青い花の同人誌『That Type of Girl』日本語訳その16:声を上げて・サヨナラ王子…

前回紹介していた、存在感抜群・中身の美しさに圧倒される、紙の英語版青い花『Sweet Blue Flowers』ですが、手にするまで、「一巻あたり日本語版二冊分収録って、どうなってるんだろ?」と思っていた部分、実際は、途中、オリジナル日本語版単行本の区切りの所で、普通にカラーページ(元々の日本語版でもカラーページ掲載の部分)が挟み込まれて、第一巻・Part 2が始まるという、何ともイカした仕様になっていました。

(…ってまぁ普通に考えてそれ以外ないでしょ、って感じかもしれませんが…)


こちらは普通に日本語版『青い花』第二巻単行本のAmazon無料お試し読みページで公開されている部分であるため、まあまあ写真を載せるのも問題ないのでは…とさせていただきたく存じますが(そもそも画質が悪すぎて何が書いてあるか読めませんけどね(笑))、紙2枚=4ページ分のカラー部が差し込まれて、普通にまた通常のモノクロコミックの部分が始まるという、センターカラー的な仕組みですね。

当然、ページ数は通しなので、(今更ですが)偶数巻の引用先は、日本語版と英語版でページ番号が全く異なるという感じでした。


なお、以前触れていた通り、日本語版偶数巻の表紙カバー画像は、英語版では裏表紙に使われている形ですね。

そうすると「じゃあ元々の日本語版の裏表紙画像はどこに?」という話になりますが、これは、英語版各巻最後のページに、奥付的なものと一緒に小さく掲載されている形になっていました(なので、こちらは元々カラーのものが残念ながら白黒化されている感じですね)。


また、普通の日本の漫画単行本は、硬い材質の表紙部(大抵、二色刷りとかその程度)に、カラーの表紙カバー(大きめの、美しいけど硬さ的にはペラ紙で、折り曲げられていることで本のサイズにピッタリになるアレ)が被せてあるのが一般的かと思いますが、この英語版は、折り曲げてある部分自体が硬い材質の紙で、折り曲げの中には何も挟まれておらず、何か物足りない感じがして笑えました(笑)。

(要は、英語版コミックは、表紙カバーっぽい部分が本体にくっついており、取り外しできない形になっているという感じですね。)


ただ、二冊ずつをまとめた合本的な形なので厚みがあるため、随分存在感があるように思えてましたけど、実際大きさ的にはいわゆるワイド版と同じA5サイズにあたるようなので、よく考えたら日本語版の青い花も何気に縦横の大きさとしてはほぼ同じサイズだったんですね。

紙の漫画ってここまで迫力あって、かつしっかりした印刷で美しかったっけ…?と思えたあたり、慣れとは怖いものです。


でもやはり、この英語版は、普通に厚みがかなりあるおかげで特別感がありますから、コレクターズアイテムとしてもってこいに感じます。

大変ホレボレする出来ですし、末永く大切にしていきたい限りです。

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That Type of Girl(そっち系のひと)
志村貴子青い花』に関する考察

著/フランク・へッカー 訳/紺助

 

(翻訳第16回:91ページから97ページまで)

声を大にして

前章で書いていたように、泣き虫であるにもかかわらず、「ふみの性格には鋼の芯がある」のだ。その鋼の芯は、和佐の結婚式の後、恭己が各務先生への気持ちから逃れるために、あきらや兄と一緒に江ノ島でふみに会おうとした場面で、最もはっきりと示されている(『青い花』(3) pp. 100-1/SBF, 2:100-101)。

 ふみは、恭己との過去の関わりや杉本家での和佐との出会いがあったにもかかわらず、藤が谷生でないことや恭己との別れなど様々な理由から、和佐の結婚式には出席しなかった。あきらは結婚式のことをふみに話していないようだし(「…て 言えないか」と京子は察する)、ふみもあきらの自宅に電話して、あきらの母によって思い起こされるまで、すっかり忘れていたようである(『青い花』(3) pp. 92、76-7/SBF, 2:92, 2:76-77).

 ふみは、その場の思いつきで江ノ島に行くことを決める。最初の動機は、自分だけの時間を持ちたいというものだったようだ(青い花 (3) p.90-1/SBF, 2:90-91)。電話をかけた当初は遠慮していたものの、あきらが会いに来てくれることを喜んでいるようにも見える。しかし、恭己がついてきたこと、特に、みんなと一緒に残りたいと言うあきら兄とあきらとの争いに恭己自身が割って入った後に、事態は急展開する((3) p. 100、106/2:100, 2:106)。

 この一連の出来事は、日本の学校生活(そしてさらに一般的な日本人の生活)に特徴的な「先輩後輩」の力関係によって引き起こされているように思われる。低学年の生徒は高学年の生徒に従い、学年が上がると、今度は自分が下の生徒から従われることになるシステムだ。

 高校を舞台にした漫画やアニメの多く(『青い花』を含む)は、このような経過をたどって構成されている。新1年生が入学し、元1年生が2年生に進級して新1年生の先輩になり、元2年生が3年生に進級してヒエラルキーの頂点に立ち、3年生は社会に出て新たに従う先輩を持つ、という具合だ。学校の教室を描写する際は、生徒の学年が分かるように、外側に学年を示す教室札が吊り下げられるのが一般的で、見る者が生徒のヒエラルキーを把握できるようになっているのである(※訳注:これは漫画的な記述に限った話ではなく、日本の学校では、現実的にそうなっていることが多い)。

 物語のこの時点では、恭己は3年生、あきらとふみは1年生と、同じ高校内では最も大きい身分の差がある。恭己は先輩としての立場を利用して、まずあきらと兄とともに江ノ島へと向かい、次にあきらと兄による、兄がその場に残るか否かを巡る口論で兄が残る側に立ち((なんであんたが主導権握ってんのさ…)とあきらは内心で腹を立てる)、最後に「じゃあ お姉さんも仲間に入れて」と提案する(『青い花』(3) pp. 100、106-7/SBF, 2:100, 106-7)。

 あきらはこの展開に明らかに不満そうだが、黙っている。その代わりに、実際に言葉にして反対を表明するのが、ふみだったのである:一言、「ダメです」と。ふみは恭己に「私が先輩といっしょに歩きたくないんです」と続け、「あーちゃんを困らせないで下さい」と命令する(『青い花』(3) p. 108/SBF, 2:108)。

 あきらはショックを受けるが、それはそうであろう。ふみの言葉は、標準的な先輩後輩の構図から著しく逸脱しているように思えるからだ。この後ふみは、恭己が仲直りしようとするのを拒否し(「ふみに会いたくなったから」「私は会いたくなかったです」)、そして最後に最上の侮辱を口にすることで、更に事態を悪化させていく:「もっと大人になって下さい」と…(『青い花』(3) pp. 121-3/SBF, 2:121-23)。

 この後、ふみはこのやりとりを反省する(「勝手だなぁ て」とあきらに尋ねる(※訳注:英語版では「勝手だったでしょう?」という質問を投げる形だが、日本語版では特に問いかけるわけではなく、自分自身で納得している形である。))(『青い花』(3) p. 128/SBF, 2:128)。しかし、恭己に言った言葉は取り消すことができないし、志村の枠付けの中では、ふみの発言は間違いなく正しかったと私は思っている。第一に、恭己は実際、ふみとよりを戻そうとして、先輩としての立場を悪用し、本来参加する権利のないプライベートな場に差し出がましくも現れていたということ。そして第二に、より重要なこととして、これらのシーンは、ふみと千津、京子と恭己など、これまでの本作の他の人間関係に対する志村の枠付けと、一貫したものとなっているからだ。もう一度私自身の意見を引用する:「『青い花』は、対等な関係を重視し、年齢やその他のヒエラルキーに応じた不平等な関係を暗黙の内に批判しているように見て取れる」。

 ここでの違いというのは、そうすることで社会の調和を促すとされるヒエラルキーの中での悪い行為を批判することと、まさにヒエラルキーそのものの概念自体を批判することとの違いなのである。志村は後者を意図しているのではないかと思う:従来の伝統的なエスや百合作品に見られる支配的なヒエラルキー(それ自体が大きなヒエラルキーの中に組み込まれているヒエラルキー)の特徴を暗に批判し、個人主義や平等主義に基づいた新しい百合のモデルを提案しているのだと思う。

 ふみは、『青い花』の世界において、このモデルを体現する第一人者である。しかし、これから見ていくように、彼女は唯一の存在ではなく、また最初の存在ですらないのだ。


王子の退場

万城目ふみ側の疑問を論じたところで、杉本恭己に話を戻そう。以前、恭己は「女の子の王子様」の典型でありながら、「他のティーンの女の子たちと同じくらい困惑している」と書いた。『青い花』第二巻では、その構図を引き継ぎ、そして(恐らく)恭己が物語の重要なキャラクターとして登場する時期を終えることとなる。

 恭己の物語の基本的な流れは、第一巻から既に分かっている。藤が谷の生徒だった彼女は、姉の彼氏で最終的に夫となった各務先生に恋をしていた(『青い花』(1) pp. 162-3/SBF, 1:162-63)。彼に拒否された後、藤が谷から松岡に転校し、ふみと出会う((1) pp. 164、57-58/1:164, 1:57-58)。短い交際の後、二人は別れたが、それはどうやら、恭己が各務先生への気持ちを抱え続けていることに関してふみに正直でなかったこと、およびその結果としてふみが嫉妬と怒りを覚えたこととが原因であるようだ((2) p. 124/1:320)。

 第二巻では、各務先生と和佐との結婚から来る崩壊に関連して、二つの要素が新たに追加された:(前節で述べていた)恭己による復縁の試みに対するふみの(恐らく)決定的な拒絶と、ふみの言葉に刺された後の恭己自身の内省によって引き出された、恭己の過去と内面への視点である。

 この回想は、恭己が「私のポジションはすっかり王子様だった」と思い返すことで始まり、その役割に慣れてきたこと、姉の彼氏である各務先生と出会ったこと、姉の「ざっくりとした性格」を真似して髪を短くしたこと、自分が他の女の子に人気が出てきたこと、それにより「ずいぶん鼻もちならない奴」になっていたことなどが続いていく(『青い花』(3) pp. 110-3/SBF, 2:110-13)。この一連の流れは、第一巻で知っていた内容と一致している。では、第二巻で新たに分かることがあるとすれば、それは何だろうか?

 新情報というよりは、これまで示唆されてきたことをより深く掘り下げたという感じであろうか。最も顕著なものとして、恭己と井汲京子との緊迫した関係について、裏話が非常によく説明してくれている:京子は、恭己に、恭己自身が、自分の愛に応えてくれない他人に執着する、かまってちゃん的な人間であるということを思い起こさせる。恭己の京子に対する無愛想で時に残酷な振る舞いは、各務先生の恭己に対する扱いに似ているのだ:「一世一代の告白は一生に付され」たのである(『青い花』(3) pp. 115-6/SBF, 2:115-16)。

 京子が自分を真似て髪を切る姿を見て、恭己は「かわいいけどめんどくさい」と思い、「それがそのまま自分にも当てはまるとは まるで考えていなかった」と結論づけている(『青い花』(3) p. 116/SBF, 2:116)。しかし、これはしばしば恭己自身にも言えることであって(※訳注:日本語版では、この「結論」は上記の通り、恭己が恭己自身に述べている心の声なのだが、英語版ではこの部分が「彼女(京子)は、自分にとって何が正しいのかなんて、まるで考えたこともないのだ」という意味の、京子に対する叱責の意に過ぎない、大分異なる内容の独白になっている)、自分の行動が破壊的であることを認識しながらも、ついついその通りに行動してしまい、結局また更に苦しむだけになっている、という構図があるのだ。

 恭己のストーリーには、他にも特筆すべき点がいくつかある。まず、彼女が各務先生を魅力的に感じる理由がはっきりしない。彼は、彼女の才能(恐らく絵の才能)を褒め、演劇部に入るよう勧めるが、それは、数年にわたる片思いの動機としてはやや薄いように思える(『青い花』(3) p. 114/SBF, 2:114)。そして、各務先生の実際のリアルさを目の当たりにしたとき、彼女は当惑しているように見える:「発想がおっさんだもん」「だって先生 全然冴えないじゃん」と言い、「この期に及んでまだ言うかよ」と心の中で責め立てている((3) pp. 87-9/2:87-89)。

 もしかしたら、恭己が自分や姉妹のことを指して「そういうのに弱い血筋なのかなぁ」(『青い花』(3) p. 88/SBF, 2:88)と彼に言った通りなのかもしれない。それが事実であるかどうかはともかく、このことは、恭己についての第二の重要な点を浮かび上がらせている。

 恭己にとって、またどうやら姉の公理(もう一人の不満いっぱいな各務先生崇拝者)にとっても、他の女性との関係というのは、自分のものにはならない男性との関係の代用品として機能するものであり、究極的には男性との関係(あるいはその可能性)に対して二次的なものでしかないのである。例えば、サイドストーリー「若草物語」では、公理と同級生である駒子が、「その好きと この好きが違うことくらいはわかる」と悲しむ姿が見て取れよう(『青い花』(3) pp. 176-7/SBF, 2:176-77)。

 また、女子校では、女子の方が男子よりも恋愛対象になりやすく、恭己にとっては(そしてもしかしたら公理にとっても)ストレスの少ない選択肢となるのだ―「女の子って簡単だな」と恭己が言うように(『青い花』(3) p. 113/SBF, 2:113)。これは、女性との関係は「一時的なもの」であり、女子校という温室の環境には適しているが、卒業後も続き得るものではなければ続けるべきものでもない、というエスの伝統的な考え方を改めて反映しているものである。

 では、恭己はどうするのか?ふみの拒絶によって、ふみのストーリーにおける恭己の主要な役割は終わったように思われる(ただしふみは、恭己のことを本当に吹っ切れることができたのかどうか、まだ少し迷ってはいるが)。恭己は、京子と再び場面を共にし(京子もまた、より静かにではあるが、恭己を乗り越えようとしているように見える)、最終的に「美しく華麗に」イギリスへと飛び立つのだ(『青い花』(3) pp. 146-8、(4) pp. 7-8/SBF, 2:146-48, 2:187-88)。

 彼女の松岡女子での最後の功績は、バスケットボール部を全国大会決勝にまで導いたことである。しかし、優勝に導くことはできなかった―恭己のこれまでの人生を、ほんの少し暗喩しているかのようだ(『青い花』(4) p. 7/SBF, 2:187)。

 この先、彼女はどうなるのだろうか?最悪の運命は恐らく、姉の姿子や公理のようになることだろう。裕福でのんびりしているが、昔の同級生たちの噂話や情事を気にするくらいで、深い付き合いをすることはできないし、する気もないような形だ。彼女の選択がどうであれ、和佐は少なくとも一つの選択をし、それにコミットしている。恭己もそうであるかどうか、今後も注視していく必要があるだろう。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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今回は途中の訳注でも触れましたが、初めて、明らかに「英語版の公式翻訳が、元々の日本語版の台詞の意図とは違う形になっている」場面がありました。

それが、日本語版3巻・英語版2巻116ページの杉本やっちゃんのモノローグシーンですけど、

「京子はまるで私だ 私が髪を切れば自分も切り……かわいいけどめんどくさい」

…という部分に続く、すぐ次のコマで(日本語では)…

「それがそのまま自分にも当てはまるとは まるで考えていなかった」

…と結論づけているわけですが、英語版では、上記触れていた通り、「彼女(京子)は何が正しいかなんて、まるで考えていないんだ」みたいな内容になっている感じですね。


Frankさんの同人誌PDFでも台詞が丸々引用されているので原文にはすぐあたれますし、漫画の無料公開部分以外を出すのもあんまり良くないかなと思いましたが、まぁ1コマぐらいなら引用の範疇で問題は無いでしょうか。

低画質だし、文字もほぼ読めないレベルかもですが、まさにこのコマですね。

(…と思いきや、よく見たらFrankさんが記事内で引用していた文章も、実際の台詞とは微妙に違っていましたね。
 まぁ意味的にほぼ同じですが、実際の英語版台詞は、「彼女は、それが自分にとって正しいかどうかについて、全く考えたこともない」という感じでしょうか。)


そもそも日本語の元台詞は、杉本のやっちゃんが自分自身について内省している場面であり、主語は「I」なんですが、翻訳版の主語は「She」になっています。

一応、もしかしたら、いきなりこのコマだけ地の文のナレーター的説明台詞になり、「彼女(恭己)は、自分が正しいかどうかについて、全く考えが及んでいないのだ」って意味と受け取れば、ギリギリ日本語の元台詞に近い意味として通らなくはないかな、と思えたので、その旨Frankさんに聞いてみたところ(あるいは、この文脈で、Sheが恭己本人になる可能性はないか含め)…

「話の流れ的にも、フォントのスタイルが変わっていないことなどからも、間違いなくここはYasukoのモノローグだと思う。したがって、ここのSheは、英語ネイティブの目からしたら、100%確実にKyokoのことを指しており、Yasuko自身についての言及には絶対にならない。」

…と回答いただけて、日本語ではやっちゃんが自分自身について述べていることだという旨も伝えていましたが、

「私も自動翻訳で確認したところ、ここはYasukoが自分のことを述べているみたいだね。より良い英語の翻訳にするならば……

"I never thought that I would act like that myself."(ほぼ原文通りの意味)

…という感じだろうか。

 知り合いにプロとして、あるいは趣味として漫画の日→英翻訳をやっている友人たちがいるから、彼らにも何がベストの案か、聞いてみるとするよ。回答をもらえ次第、アップデートしようと思う」

…という形になりました。


幸い、実際Franksさんもここの台詞を読んだ後、(京子への叱責と読んだ上で)「これはYasuko自身にも当てはまることではないだろうか?」という原文通りの考察をされていたようですし、致命的な翻訳間違いでは決してないものの、やっぱり、元の台詞の意味からはちょっとずれてしまっているコマになっている感じですね。

もちろん全てを完璧に訳すことは不可能ですし、VIZ MEDIAの英語版は確実に素晴らしい出来だと思いますけど、明らかに原文と乖離がある所は、今後の版で修正なりされてくれると嬉しいですね。

FrankさんがVIZ MEDIA編集部なりにメッセージを送ってくれるかどうかは分かりませんが、修正などを通して、より良い作品作りにつながっていってくれれば幸いです。

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