コメ返信や補足その1-39:幼稚にならないように気をつけよう

今回は、前回の予告どおり、「セリフ調にすれば時制は一致させなくていいとか、そんなルールなかったっけ?」というコメントで寄せられていたご質問から、まさにそのネタ、いわゆる「話法」について触れてみましょう。


既に前回も書いていましたが、この点に関しては、我らがミントンさんによる偉大なる英文法解説書シリーズ三部作のラスト、『ここがおかしい 日本人の英文法(III)』の、しかもこの最終第三巻の中でも最後の章を飾るというまさしく大トリとして取り上げられていた内容が、僕の学んだこと・書こうと思ったことの全てを語り尽くしてくれていました。

三巻は(前回ちょっと引用させていただきましたが)まだドカッと引っ張ったことはなかったので、引用の範囲であることを願いつつ、「19. 話法(その1)」の章をほとんどまるごと紹介させていただこうかと思います。

一応、一部例文は省略するので、例文が気になった方もそうでない方も、このシリーズは本当に心から役に立つ名著だと思えますから、英文法のおさらい学習をしたい際なんかにはぜひオススメです…という宣伝も、長々と引用させていただくお礼に改めてさせていただきい限りです。


では、名著の最後を飾る話法の章、190ページからの引用になります。

 

19. 話法(その1)

~直接話法 vs. 間接話法~


 文章でも会話でも、他人の発言や考えを伝えることはコミュニケーションの大きな特徴の1つです。その伝達手段には、「直接話法」(direct speech)「間接話法」(reported speech)の2つの方法があります。

(1) Claire said, "You are going to be promoted."(直接話法)
 クレアは「あなたは昇進するのよ」と言った。

(2) Claire said (that) I am/was going to be promoted.(間接話法)
 クレアは私が昇進すると言った。


 この2つの文は、どちらも正しい英文であり、どちらも同じ情報を伝えています。しかし、それは両者が完全に置き換え可能であるという意味ではありません。私たちは「どういうときにどちらのパターンがより適切か」という問題を考える必要があります(ところで直接話法のsaidと引用符“ ”のあいだのカンマは省略しないほうがいいでしょう)。

話し言葉と話法

 私の経験から言えば、日本人の英語学習者は作文でもそうですが、とりわけ会話のときに直接話法を使いすぎる傾向があります。それは、1つには、間接話法よりも直接話法のほうが文法的に単純だから、ということがあるでしょう。もう1つの理由としては、これは私の想像ですが、英語と違って日本語では一般に直接話法を使って他人の言葉や考えを伝えることが多いからではないかと思われます。

 けれども、標準英語においては、実は会話では直接話法よりも間接話法を使うことのほうがずっと多いのです。主な理由は次の2つです。

(a) 直接話法を使うと人称代名詞の混乱が起きる可能性が大きい――日本語ではあまり問題にならないかもしれませんが、(1) (2)の英文を声に出して読んだとき、(2)のthatを省略した間接話法の文(節内が現在形のもの Claire said I am going to be promoted.)と(1)の直接話法の文との違いは、I amとyou areだけです。標準英語の会話では間接話法のほうがはるかによく使われるため、(1)の直接話法の文を聞いた人は、これが間接話法の文であり、youという代名詞は自分のことを指している、と解釈してしまう可能性が非常に高いのです。

(b) 直接話法では、他人の発言を正確に引用する必要がある――引用符 (quotation marks) の主な働きは、他人の発言を「引用」(quote) することです。Oxford Advanced Learner's Dictionaryのquoteの定義には、"to repeat the exact words that another person has said or written"(下線筆者)とあります。したがって、誰かが言った言葉をそのまま引用するのでなければ、引用符を使うこと、すなわち直接話法を使うことは誤りなのです。

 冒頭の例文は非常に短いものですから、クレアが引用された言葉通り("You are going to be promoted.")の発言をした可能性は十分にあります。しかし、同時に、次のように話していた可能性も考えられるのです。

  • Well, you know, I'm not sure I should be, you know, telling you this, but rumor has it that ...(※途中省略、実際の本の中ではもっと長々と書かれています)... you're going to be made section chief.
    えーと、これ、話していいことかどうかわからないけど、周りの噂じゃ、……、部長に昇進するらしいわよ。

 これを正確に繰り返そうという熱意のある人はどれくらいいるでしょうか。

 英語の会話では間接話法のほうが一般的だと言っても、もちろん、直接話法が使われないわけではありません。それは1つには、他人の発言を正しく引用するという規則を守らなくてもまったく気にしない人が多いからですが、もう1つは、直接話法であることを明示して、代名詞の混乱を回避する方法があるからです。

 会話の中で誰かの言葉や考えを伝える際に、直接話法を使っていることを示す方法はいくつかあります。中でも特によく使われるのが次の4つです。

 ① 引用を始めるときに、両手を肩の高さまで上げ、両手をチョキの形にして人差し指と中指を揃え、引用符を書くように人差し指と中指を同時に曲げ伸ばしする――ただし、これは通常、文章を丸ごと引用するより個々の単語やフレーズを引用するときに使われます。文章を丸ごと引用したい場合は、ややフォーマルな感じになりますが、引用することを言葉で宣言してしまう方法があります。

  • He said, and I quote, "It is the most execrable piece of writing I have ever read."
    彼はこう言いました。「それは私が今までに読んだ最も不愉快な文章である」と。

 

 ② well, OK, look, now, rightなど、会話の出だしで使われる言葉 (sentence opener) を使う――これらの言葉は間接話法では使えないので、引用箇所の先頭に挿入されていれば、直接話法に切り替わったことをはっきり示すことができます。

(※注:下の説明で出てくるので、3つある例文のうち、2つ目だけを紹介し、それ以外は省略します。普通に引用の頭にWellやOKが使われている文でした)

  • I can hardly imagine they're going to say, "Look, we can't help you anymore."
    「おい、僕らはこれ以上、君の手助けはできないよ」なんて彼らが言うとは思えない。

 これらの言葉は、伝達をしている人(つまり、例文全体の発言者)が直接話法を使っていることを示すために挿入するもので、引用部分の発言者が実際にこれらの言葉を使っていたかどうかは問題ではありません。

 ③ sayの代わりにgoを使う――これはあまりお勧めできる方法ではありませんが、say, ask, replyなどの動詞の代わりに、goを使って直接話法であることを示すこともできます。

(※注:sayをgoに置き換えているだけなので、例文省略)

 ④ sayの代わりにbe likeを使う。

  • Mike tried to ask me out and I was like, "Are you crazy?" Then he was like, "What do you think makes you so special?", so I was just kind of, like, out of there.
    (I was (like) out of there. は I left と同義ですが、あまり好ましい表現ではありません)。
    マイクが私を誘ってきたので、「頭おかしいんじゃない」と言ったら、彼が「ずいぶん偉そうだな」と言うので、私はその場を離れた。


 以上4つの方法のうち、③と④は正直読者のみなさんにはあまり使ってもらいたくないのですが、ネイティブスピーカーの会話を聞いていれば嫌でも耳に入ってくることでしょう。

 ①については21章もご覧ください(→p. 212)。

 ②は、くだけた会話で使うぶんには何の問題もありませんが、フォーマルさが要求される場面ではやはり間接話法のほうが適切です。というのも、これらの言葉を加えること自体、引用が正確なものではなく、ある程度のミスが含まれていることを示唆しているからです。ただし、これは引用部分が話し手の仮想である2つ目の例文(I can hardly imagine ...)には当てはまりません。

 ③はほとんどジョークや小話をするときのみに使われる、かなり乱暴な言い方です。パブやロッカールームなどでの会話を除けば、sayのかわりにgoが違和感なく使える状況は非常に限られています。また、ジョークや小話を伝えるのにしばしば直接話法が使われることは事実ですが、このような前提がある時点ですでに、聞き手はgoを目安にしなくても直接話法が使われることを予想することができます。

 sayの意味でのgoがジョークや小話のみに使われることは、このgoがほとんど例外なく、現在形で使われることからもわかります。別にgoという動詞に限ったことではありませんが、このような現在形の用法は「歴史的現在」 (historic present) と呼ばれ、聞き手や読者に過去の出来事を身近に生き生きと感じさせる効果があると言われています。この歴史的現在は、ちょっとしたジョークや小話であれば非常によく使われる手法です。ただし中には極端に走って、小説の最初から最後までを歴史的現在で通そうとする作家もいます。私はこうした小説を読むと非常にイライラさせられるのですが、もちろんそう感じない人も大勢いるでしょう。

 ④のbe likeは、最近特に若い人たちのあいだでよく使われている言い方です。今後も生き残って多くの人々に受け入れられるようになるのか、それともあと数年で消えてしまうのか、現時点で判断する方法はありません。使われ始めてからかなり経つようですが、個人的には早くなくなってほしいと思っています。なくならないにしても、読者のみなさんには絶対に真似してほしくありません(特に20代半ば以上の年齢の人と話しているときには)。会話の中で直接話法への切り替えを示すためにsayの代わりに使うぶんにはまだ許せるのですが、中にははっきりとした目的もなく、センテンスのでたらめな位置にlikeを入れる人がいます。Mike like tried to like ask me out and I was like, "Are you like crazy?"のような使い方をする人が、誇張でもなく、本当にいるのです。

 

書き言葉と話法

 一方、文章では、引用符やその他の記号によって直接話法が使われていることがはっきりとわかりますので、代名詞の混乱が起きる心配はありません。しかし、それでも間接話法と較べると、直接話法が使われるケースは比較的少ないと言えます。書き言葉で直接話法がよく使われるのは、次の2つの場合です。

 ① フィクション(会話におけるジョークや小話と同じ)

 ② ニュース記事


 ① ストーリー展開の上で会話が重要な役割を果たすフィクションでは、会話部分全体を直接引用のかたちで示すのが慣例です。直接話法であればそのぶん読者に臨場感を伝えることができます。もし会話文がすべて間接話法で書かれていたら、文章が複雑になって読む気がしなくなるだけです。

 ② 一方、ニュース記事では、個々のセンテンスに焦点が当てられ、報道される人々の発言を正確に引用することが非常に重要になります。間違って引用すれば訴訟沙汰にもなりかねません。また、間接話法を使うと発言者の言葉を多少なりともパラフレーズせざるをえなくなるので、ニュース記事では直接引用のかたちをとるほうが安全なのです。対照的に、テレビやラジオのニュースでは、その人が実際に話している映像を簡単に流せますから、直接話法が使われることはあまりありません。

 つまり、文章において直接話法を使うことが望ましいケースには、基本的に、会話部分全体を伝えたいときと、他人の発言を正確に引用することが重要なとき、の2つの場合があるということです。

 他人の発言を正確に引用しなければならない理由としては、ニュース記事の場合の訴訟沙汰云々のほかに、次のような理由も考えられます。例えば、引用する言葉が非常に有名なものだったり、金言・格言の類だったり、面白い言い回しだったり、詩的な言葉だったりしたときに、パラフレーズすることでオリジナルの良さが損なわれてしまう場合、あるいは、文芸批評や歴史的分析などの学術的な見地から、正確な引用が求められる場合です。しかしそれ以外のケースで他人の発言を伝えるときには、大人の書く文章であればほぼ100パーセント間接話法が使われます。これは、前節の①~④を除けば、話し言葉にも通じるものです。

 なお、読者から投書が来る前に一言書き添えておくと、英語の“ ”と同じように、日本語の文章でも正確な引用が求められることは私も十分承知しています。日本語の文章を書く際に、果たして私のクラスの学生がこのルールをきちんと守っているのかどうか、もちろん私にはわかりません。けれども、英語の文章に限って言えば、こうした直接話法のルールを無視した不正確な引用の例は、本当に数え切れないほど多いのです。

 

…かなり長々と引用させていただきましたが、大変分かりやすく、そして面白い話が満載でした。

実際の本では、この次に各話法の時制の話になるわけですが、言うまでもなく、直接話法は「その発言をそのまま引用する」形ですから、これは時制の一致などややこしいことを考える必要がなく、言われたことをそのまんまの形で表記すればOKということですね。

したがって、その意味からもまさにミントンさんがおっしゃられていたように、文法的に直接話法の方が遥かに単純であるため(何も考えず、脳死でそのまんまコピーすればいいだけなので)、本文中の「日本人は直接話法での表記を好むようです」…なんて部分は、「あ、バレてましたか、こりゃどうもスンマセン(テヘペロー)」と舌を出して誤魔化さざるを得ないビンゴな感じですなぁと、僕なんぞは思えてしまいました(笑)。

しかし、くどくどと書かれていた通り、大人が書く文章・話す文章は、英語の場合、いくつか挙げられていた例外を除き、基本的に間違いなく間接話法が使われる形になっているんですね。

 

間接話法を使うべき所で直接話法を用いた発言をしてしまうと、英語では、極めて幼稚に聞こえてしまう(実際、幼い子供は主語の変換や時制の一致などのやや煩雑な切り替えを行えず、伝聞のメッセージを伝える際はどうしても直接話法を使いがちである、という現実もあるため)…ということも、どこかで学んだ記憶があります。

そんなわけで、「時制の一致とか、しち面倒くせぇや」と思って文法的に単純な直接話法でゴリ押ししようとすると、「~~って、あの人が言ってまちた」と同じぐらい子供っぽく聞こえてしまう(…とまでは流石にないかもですけど(笑)、知性が感じられない、幼稚な雰囲気の発言になってしまうのは間違いないと思います)ので、ここは歯を食いしばって、大人の嗜みとして、英語では涼しい顔して間接話法を使いこなす必要がある、という感じなわけですね。


まぁ正直、日本語では実際そういう変換はなく、伝聞系の話ではいわば直説法のみが用いられているといえますけど、それで別に何の混乱もありませんし、間接話法とかカッコつけて、ただ物事をややこしくしてるだけなんとちゃいます…?幼稚どうこう言う前に、言語として洗練されていないだけでは…??などと反発したくもなっちゃうものの、ま、そこはルールである以上、文句を言わずに従うのが大人のあるべき姿なのかもしれません。

 

そんなわけで、今回は直接話法についての話でした(ほぼミントン先生の解説を引っ張ってきただけでしたが)。

ちなみに、上記引用文では、もうちょい話を広げてみたいなと思える部分もあったんですけど、今回は長くなりすぎたので、次回、その脱線ネタからちょっと始めさせていただくとしましょう。

例によって単なる記事の水増しですが(笑)、その後またコメントの続きに戻ろうと思います。


アイキャッチ画像は、「幼稚」にちなんで、「世界一可愛い乗り物」こと、園児カートのいらすとをお借りしましょう(笑)。

これ、僕が幼稚園児だった時代はまだなかったですが、正直乗ってみたかったですねぇ~(何なら今でも乗りたいかもしれません(笑))。

保育士さんの中にはこれを「出荷」と呼んでいることもあるそうで、その辺のネタも大変面白かったので、全く関係ないにも程がありますが、関連togetter記事(↓)を最後に貼っておしまいといたしましょう。

togetter.com

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