何度かほのめかしていましたが、DNA・遺伝子・染色体的な話をおさえたところで、次へ進むために、そろそろ新しいやつがしゃしゃり出てくる必要が出てきた感じです。
まぁ別にもったいぶるものでもなく、絶対に誰でも聞いたことあるやつなんですが、案外「実際にそいつが何者なのか?」をしっかりきっちり理解できてる方は少ないと思うので、なんとなくのイメージをもつ手助けになれれば幸いです。
そもそもこの分子生物学入門編的なネタは、アミノ酸(♪燃焼系~)に端を発していたんですけど、アミノ酸に関しては、恐らくほとんどの方が
「何か栄養。よく分からんけど、酸ってあるし、スッキリしてそう、スゴそう」
…という印象だったのから、
「20種類のものをまとめてそう呼んでいる。その20種類のアミノ酸はいわばビーズ(レゴブロック)みたいなもので、これが大量につながることで、色々なタンパク質ができあがっている」
…という印象へと、まぁ日常生活で出会ったときにそんなイメージは実際もたないと思いますけど、冷静に考えたら「そういうものだ」と思い出せる、正確な知識みたいなものをゲットすることには成功したのではないかと思います。
一方、そのタンパク質ですが、「アミノ酸」という言葉からは、(さっきも書きましたが)何か「スッキリ・キリッとしてる」みたいな印象をもつと思うんですけど、「タンパク質」という言葉からは多分、「何か肉々しいというか、デップリとしている。太ましそう、くさそう」みたいな印象をもたれるのではないかと思うんですよね。
「アミノ酸飲料」と聞くとシャキッとしてそうだけど、「タンパク質飲料」と聞くと、何かネットリしてるというか、重くてドロッとしてて、くさそうみたいな(そればっかじゃん(笑))、そんなイメージをもたれている方が多いと思うんですが(というか、実際自分は知識がなかったらそういう印象ですね)、
実際は、アミノ酸がつながってできたものがタンパク質なので、こいつらは親と子というか兄弟というか、そもそもある意味同一人物であるという点には注意が必要かもしれませんし、恐らくそういう感覚はもうお持ちになられていると期待しています。
…まぁでも、タンパク質はアミノ酸がめっちゃ大量につながった高分子の物体なので、実際水に溶かしたら「ドロッとしてる・重そう」というイメージは、普通に正しいんですけどね。
ただ、このくさそうなタンパク質=プロテインは、実はアミノ酸というシャッキリしてそうなやつから作られている、という事実は、現実世界では別にそんなことどうでもいいんですけど、少なくとも分子生物学では世界一重要な知識というか話になっている、ということでした。
(多分、「タンパク質」には、何気に英語呼び (protein) にも「パ行」があるから、何か丸っこい印象で、一方「アミノ酸」には破裂音が一切ないので、何かあっさり爽やかな印象をもってしまいがちなのかもしれませんね。まぁ僕だけかもしれませんけど。…っていうか、言っててあんまり本当はそんな印象もないんですけど(笑)。)
そして、そのタンパク質(=アミノ酸が大量につながったもの)に関しては、DNAが作り方を指定しているという話で、その辺に関する話をこれまで長々と見てきたのでした。
~おさらい~
(「恐らく多くの方がもたれているイメージ」→「さらにしっかり抑えておくと良いこと」の流れで…)
DNA:「何か遺伝子みたいなの。自分という人間の本体??」→「A, C, G, Tの4文字から成る、タンパク質(=アミノ酸の並べ方)のレシピ。自分という人間の情報そのものだけど、あくまで情報が載ってるだけのレシピ本。こいつらだけでは何も出来ないし、何も生まれない」
ヌクレオチド:「聞いたことなし」→「A, C, G, Tの4文字がある、つながるとDNAになるビーズ(ブロック)みたいなもの。タンパク質でいうアミノ酸」
アミノ酸:「栄養、カッコいい、爽やか、スッキリ」→「20種類あって、つながるとタンパク質になる!」
タンパク質:「マッチョ、くさそう。肉、卵、牛乳、豆(…と、その辺の食べ物のイメージは合ってますが)」→「20種類のアミノ酸がつながってできた、信じられないぐらい多機能な、マジで何でも出来るスーパー分子。色んな機能をもつ実働部隊、目にもなるし髪にもなるし肌にも筋肉にも骨にもなるし、酵素として細胞内での生体反応を司るマシーンにもなるしで、間違いなく人間の本体そのものであり、生命活動の主役。生きることとは、タンパク質を生産し続けることだ!」
…というのがこれまでの主要登場人物の、ざっくりとした「もっておくとよいイメージ」だったわけですが、それ以外に、主役のタンパク質を作るためのDNAは、細胞の中の、さらに核と呼ばれる大きな丸いスペースの中に、染色体という形で存在していること(何せ合計60億塩基対と激長なので、コンパクトになる必要があるので)、それから、DNAの3文字が1つのアミノ酸を指定しているということなんかにも触れていました。
しかし、実は、DNA→タンパク質という流れには、もう1つ、これまでほぼ触れていなかった、中間管理職というか中間業者みたいな別のものが、一枚かんでいるのです…!
それが、恐らく誰でも必ずどこかで聞いたことがあると思われる、RNA!
名前からも分かると思いますが、ぶっちゃけDNAの仲間、似たようなものですね。
具体的には、DNAを形成している物質であるヌクレオチドの一箇所に、酸素原子 (O) をたった1つ加えるだけで、RNAになります。
たったの酸素原子1つなのに、名前から役割からガラリと変わってしまうんですね。
でもまぁそういう細かい知識は不要でしょう。
なので、DNAとRNAを区別するのが重要な場面では、DNAの構成要素であるヌクレオチドのことはデオキシリボヌクレオチドと呼ぶこともあるし、RNAのヌクレオチドはリボヌクレオチドとも呼ばれます。
長すぎる横文字でイラッと来るかもしれませんが、「オキシ」が酸素のことで、「デ」が「無し」を表す接頭語なので、案外分かりやすい名前になってるともいえるかもしれません。つまり、デオキシ・リボヌクレオチドで、酸素無しのリボヌクレオチドという感じなわけですね。
でもまぁ、改めて、そういう細かい化学の知識はどうでもいいと思います。
とりあえず色々詳しくはおいおい見ていくとして、大まかに、最も大きい視点からRNAについて触れておくと、たった1行、こういうことですね。
DNA→RNA→タンパク質
理論上は、DNAにはアミノ酸のレシピ情報が書かれているので、それを直接読んでアミノ酸をつなげてタンパク質を作ればそれでOKな気もするんですけど(というかその方が単純で分かりやすいですよね)、現実的には、それはやや難しかったのか、DNAから直接タンパク質合成へとは進まず、RNAがしゃしゃり出てくる(というと言い方が悪いですけど、RNAの力を借りる)という形になっているわけです。
理由の1つとしては、例えばDNAは二本鎖(二重らせん)の状態で存在していると書きましたが、タンパク質合成マシーンは、場合によってはスピーディーにレシピ文字列をスキャンして読んでいきながらアミノ酸を全力でつなげていく必要があるんですけど(今すぐこの酵素が必要!みたいな緊急時とかですね)、二重らせん状態だと、スムーズにスキャンすることが難しいんですよね。
(これは、普通に想像できると思います。二本の紐が複雑に絡まりあってる状態で、一本の紐に書かれた文字だけを読んでいくのは大変。)
まぁそういう、「そうしなきゃいけなかった」的なある意味「消極的な必然性」のみならず、RNAが間に立つことで、劇的に色んなことが可能になったという事実もあるので、一見余分なステップにも思えるんですけど、生体反応の幅がめちゃくちゃ広がったという「ポジティブなメリット」も大いにあったということで、生物はその仕組みを積極的に活用する形で進化してきた(その仕組みを採用したやつらが生き残った)ともいえるのかもしれませんね。
(「劇的に色んなこと」「ポジティブなメリット」みたいな話については、詳しくはまたいずれ…。でも、かなり複雑で、入門編にはそぐわない内容かもしれないので、だいぶ後回しになりそうです。)
なお、このDNA→RNA→タンパク質という一連の流れは、二重らせんを発見したクリックさんによって提唱され、「セントラルドグマ」と呼ばれていますが、マジでゴミカスみたいな細菌から、オケラだってオクラだってアメンボだって、生きとし生ける全ての生物が、この流れに沿って生きています。
人間も、動かぬ植物も、単細胞であるゾウリムシでさえも、日々、DNAのレシピ情報を、まずRNAに写し書いて、それを実働マシーンたちが読んで新しいタンパク質を作り出す…というのを繰り返すことで、みんな一生懸命暮らしているんですね。
パッと聞き当たり前のようで、冷静に考えたら、「全ての生物で例外なくか…。1950年代なんて、まだまだ分かってないことの方が多かっただろうに、そう言い切ってしまえる胆力というか先見性、やっぱクリックさんはスゲェや…!」って思える話になっているといえましょう。
…というわけで、何かおさらい部分が長く、新顔RNAはまさに登場しただけで終わりになりましたが、順に、細かすぎることよりも、なるべく分かりやすく全体的なイメージをもってもらえることを優先に、また話を進めていこうと思います。