放浪息子・英語版で気になった所を挙げていこう:巻末付録・敬称ガイド

早速本題の、英語版『放浪息子』であるWSこと『Wandering Son』の巻末付録として掲載されている、「日本語の敬称ガイド」を一部翻訳して紹介させていただくといたしましょう。

「一部」としたのはこないだも書いていた通り、WSの1巻には3ページほどの、英語圏の読者に向けたより深くまとめられた解説読み物記事があるのですが、そちらは実際に手に取った方のお楽しみとするといたしまして、今回ここではAmazonの無料お試し読みで公開されている、2巻以降の巻末に収録されている抜粋版の方を見ていく形だからですね。

当初、その抜粋版の中でも「-san/-kun/-chanなどの違い」について触れていた段落のみをピックアップしようと思っていたのですが、分量的に余裕があったので、前回同様1ページを丸々翻訳させていただくことにしました。

やはり、こういう「アメリカ人の目から説明される日本語」というのも、見ていて面白いものではないかなと思います。


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(2) p. iv 他、巻末付録ページより

敬称ガイド

この翻訳版では、特定の日本語敬称が維持された形になっているが、これは(願わくば)読者が、雰囲気と、それよりもっと重要なこととして登場人物お互いの関係性というものをより良く掴む助けになってくれることを願ってのものである。以下が、作中で見られる敬称の簡単な解説となる。

-san: 最も良く知られる、かつ最も汎用される敬称であり、多くの場合、中程度の丁寧さで、どちらの性およびどの年代の人々の間でも使われる。女性や女の子の中には、非常に親しい間柄であっても、「さん」付けで呼び合うことを止めない場合さえある。学校でも職場でも、女の子や女性の呼称は「さん」付けが一般的といえる。迷ったときは、「さん」付けにすれば、大抵の場合はうまくいくであろう。
 
-kun: 年下の男の子や男性に対して最もよく使われるが、年下の女の子や女性にも使うことができる敬称である。職場の上司の中には、部下の性別に関係なく、すべての部下に「~くん」と呼びかける人もいる。原則として、学校や職場の中で「後輩」であっても、年上の人に対して使うことは決してない。学校の先生は、一般的に女子には「さん」、男子には「くん」をつけるのが普通であるが、男性の先生の中には、生徒を不機嫌そうに姓だけで呼び、敬称を使わない人もいる。
 
-chan: 「さん」の、愛情のこもった、指小辞である。家族の間では男女を問わず、そして親しい友人間では女の子によく使われる。また、友人間で男の子や男性に使う場合は、大抵ニックネームの一部になっている。誰が誰に対してどのような呼び方をするかというルールはあっても、ニックネーム(日本では非常に一般的)に関しては、何でもありといえるのである。
 
sensei: これは肩書きであると同時に敬称でもあり、先生あるいは優れた学者、作家、芸術家などに対して使われる。ジムでエアロビクスを教えてくれる担当者にも、ノーベル賞受賞者にも、等しく適用できる。

 

なお、下の名前は一般的に、家族か、かなり親しい知人・友人だけが使うものである。日本人は、ほとんどの場合、お互いを苗字で呼び合う。特に、同じ学年の男の子同士は、敬称をつけずに苗字で呼び合ったり、あだ名で呼び合ったりすることが多い。女の子の場合は、どちらかというと丁寧な呼び方をするのに越したことはないという選択を取ることが多いようだ。親しくない人を下の名前で呼ぶのはおこがましいとされ、失礼にあたることもあり得る。

紹介した敬称は、全てのケースでそのまま鵜呑みにすることはできない。日本人は、時に、意識的に(皮肉や悪意を持って)あるいは無意識的に(関係の性質を見誤って)、不適切な場面で敬称を使うことがあるといえる。また、軽蔑の意味を込めて敬称を省略することもある。(自分より年上の人に敬称を使わずに話しかけるのは、顔をひっぱたくようなものである。)


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今回も、日本語ネイティブの目から見て全く問題ないといえる、大変素晴らしい解説でした。

一点、ビギナー向けの解説では全く触れる必要もない点で、「原則として」となっているため決して間違いではないのですが面白い補足としては、解説の中で「決してない」とされていた「君(くん)」を年上に対しても使う決定的な場面が、実は一つ存在するんですよね。

それがズバリ、国会!

まさに実例を示すのが早いというか、日本人であれば今さら貼らずとも、ニュースで「○○君を!内閣、総理大臣に、任命します!」みたいなやつは、記憶にめっちゃあるやつですね。

www.youtube.com
…まぁこの場合、恐らく呼ばれた人たちより呼んでる人の方が年上なのであまりいい例ではないかもしれませんが、仮に候補者が発表者より年上でも、「君(くん)」呼びなのは間違いありません。


これ、何でなんだろね?…と思ったら、検索トップで出てきた、上記動画と同じTBSの記事がよくまとめてくれていましたね。

topics.tbs.co.jp
明治維新の、国会というものが日本に初めて出来た頃の伝統を、今でも受け継いでいる…と、そういうことだったんですねぇ~。

確かに、冷静に考えたら、「君」という言葉そのものは、「くん」であれ「きみ」であれ、本来「君子」という殿上人を指す言葉だったわけですから、非常に敬意のこもった単語であるには違いないんですよね。


とはいえしかし、まぁそんなのは古い話であり、今の時代だと「君(くん)」なんてどう考えても目下の人を指す言葉でしかないのも事実であって、これも時代の流れなのか、議会でも徐々に「『くん』は失礼だから『さん』にしましょう」という動きが拡大しているようですね。

(新聞社の登録者のみ全文表示記事しかなかったので全部は見られませんでしたが、まぁ見出しそのものの記事といえましょう。)

www.okinawatimes.co.jp
最近は、小学校でも「さん」呼びの徹底や、あだ名禁止の学校が増えてきている…なんてニュースも見た気がします。

実は僕も、時代は大きく違えど、小学2年生の頃、隣のクラスの担任の先生がそういうのに敏感な新時代の気質を持っていた方だったのか、全員「さん」呼びをしていたことが一度だけありましたが(もちろん自分のクラスではないので、僕自身は未経験ですが、同学年の友達がその制度を採用しているのを横目で経験済み、ということです)、子供心には、「何か微妙(笑)」って思えたのが正直な所だったかもしれませんね。


あぁでも、そういえば、僕は苗字呼び捨てが、同級生もそうですけど、特に年下に対して出来ないタイプだった気がしてきました。

まぁ大人になってからならそれはむしろ当たり前ですけど、子供の頃も、呼び捨てはどうにもしづらい気がしていたので、あだ名呼びか、「○○くん」「○○さん」呼び(年下の女の子に「さん」は違和感がかなり大きいし、その場合は「○○ちゃん」もあったかな?)だった気がしますねぇ…。

あだ名を呼ぶほど親しくはないとか、みんなが呼び捨てで呼ぶようなキャラの子の場合、どう呼べばいいか迷えて苦痛だった記憶がある気もします(笑)。


まぁ、日本人にとっても悩みの種となることもあるのが敬称表現だね……ということで、いい感じにまとまったといえそうですね。


流石に今回は短いと思っていたので、「実は巻末にはもうちょい英語版特有のページがありました。ついでなので紹介しましょう」といこうと思っていたのですが、割といい分量になったため、そちらはまた中身が足りない時にまわそうかと思います。


では、次回から、放浪息子本編(に関するWSで気になった点)に触れていきましょう。

『娘の家出』1巻、https://www.amazon.co.jp/dp/B00UBOMWK6より

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