ)、アン父はあくまで「一重遺伝子」(Hとしましょう)と「二重遺伝子」(Fとしましょう)を、HFとして1つずつ持っている、ということなんですね。

つまり、HH=一重の見た目、HF=奥二重の見た目、FF=二重の見た目になる、という話です。

なので、アン母も奥二重という設定ならば、アン母もHFという遺伝子ペアの持ち主ということですから、この設定の例において、アンさん自身は…

・一重(HH)にも、奥二重(HF)にも、二重(FF)にもなる。

・その確率としては、①H父H母、②H父F母、③F父H母、④F父F母で、①が一重、②と③が奥二重、④が二重なので、半分の確率で奥二重に、25%の確率で一重か二重になる。

…ということでした。

全体の流れとしては正しく理解していらっしゃったのですが、「奥二重の遺伝子」というのは存在しないので、テストならそれを書いてしまうと減点なので注意しましょう、ということですね。

あくまで奥二重というのは、遺伝子Hと遺伝子Fを両方持った結果であり、「奥二重の遺伝子」があるわけではないことに気をつける必要がある、という話ですね、だいぶ細かい点ですけど。

(ちなみにこの「見た目」のことを指す正式用語は「表現型」なので、「奥二重の表現型」としないといけなく、また、「表現型を譲り受ける」と書くことはできない、という感じです。
 一方、HFというのが、奥二重の「遺伝子型」と呼ばれています(H・Fそれぞれは「遺伝子」)。)

そして念のため注意点として、この一重二重の遺伝は、僕が例として勝手に作っただけで、現実で一重遺伝子と二重遺伝子が揃ったら奥二重になるかどうかは、分かりません。

軽く調べた限り、まぶたが一重か二重かは実は単一の遺伝子で決まるものではないようで(もちろん遺伝は絡みますが)、血液型や耳垢のように親の持つ1セットの遺伝子型から単純に確率が計算できる感じにはならず、まだハッキリとは分かっていない複合要因も絡んで決まると考えられているみたいですね。

なので、あまりいい例ではなかったですが、まぁあくまで考え方に親しむための一例だった、という感じですね。

重要ポイントを要約すると…

「遺伝子」(血液型ならA, B, Oの3種類)は必ず2つで1セットであり、 揃った状態を指す言葉は「遺伝子型」(血液型なら、AA, AO, BB, BO, OO, ABの6種類の遺伝子型がある)、そして、その遺伝子型をもった結果得られる実際の血液型=現実の見た目や性質のことを「表現型」と呼ぶ。

(血液型なら:AAとAOという遺伝子型を持つ人の表現型はA型(という血液型)、遺伝子型BBとBOの人の表現型はB型、遺伝子型OOの人の表現型はO型、遺伝子型ABの人は(ややこしいけど)表現型もAB型、って具合)

…というのがまとめですね。

 

さて、いい加減話を進めると、DNAについてはビーズのネックレスという(そんなに上手くもない)例えで一応分かった気になりましたが、また新たな用語が登場してきました。それが、染色体です。

前々回、登場時にもチラッと書いた通り、染色体は、60億文字も集まっているDNAがギュッと詰まって形成される、いわばDNAの特別な構造・状態のことを指す言葉でした。

「…なら『DNAがギュッと詰まったヤツ』とでも呼べばいいじゃねーか、一々新しい用語を覚えさせるなや、イラつくぜぇ~!!」などと受験生は思うわけですけど、まぁ後述しますがこの例はそうもいえない背景があるのでともかく、実際「イチイチそんな呼び方しなくていいじゃん!」と感じる用語は、生物学に限らず色々な分野で散見されますよね。

ただ実際、特別な用語が存在してみんなが使っている以上、何だかんだあった方が便利なのは事実で、覚えるコストと、簡単に呼べて便利なメリットを比較すると、大抵慣れれば「まぁ、みんな使ってるだけあるわな」となるんですよね。

(例えば、タンパク質はアミノ酸がつながってできてるものなんだから、「アミノ酸が大量につながったヤツ」(まぁそれはバカっぽいので、もっとカッコよく呼べば「アミノ酸の重合体」)と呼んでもいいんですけど、それより、「タンパク質」と呼ぶ方が遥かに便利なのです。)

なので、慣れるまで大変でも、まぁ長いものには巻かれろで、新しい用語に出会ったら、業界人の振りでもして使ってみれば、多分その内自分のものになるので、臆せず使うのがいいかと思います。
(といいつつ、この入門編では、なるべく専門用語を出さずに頑張っていきたいと思っていますが…。)


せっかくなんでこの機会に、この辺のDNA関連で出てくる、似たようなことを指しててごっちゃになりがちな用語をざっと並べて、それぞれ比較してハッキリさせておきましょうか。

DNA核酸染色体遺伝子ゲノムコドンヌクレオチド塩基、などなど、もうちょい挙げようかと思ったんですが、完全に大学の生物学レベルの話になってしまい、今挙げる意味が全くなかったので、自重しておきました。

まず一番分かりやすいのが、これは、細胞の中に存在する一番大きい具、DNAが格納されている場所ですね。

…と、「場所」とはいっても、場所というからには他と区別することができる物体として存在しているということですから、「核自体は何者なんだよ?何でできてんだよ?」と気になる方もいらっしゃるかもしれません。

細胞が膜で包まれた風船みたいなものだったように、核も、膜(二重膜)で包まれた丸い構造になっています。

ただ、所々に穴ぼこがあいているので、厳密に「ここからが核の中、ここからが核の外」とは区別されていないともいえるかもしれませんね。
(ちょうど、瀬戸内海と太平洋が、厳密にどこからどっちとは区別できない(一応紀伊水道と豊後水道が境みたいですけど、境目ら辺でコップに水をすくって「う~ん、これは太平洋の水!」とかいうことはできない、みたいな意味で)のと似てる話ともいえるでしょうか。…いやちょっと違うか。)

ということで、核というのは、二重膜に囲まれた、DNA格納庫ということでOKでしょう。
(「…えっ?いやだから、核という物体そのものは、何でできてんだよ?成分というかさ…」という疑問が放置になってますが、その辺の説明もちょっと書いてみたんですけど、無駄に長ったらしくなったし、今また脱線する話でもないかな…と思えたので、またいつか別の機会に触れようと思います。
 とりあえず今は、細胞という水風船の中に1つだけある、小さい(でも細胞の中身の内では最大)穴あきボール(中にDNAが詰まっている)とでも思っておけば問題ないでしょう。)


次に分かりやすいのは…単語自体は耳慣れないけど、ヌクレオチドかな?

これは、ちょうどこないだ話に出したばかりですが、完全に分子の名前ですね。要は物質の名前です。

「核」というのはいわば場所を指していう名前でしたが、ヌクレオチドというのは、物質名だということです。

ドンピシャ同じパターンの名前なのが、「アミノ酸」ですね。

アミノ酸は、20種類のものが沢山つながって色々なタンパク質ができあがる、というのはもうOKだと思いますが、ヌクレオチドは、そのDNA版です。

4種類のヌクレオチドが大量につながることで、DNAができあがる、という感じですね(その4種類は、A, C, G, Tである、というのも、これまでもう何度も書いている点です)。


続いては、先ほどヌクレオチドの次に「塩基」というワードを出してましたが、…ってあぁー、こんなの今は別に要らないかな……まぁ使う(知ってた方が便利)かもしれないんで出しておくと、例えば「1551個のヌクレオチドがつながって『お酒分解酵素ALDH2』の作り方を指定しているのが、DNAの役割」…みたいな話をしていましたが、数え方が「個」というのも何かかっこ悪いんですよね。

実際のこの業界では、ヌクレオチドが1551個つながっているものは、「1551塩基から成るDNA」みたいに呼ばれています。要は「塩基」というのは数え方の単位で使われているワードという話ですね。
(実際には「塩基」という用語は色々な意味で使われますが、DNA関連ではそういう意味がメインという感じです。)

なぜ「塩基」かというと、前回チラッと画像も紹介していたA, C, G, Tが、化学的に「塩基」と呼ばれる物質だから、という理由に他なりません。

せっかく話に出したので触れておくと、AとGはプリン塩基、CとTはピリミジン塩基と呼ばれるもので、ずーっと昔、納豆の記事でも触れたことがあったんですが、日常生活でもよく見る「プリン体カット」のプリンという一見美味しそうな言葉、これ実はこいつらのことを意味しているのでした。
(もちろんAとGだけがプリンではなく、生体内にはプリンを含む物質は他にもあるので、こいつらだけではありませんが。そしてこいつらはpurineであり、プッチンプリンのpuddingとは残念ながら別物です。)


そして、コドンももう楽勝ワードでしょう。

コドンとは、「アミノ酸1つアミノ酸も「個」とか「つ」ではなく、しばしば「残基」という、これは正直意味不明なキモいワードが使われますが、まぁこれは覚えなくてもいいでしょう)を指定する、DNA3塩基のこと」でした。

つまり、コドンは……なんていえばいいんですかね、まぁいわば概念の名前ではあるけど、具体的な物質を指定というかイメージできる用語なので(=DNA3塩基)、分かりやすいことこの上ないといえましょう。

ただしもちろん、連続するDNA3塩基でも、コドンとはいわないこともあります。

例えばALDH2のDNAはATGTTGC…という並びでしたが、最初のATGメチオニン、次のTTGはロイシンを指定しているのでこれらはコドンですが、2番目のTから始めてTGTは、これはアミノ酸を指定していないので、コドンではありません。

まぁ、「そりゃそうだわな」としかいえない点なので、特に注意書きをする話でもなかったかもしれませんね。


先ほど列挙した用語集、こっからが微妙にややこしい!

残るはDNA核酸染色体遺伝子ゲノムですけど、まずはよく考えたら名前がややこしいだけで中身はややこしくなかった、核酸からいきますか。

こいつは何気に初登場の用語なわけですが、これは、「核」と似ていますけど、全く別の用語です。

核酸はいわばグループ名で、DNAとRNAをあわせて「核酸」と呼ぶ、というそれだけですね。

DNAは核酸の一種、RNA核酸の一種、これら2つをあわせて、「核酸」と総称できる、って話なわけです。
(DNAは日本語で書くとデオキシリボ核酸RNA「リボ核酸なので、省略せずに書けば、どちらも核酸なのは明らかだったのでした。
 RNAについて詳しくは、またいずれ……)

核酸」自体も一応物質名とはいえるけど、あくまで総称なので、具体性に欠けた、情報量の少ない用語って感じですね。

例えばDNAの粉末を手にとって、「これは核酸です」というのは間違ってはいないけど、ちょっと不親切な話になってるわけです。

核酸の内、DNAってことは分かってるんだから、「これはDNAです」という方が親切だってことですね。

(似た例でいえば、例えば「アミノ酸」という単語も総称ですから、20種のアミノ酸の1つ、グリシンが入ったボトルを手にとって「これはアミノ酸です」というのは、間違ってはいないんだけど、「いやいや、『これはグリシンです』って、もっと詳しく伝えてよ」と感じる、ってのと同じですね。)

要は、「核酸」という用語は、DNAとRNAを一度にまとめて呼べる呼び方だ、というそれだけのものです。あんまり使わないですかね(所詮DNAとRNAの2種類だけなので)。


さて続いてそのDNAという単語、これは簡単そうに見えて、めちゃくちゃよく使われるだけに、色々な用途で使われているという複雑さがある感じですね。

一番正しい用法というか、単語そのものの持つ意味は、あくまでも物質です。

ヌクレオチドという小さな物質が、ビーズのネックレスのように延々とつなぎ合わさってできた巨大分子、それこそがDNAです。

なので、DNAは物質ですが、あくまで総称なので、「お酒分解酵素の情報を含んでいるDNA」もあれば、「血液型の情報が保存されたDNA」もある感じで、サイズも、中身も、様々なDNAがこの世には存在します。

そして厄介なことに、日常生活では、次に見る「遺伝子」的な意味で使われることもままある、という悩ましい点があるんですよね。

というより、遺伝子という意味さえも超越した、いわば「」「何か知らんけど、自分や仲間だけが持つ、自分自身を形成する何か」みたいな意味で、例えば
「寿司をそんな風に改変するだなんて、俺の日本人DNAが拒否している!」
とか、有名コピペ
「その魂は私から子供へ、子供から孫へと受け継がれていくし、そうやっていつか仁のDNAと混ざり合うから。それがファンと仁とのEternalだし。」
とか、もうメチャクチャ(笑)としか思えないような使い方をしばしばされますけど、不思議と、いいたいことは完璧に伝わってくるんですよね。

さらにいえば、DNAの持つそういう漠然とした意味の広さに甘えて、僕自身も、「ヌクレオチド」とするべきところをDNAと書いたり(先ほどのコドンの所、「DNA3塩基」より「ヌクレオチド3塩基」の方が適切でした。DNAは基本的に高分子を指すので)、「遺伝子」の意味でDNAと書いたりしたこともチラホラあります(そっちの方が分かりやすい気がする場面で)。

なので、DNAは、適当に使っても、意味が上手いこと捻じ曲がって、正しく意図してたことを伝えてくれる柔軟性があるともいえる気がします。流石はDNAさん、器が大きいぜ!

続いては今までのやつらよりやや理解がしづらいかもしれない「遺伝子」という単語を見てみましょう。

なぜ難解かというと、これは「物質」ではなく、完全に「概念」を表す言葉になっているからですね。

とはいえこれは、日常生活で使われがちなワードであり、普段使われる場面でも大きく本来の意味を外してないから、 まぁ馴染みはあるかもしれません。

結局、遺伝子は情報なんですね。

お酒分解酵素ALDH2の遺伝子は、具体的には「1551塩基のDNA」ではありますけど、この物質自体は1551個のヌクレオチドがつながったDNAであり、遺伝子はあくまで「そこに記されている情報」といえましょう。
(まぁ、その1551塩基のDNAを大量に合成して目に見える量の粉末を用意し、手に持って、「これ、何だと思う?これね、ALDH2の遺伝子」と言うのはまぁ間違ってはいないんですけど、「これ、ALDH2の遺伝子を含むDNA」って言った方がやっぱり正確ですね。)

あくまで具体的な物質というより概念なので、概念を伝えるのも難しいのですが、何となく言わんとしていることは伝わったと期待して次へ行きましょう。


遺伝子ときたら、めっちゃ似てる場面で使われる単語、ゲノムですけど、まぁこれも具体的な物質というより、概念を指すワードです。

しかし意味としては案外簡単、こちらは、「その生物の持つ全DNA一式」という意味合いですね。
(もちろん、どの細胞もその人の持つ全DNAを持っているという話でしたが、全細胞のもつ全てのDNAを合計するということではなく、「自分を作ることのできる全DNA一式」という意味です。)

つまり、何度か書いてる通り、ヒトの持つ(ヒトを形成する)DNAは合計約60億文字(新しい用語を導入したので、60億塩基といってもよいですが)でしたが、前回触れたとおり、父から30億、母から30億文字ずつ受け継ぎ、実はその30億文字でヒトの設計図は完結してますから(=ぼくたちは、全ての遺伝子を、2つずつ持っている)、ヒトゲノムは約30億塩基といえるんですね。

これこそまさに、「『全DNA』とかでいいじゃん、何だよゲノムって!」と憤りを覚えますが、まぁ全DNAとか書くと、上で但し書きをしたように、「数十兆個の細胞全ての持つ全DNAの合計」という誤解を招く場合もありますしね、1ワードで表せる用語があると便利な場面も多いですから、甘んじて受け入れるようにしましょう。


ということで残りは染色体になりましたが、記事も長くなりすぎたので、次回、続いて染色体の話を見ていくことで、本題に戻る感じにしようと思います。

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