前回の記事ではガラスの耐薬品性について、アルカリ性物質にはやや不適という弱点があるものの(とはいえそれも、一瞬で目に見えて分解されてしまうレベルでもないですが)、酸や有機溶媒含め、極めて幅広い物質に対して高い安定性を誇る優良な素材だといえましょう…的なことに触れていました。
…と、今回は元々最近のシリーズに脱線していた元ネタである「熱」について見てみようと思うのですが、結論からいうと、一口に「ガラス」といっても実はどのような元素を含んでいるかで違う性質のものが存在しており、何気にガラスもプラスチック同様、「熱に強いか、弱いか」で2種類に大別できる感じになっているんですね。
とはいってもプラスチックのように「熱可塑性・熱硬化性」みたいなハッキリしたグループがある(そしてそれぞれに色々な種類のプラが存在)というわけではなく、「熱に強い加工がされているもの」が存在するだけで、そういうやつを単純に「耐熱ガラス」と呼んでいるだけに過ぎない形にはなっているようです。
具体的に何が違うかまでは寡聞にして存じ上げなかったんですけど、上記ウィ記事によりますと、ズバリ、ガラスの主成分は二酸化ケイ素すなわちSiO2、別名「ケイ酸」というのは前回も書いていた話ですが、ケイ酸に加え、酸化ホウ素も一部混合してやり、ガラスの熱膨張率を下げてやることで、熱に強い性質を生み出しているんですね。
そもそも普通のガラスが「熱に弱い」というのは、実は温めるとガラスがドロ~リと溶けてしまう…ということでは決してなく、ウィ記事にも「原理」の項で丸々一段落を使った記載がありますけど、ガラスは熱が加わるとかなり膨張するという性質があり、外部から熱が加わった際、まだ冷えている部分と熱が加わった部分とで分子レベルでの膨らみ方に大きな差が生まれる結果、分子同士が強固に結合して形成している結晶構造にひずみが生じ、耐えきれなくなった時点で割れてしまう…と、そういう話になっています。
なので、酸化ホウ素B2O3を混ぜてやってガラスの膨張率を下げてやることで、多少の温度差では結合が破壊されないぐらいの変形・ひずみにしてやってるってことですね。
この「耐熱グラス」、実は特定の名前で呼ばれがちのもので(絆創膏が「バンドエイド」みたいなレベルですね)、それが、これまたウィ記事にもあった通り、「PYREX(パイレックス)」というものになります。
まぁそれはまた後で触れるとして、その辺の熱で割れる仕組みなどについて、僕も学生時代に使っていたビーカーなんかで非常に馴染みのある「iwaki」のショップサイトが、イラスト付きでとても分かりやすい解説記事を書いてくれていたので、グダグダ文字で書かずともこちらを参考にさせていただくのがベストだったでしょうか。
こちらの記事で表にもまとめられている通り、耐熱ガラス以外には、最も一般的なソーダガラス(ソーダってのは炭酸しゅわしゅわのことではなく(笑)、「ナトリウム」の別名ですね)、光沢や透明度が高く高級感のある鉛クリスタルガラス、そしてなんと「耐アルカリ」という素晴らしい特徴が備わっているらしいアルミノケイ酸塩ガラスなどなど、ガラスにも色々な違いがあるわけですね(そして、読んで字のごとくの通り、基本的に構成化合物で表されている感じですね)。
そして、件の耐熱ガラスは一般的にホウケイ酸ガラスと呼ばれるもののようで、正直「もうちょいイイ名前つけれんかったの(笑)」って思えてしまいますけど(笑)、これはホウ素とケイ酸ということで仕方ないのかもしれません(笑)。
まぁ、それならやっぱり「PYREX」呼びが普通だと思いますけど、ズバリ、iwakiのビーカーでもその刻印はよく見た(というか今でも毎日見ている)感じですねぇ~。
せっかくなので検索してみたらありました、ズバリ、こんな感じですね。
ちょっとピンボケですが、「PYREX®」「IWAKI」の刻印が確認できるかと思います。
一方、PYREX表記がないビーカーもありますけど…
これは耐熱性がないため、下手にレンジとかで加熱すると、割と本当に余裕で割れてしまうので要注意といえましょう。
実験器具以外のガラス製品で「PYREX」表記があるかどうかはあんまり覚えていませんが、まぁガラス製品を火にかける人なんていないと思いますけど(笑)、電子レンジなんかは気軽に使いがちではないかと思えるのですが、ガラスをレンジにかけるのは、きちんと耐熱表記やPYREX表記がないものだと結構本当に危険なことに、この機会に注意喚起しておきたい限りですね。
(もちろん「危険」といっても、ヒビが入ったり割れたり程度で、爆発とか有害物質ドバドバってわけではありませんが…。)
ちなみにその世界共通のPYREX、個別記事がウィッキー先生にあったので辿ってみましたところ…
…なんとこれ、Corning社の開発したブランドだったんですねぇ~。
Corningは、まぁこれも業界外の方には何のこっちゃな話なんですが、少なくとも僕は細胞培養で使うプラスチックのディッシュとかチューブとかが圧倒的に馴染みのある企業だったので…
(実際、Corning社の中でも、一大部門ではあるみたいですが↓)
…まさか、プラスチック製品ではなく、元々ガラスの会社だったとは、これは新鮮な驚きでした。
まぁ多分普通のアメリカ人には常識で、ちょうど、Fujifilmが生命科学系の事業も展開していますけど、アメリカ人が「Fuji?試薬会社だと思ってたよHAHAHA」とか思っているようなものなのかもしれませんね(まぁこの場合「フイルム」という名前があるので勘違いしようもないですけど(笑)、あぁもっと適切な例として、TaKaRaも生命科学系の試薬・酵素で大きなシェアを持っていますが、普通の日本人的には「宝酒造」でお酒の会社なので(そこで培った醸造の技術とかが、遺伝子工学・分子生物学に生きてる感じですね)、アメリカ人が「TaKaRaがalcoholの企業だって?意外だなぁHAHAHA」とか思う感じでしょうかね)。
といったところで、冬時間一発目でしたが1日25時間あった恩恵はまるでなく(笑)、いつも以上に時間がなかった結果、何ということもないネタだけで終わってしまいましたが、ガラスにも色々あり、特に耐熱ガラスではないものを加熱するのは、本当に案外すぐ割れてしまうので、どうかご注意ください…という再啓蒙で〆とさせていただこうと思います。