続×25・英語スラングシリーズ:ビーフ(牛肉ではない)の謎に迫る

それでは今回はまず、前回の記事を書き終えた後にふと触れ忘れに気が付いていました、「『beef』のスラング的意味(=面倒な厄介事)の由来は…?」という点から補足として見ていこうと思います。

とはいえこれも、正直例えば日本語の「おたんこなす」が、「なぜナスビなのか?俺達の茄子が何か悪いことしたのか!?」とナスマニアからしたら怒りの疑問をぶち込みたくなる点かもしれませんけれども、「いやナスマニアなんていねぇだろ(笑)」と思えるといいますか、正直99.99…%の非ナスマニアである一般国民はそんな由来なんて誰も知らない&別に知りたくもない話になっている(だけど、日本人ならこの言葉は誰でもどこかで聞いたことがある)のと同様、正直スラングビーフを使ってるネイティブも別に由来とかそんなのは全く意識せず使ってると思うんですけどね。

(一応、俗語辞書(↓)によると……

zokugo-dict.com
…「おたんちん」という罵倒語の「ちん」を男性器とみなして、そこを「小茄子」に置き換えた……という、まさかのクッソしょうもない下ネタがその由来「」とされていた通り、あくまで一説でありハッキリしないというのも、この手のスラング・俗語の特徴にも思えてしまいます。)

 

…などという、既に以前全く同じ内容を書いたことのあった話はともかく、何かそれなりに納得できる情報が出てきてくれることを期待して、解説文にあたってみましょう。


検索したら、トップの方に久々登場・StackExchangeのQ&Aフォーラムで、件の質問がバッチリなされていました。

english.stackexchange.com
SE記事はマジでお役立ち情報の宝庫ですからね、今回はこちらを参考にさせていただきましょう。


面白いことに、投稿者による質問文そのものに、既に大方由来っぽい説明がなされていましたけど(質問文へのコメントにも「自分で答書いとるやん」というものが寄せられていました)、まぁせっかくなので「マイナス評価」のイマイチな回答含め、順に参考にさせていただこうと思います。

 

user66974 (質問者):スラング的な「beef」の、アメリカ英語およびイギリス英語における用法の由来(質問スコア16点)


自動詞としてのBeef1888年に誕生し、その後すぐ1899年には名詞の意味を持ち、「What's your beef?(何が問題なの?)」や「I had a beef with him(彼との間に問題がある)」(ステーキという意味ではない)などの表現が登場してきた。

動詞(1888年スラングとしてのBeefアメリカ由来):文句を言う、不平を言う、不満を言う、抗議をすること。これに応じた動名詞としては「beefing」。それ以前は、大声で、あるいはぼそっと話すという意味であった。

1888年「He'll beef an' kick like a steer an' let on he won't never wear 'em.(彼は不平不満を叫ぶとともに激しく抗議し、絶対に着用しないと言い切るだろう)」―ニューヨーク・ワールド 5月13日号より


名詞(1899年)スラングとしてのBeefアメリカ由来):苦情、抗議、不平、不満、異議、議論、争いの種。

1899年「He made a Horrible Beef because he couldn't get Loaf Sugar for his Coffee.(彼はコーヒーに使うローフシュガーを手に入れることができず、凄まじい抗議を行った。)」―Fables in Slang(1900年)George Ade著、p. 80


その由来については、主に2つの説を見つけることができた:

Etymonlineによると、アメリカ兵のスラングからきているとのこと:

その起源と意味付けは不明である;恐らく19世紀後半にアメリカ兵が配給ビーフの量や質についてよく訴えたことに端を発しているのではないか。


一方、Quoraに掲載されたこの文章は、韻を踏んだスラングが語源であることを示唆している:

beefの語源については、「stop thief(待て、泥棒)!」という意味の「hot beef!」という叫び声(準韻文スラングだが、韻文スラングが最初に広く使われた、1820年代から30年代にかけての時期より遥かに古いので、意図的なものではなく、偶然の一致ではないか)に遡るようである;つまり、18世紀のhot beefという叫びは、公然とした喧騒を引き起こすという意図のものであった。これが「警鐘を鳴らす」「騒ぎ立てる」となり―結果、犯罪の有無は関係なくなり―単に「叫ぶ」へと変化していった。その後、「不平不満を言う」という使い方につながっていく。さらにその後(いずれも19世紀後半)、「議論する」、「誰かを当局に引き渡す」などといった用法が登場した。

ビーフ」の比喩的用法は主に元々アメリカ英語のものであるようなので、アメリカ兵(そして恐らくカウボーイ)への言及は合理的に聞こえるが、韻を踏んだスラングを想定してみた場合、イギリス英語の表現が、何らかの理由でアメリカで普及したものになったといえるのかもしれないし、あるいは以上の話は同じ表現の由来となった2つの異なる物語について語られているのだろうか?


短く疑問点をまとめると、「beef」の比喩的用法に、もっともらしく、また信頼できる起源があるのだろうか?…ということである。

関連記事:Do you have a beef with me?

 

Wino Rhino(上位55%に位置する回答者):回答スコア6点

この表現は、名詞形のhave a beefでも動詞形のto beefでも、コックニー(※注:東ロンドンの方言)の韻文スラングから伝わってきたものであろう。


Beef
Thiefと韻を踏んでいる。


Beeves
(古語)はThievesと韻を踏んでいる。


賑やかな市場の一日を想像してみよう。狭い通りで、近所のスリが人混みをかき分け、見知らぬ誰かが「Stop! Thief!(待て!泥棒!)」と叫んで追いかけてくる。ここで、市場にいる人の中には、その泥棒を知っている人や、共通の利害関係で結ばれていると考えている人が少なからずいると考えてみよう。周囲の警戒心を消すために、困惑した同調者たちが「Hot Beef!」と叫び、混乱の中で悪党は逃げ去っていくのである。

奇想天外すぎるかな?うーむ、それなら、コックニーの韻を踏んだスラングが実際の出来事だったことだけは認めて、それが採用された理由を掘り下げるのはやめておこう。

Historically Speakingより:

このフレーズは数世紀前から存在し、ロンドンの犯罪者の裏社会に由来している。

コックニーは韻を踏んだスラングの使用でよく知られているが、フレーズというものは必ずしも見かけ通りではない。

伝統的な「stop thief!」の掛け声は、犯罪界では「hot beef, hot beef」に置き換えられて擬態され、「stop thief」の掛け声は、何もせずに騒いでいるのと同じに過ぎないと考えられていた。

1811年版の「Dictionary of the Vulgar Tongue(俗語辞書)」では、Beefを次のように定義している:to cry beef; to give the alarm.(ビーフと叫ぶ;警報を出す)。

 

以下、「Dictionary of the Vulgar Tongue」(1811年版)の関連項目を4つ紹介してみよう。

TO SING:To call out; the coves sing out beef; they call out stop thief.
(呼びかけること;輩がビーフとどなる;彼らは泥棒を止めろと呼びかける。

BEEF:To cry beef; to give the alarm. They have cried beef on us.彼らは我々に向けてビーフと叫んだ。)隠語。―To be in a man's beef; to wound him with a sword.(男性へのビーフ;その男を剣で傷つけること。)To be in a woman's beef; to have carnal knowledge of her.(女性へのビーフ;その女に肉欲を抱くこと。) you bought your beef of meなら、肉屋が太った男性に対して言う面白い冗談のような要求で、自分に仕えてくれる肉屋を信用することを暗示している。

DUMMEE(ダミー):財布。財布ハンター。紳士のポケットから財布を盗むために潜んでいるスリのこと。隠されている財布を服の上からチェックする;財布から紙幣を全て取り出し、ダミーし、逃走し、beefと叫ぶ。財布を捨て、「stop thief」と言いながら走り去る。

SQUEAKスクイーク):命からがら逃げ出すこと、そのチャンス:he had a squeak for his life(彼は命からがら脱出した)。To squeak;告白すること、裏切りの情報を提供すること、寝返ること。They squeak beef upon us彼らは我々にbeefと偽りの発言をした;我々を狙って泥棒と叫ぶこと。隠語。

 

Lambie(上位2%に位置する優良回答者):回答スコア2点

こちらが、World Wide Wordsによる、BEEFのベストな解釈である。

この動詞の始まりを辿っていくには、さらに遡る必要がある。18世紀初頭には、cry hot beefまたはgive hot beefという俗語があり、これは警鐘を鳴らす、追跡を開始する、または公然と騒ぎ立てる、という意味であった。これは、露天商の叫び声に基づくもので、stop thief!にかけたダジャレだったのかもしれない。1725年版のNew Canting Dictionary(新隠語辞典)には、「to cry beef upon us: They have discover'd us and are in Pursuit of us(我々にbeefと叫んでくること:我々を発見し、追いかけてきている)」と記されている。その数年後、beefという動詞はそれ自体でraise a hue and cry(公然と騒ぎ立てる)という意味にもなり、これは19世紀までよく使われ続けた。


どう思う? 引用したエントリーの部分は、上記にあるように、1段落になっているよ。

(※注:この投稿へのコメント欄では、続きの段落に関する言及もなされていましたが、全体的にあんまり有用にも思えなかったので、コメントに関しては省略します。)

 

(※続・注:以下のマイナススコアの回答は、どちらにも「引用・参考文献があると説得力が増すよ」というコメントがついており、かつ、読者からの評価はマイナスということで、まぁ1人のネイティブが勝手に想像している類の意見なのかもしれませんが、一応参考までに一部紹介させていただきましょう。)

bobobobo(上位9%に位置する優良回答者):回答スコア-1点

これは、牛が、我々人間にとってはまさかそんなことに不平があるとは思えないようなことに対して「文句を言う」(モーと鳴く、苦痛を示す)ことと関係があるのかもしれないんじゃないかな、なんて思えるよ。例えば、近くに明るい服を着た人がいるだけで、モーモーと「文句」を言うかもしれない、なんて具合だね。

牛がモーモーと文句を言うのは「beefing」といえるね。beefingとは、我々非常に賢い人間が「文句を言う必要などない」と思っていることに対して文句を言うことなんだ。牛が「beef」するとき、我々は牛を、真に受けるべきではない文句を垂れ流すだけのただの馬鹿な肉と考えている、といえるね。人間が他の人に使う場合、一般的にはその人を馬鹿な肉と侮辱する意味ではなく、その人の不満を軽く見て、その不満がやや余計なことだとさりげなく言うためのものではあるけれど。

(※以下例文省略)

 

laogui:回答スコア-1点

アメリカ西部の羊農家と牧場主の争いに由来すると思われる―誰かと揉めることに関連したものだ。50年代の映画『Shane』は、一部、この戦争を題材にしている。

 

…と、当初考えていたより結構長いQ&A集で、翻訳引用するだけで時間が全くなくなってしまいました。


(古い辞書の記述は、イマイチ分かりにくい感じでしたし)結局ハッキリとした由来は分からなかった気もするものの(「泥棒!」のシーフと韻を踏んでいるというのは分かりやすい説明だったものの、その意味と、現在スラングとして使われている主な意味である「長く続く面倒な厄介事」の間には若干の隔たりがある気もしますしね)、まぁ「シーフ」と「ビーフ」をかけて使われたその流れを汲んで、ちょっとずつ時代とともに意味も変わり、今は泥棒要素も犯罪要素もない、「人間同士のちょっとした問題・いざこざ」的な意味に落ち着いたと考えれば、ある程度納得はできる気もしますね。

 

そんなわけで、今回は55語スラングシリーズを進める時間が残念ながらなかったので、続きはまた次回とさせていただきましょう。


スクショ画像もなしでしたが、幸い「ビーフ」ネタで、アイキャッチ画像として使えるイラストには事欠きませんね(笑)。

元々はやや悪用されていたという歴史のあるようなこの「beef」なので、「僕らは悪くないよ!」と言っているような、可愛らしい「バンザイ」をしているウシくんのいらすとをお借りしました。


それではまた次回、スラングリストの続きを見ていこうと思います。

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