田島列島さんの作品紹介から派生して、唐突に不倫ネタを語っていた所から、不倫遺伝子という面白そうなネタに脱線しつつ、そこから更に話が逸れて最先端の生命科学技術CRISPR(クリスパー)なるものを浅く紹介しており、ちょうどまだまだその話の続きだったわけですが…!
お昼休みにいつものようにTwitterを覗いていたら、志村貴子さんが、めちゃんこ面白いツイートをされていたのです。
なんと拙作『青い花』についての論考をまとめたという同人誌をいただきました。めちゃ分厚い。USAから編集部宛てに送ってくださったようです。ありがとうございます〜!英語が読めたい。 pic.twitter.com/1Jvqnp94m5
— 志村貴子(雑談用) (@takakoshimura2) 2022年4月14日
うおぉ~、青い花の鈍器系同人誌(分厚いということ)、読んでみてぇ~と思ったら、何とこちら、作者Frank Heckerさん (@Hecker) のサイト(That Type of Girl - FrankHecker.com)にて、PDFファイルとして全編公開されているではありませんか!
しかも、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに則り、SA(継承)の条項まで付与されており、これは「同じ条件を継承するのであれば、改変(翻訳)等を加えての頒布を許容」というものでして、自由に翻訳&公開が可能!!
志村さんご自身が「中身も読んでみたい」的なことをおっしゃられていたこともあり、これはもう、全編翻訳して公開するしかねぇ…!と思い立ち、予定を変更して、これからしばらくの間、青い花の同人誌『That Type of Girl』の翻訳版を製作し、順次公開させていただこうかと思います。
途中になってるクリスパーうんちゃらネタは、ぶっちゃけただでさえ少ないアクセス数がダダ下がりでしたし、書いてる僕自身含め、恐らくこの世で誰からも期待されてない内容でしたから(笑)、まぁ後回しにしましょう。
(でも、翻訳が終わったらまたそちらに戻ろうと思っています。)
…と、僕のブログ事情などはどうでもいいので、早速同人誌についてですが、まずこちら、まさかの285ページという巨大長編でして、これは本当に読み応えがありそうですよ…!
…あぁ、っていうかその前に、「お前は一体誰なんだよ」という話かもしれませんが、こないだ志村さんの作品への愛を1万文字ぐらいで語っていたただのしょうもない漫画好きなんですけれども…
アメリカで働いてはいるけれど、プロの翻訳家ではないので、自分がしゃしゃり出るのってどうなんだ…?とも一瞬思ったんですけど、でも逆にプロの翻訳家の方であれば無償で翻訳文を作成するのも難しいか…とも思えましたから、恐らく同じぐらいの熱量をもつファンとして、ちょうど自分がいいのではないかと思い立った次第ですね。
そして実際に公開するに先立ち、とても重要な点として、CC BY-SAライセンスを明記する必要があるわけですけど、話としては聞いたことがあるものの自分は使ったことないのでどうすりゃいいのかよぉ分からなかったんですが、とりあえず公式サイトからロゴを貼っておけばひとまずいいのかな…?
-----CC.orgで発行されたロゴ-----
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
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何か問題があったらどなたでもご指摘いただけると助かりますし、上述の通り僕はプロの翻訳家ではないので、おかしな表現・誤訳とかがありましたら、ぜひお伝えいただけるとありがたいです。
改変等自由なフリーカルチャー・コンテンツとして、みんなの力でより良いものが出来上がれば幸いに存じます。
なお、Frankさんご本人からは、「Gitlabのソースを使えば、本の形式で出力できるよ」という旨のメッセージもいただきましたが…
Thank you for your interest in translating the book! If you want to do a translation, you should start with the original text files in https://t.co/fxF2HjIubw This describes how to build the book from its source files. See https://t.co/t5HGLJxUd4 for how to add translations.
— Frank Hecker (@hecker) 2022年4月14日
とりあえずはここで普通にブログ記事(HTML)で公開して、まとまったら最後PDFに変換なりしてもいいかもしれませんね。
(…っていうかむしろ、勝手にブログで公開するより、最初からGitlabで作成した方がいいのかな…?
でもGitには触れたことがないのでパッとはやり方が分からないですし、後から変換も可能のようですから、とりあえずやっぱり中身だけこちらで公開していこうかと思います。)
なお、このブログは無料版はてなブログなので、広告が表示されるかもしれませんがそれははてなブログ運営によって挿入されたもので、僕自身に広告収入その他一切の収益・報酬・褒賞は発生しない形になっているので(一応Frankさんは、商用利用を禁止はされていないようですが)、どうかご安心ください、という旨も明記させていただこうかと思います。
(といっても、大好きな漫画家さん(志村さんご本人)に「ありがとうございます!」というメッセージをいただけるなど、既にもう最高レベルの褒賞をいただけたも同然なんですけどね。)
前置きで長くなりましたが、そもそもタイトルである『That Type of Girl』とはどういう意味なのでしょうか…?
こちら、同人誌本文を見たらヒントがありまして(PDFファイル144ページ)、どうやらこれは『青い花』英語版の作中のセリフの一節みたいですね。
今手元に英語版の青い花がないので(せっかくなので、これはしっかり手元に用意しないといけませんね!近い内に入手しようと思います)確認できないのですが、恐らく、本文の記述から推測するに、英語版vol. 3=日本語版第5巻の、「ふみちゃんは そっち側のひとに なっちゃったか」の、「そっち側の人」がそれに当たると思われます。
(改めて、勝手な推測なので、もしかしたら違うかもしれません。そこに触れるまでに、英語版を用意しておきたいです。)
つまり、強いて書けば「あっちのタイプの女の子」ってのが、このFrankさんによる同人誌『That Type of Girl』の邦題になるのかな、って感じですね。
…と、これだけでは何なので、本編ではなく、ひとまずFrankさんのウェブサイトの方を日本語にしておくことで、彼のこの同人誌に対する姿勢的なものを垣間見ておくといたしましょう。
以下、https://frankhecker.com/that-type-of-girl/の本文を日本語訳した形です。
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That Type of Girl
『That Type of Girl』は、志村貴子さんの漫画『青い花』のキャラクター、ストーリー、テーマを徹底解明した一冊である。『青い花』は、レズビアンの少女ふみと幼なじみのあきらとの間にゆっくりと芽生える愛を描いた百合漫画の金字塔といえよう。当同人誌では、この漫画を、現代日本社会と百合の、世紀にわたる歴史の中に位置づけており、また、キャラクターと登場シーンの総合インデックス、オンラインレビューへの指針、そしてより深く読むための様々な提案リストなども作中に含めておいた。『青い花』のファンはもちろん、百合というジャンルに興味がある人にとっても必読の書になってくれれば嬉しく思う。
『That Type of Girl』は、アマゾンで、Kindle版、ペーパーバック版が、そして電子書籍としてその他のオンライン書店で購入することが可能となっている。また、PDF形式の無料ダウンロードも可能である。
この本の完全な「ソースコード」も、GitLabサービス上の公開リポジトリで公開している。(ここでの「ソースコード」とは、この本が組版されたオリジナルのMarkdownファイルと、それらからこの本の別バージョンを再作製するための指針やスクリプトのことを指している)。
誰にも聞かれてない質問への回答
この本はちょっとした趣味の範疇の産物とはいえ、ブックツアーに参加したつもりでインタビューに応じたら楽しいだろうなと思い立ってしまった。FAQ(よく聞かれる質問)を書くのも楽しいしね。無論、この質問は、単なる「Q」であって、「FA(よく聞かれる)」というわけではないんだけど。前置きはこのくらいにして…
Q. なぜ本を書いたの?
A. むしろ、なぜ書かないの?職業としてであれ、趣味としてであれ、文章を書く人なら誰でも、一生に一度は本を書いてみるのが良いと思うよ。
ブログ記事やその他オンライン記事なんかは、そのサービス元となるウェブサイトやSNSなんかの継続性に依存しているけれど、それとは違って書籍というものは、物理的な形であれ電子的な形であれ、そこにある物質として未来に発信することができるんだ。本という形式が何世紀にもわたって存続してきたのは偶然ではないし、これからもずっとそうであることは間違いないと思えるね。
また、本を書くということは、全体的なテーマや物語に沿って書き、自分が何を言いたいのか熟考することを強いられるんだ。ツイッターのつぶやきやフェイスブックのコメント欄とは正反対で、それ以上の満足感や充実感が得られるように思うよ。
Q. なぜ百合漫画に興味を持ったの?
A. 私は長い間アメコミやグラフィックノベルの読者だったんだけど、スーパーヒーロー系ではなく、いわゆる「オルタナティブ」「インディーズ」系のコミックが好きだったんだ。ある時期から日本のコミック、つまり漫画も読むようになった。日本漫画には様々な題材があり(ヒーローアクションだけじゃない!)、似てはいるけど微妙に自分とは異なる文化を垣間見ることができるという、大いなる面白さを見つけ出したのさ。
年齢を重ねるにつれ、アクションを中心とした作品には興味がなくなり、よりエモーショナルな関係を中心とした作品に興味を持つようになった。エモな関係といえば、最もよく知られているジャンルは恋愛だろう。だから、必然的に恋愛をテーマにした漫画、その中でも特に女性同士の恋愛をテーマにした百合ジャンルの漫画に惹かれるようになったんだ。
ティーンの少女をターゲットにした伝統的なボーイ・ガール・ロマンス(少女漫画)や、男性同士の恋愛を描いた『BL』(ボーイズラブ)漫画よりも、百合漫画は全体的に和やかなんだ―もちろん、私は少女漫画もBLも沢山楽しんでいるんだけどね。でも、少女漫画とかBL漫画では、様々なレベルの毒があったり、それ以外にも嫌な思いをすることが多いんだ。百合漫画には、概して、そういった要素が少ない。
(年配の女性をターゲットにしたレディコミにも良い恋愛漫画はあるけれど、欧米ではあまり見かけないのが残念。)
Q. なぜ『青い花』について具体的に書いたの?
A. 『青い花』(現地のタイトルは『Sweet Blue Flowers』)は興味深いケースなんだ。この作品は、志村貴子さんのもう1つの代表作『放浪息子』ほどではないが、漫画ファンの間ではそれなりによく知られている。また、百合漫画としてもそれなりに評価されているものの、世間ではもっと評価されている百合作品も一応他にあることはある。(ここ数年、このジャンルが人気を博し、英訳される百合作品が多くなっているため、特にそう思う)。
しかし、『青い花』には、少なくとも3つの点で興味をそそられる所があった。まず、この作品は必要以上に複雑になっているように思えたんだ。機械を見て、この部品は何なのだろうと思うように、『青い花』のいくつかの要素を見て、志村さんはなぜこの要素を入れたのだろうと不思議に思ったのである。
それに関連して、『青い花』には、少なくとも日本社会に対して遠まわしに物申しているような部分があるように思う。そういうものは、私にとってネコジャラシみたいなものなのだ―私はいつも、自分が読むものの背後にある社会的、文化的、政治的な考えや前提を探求することを楽しんでいるからね。
最後に、『青い花』は、百合というジャンルの歴史の転換期に生まれた作品なのだ:「学生百合」は、当時まだ、このジャンルの圧倒的に多いパターンであった。しかし、百合作品は徐々に、大人の女性同士の恋愛を描いたり、LGBTQの存在を匂わせたりする作品が出始めていた。志村さんは『青い花』で、「学生百合」と「LGBTQ百合」の両方の要素を融合したのだ―これは必ずしもうまくいくことではないが、志村さんがその中に、またそれ自身として、それらを取り入れようとしたこと自体が面白いと思う。
その結果、『青い花』の英語版・新装完全版が刊行された2017年秋から、私はすぐに、気付いたらいつの間にか、読んでいて気になった様々なことを、ほぼ毎日ぐらいTumblrにグチグチと投稿してしまっていた。私は毎日何かを書いて投稿できるような人間ではないので、しばらくしたらやめてしまったんだが、それでも、この物語をより深く理解するために知っておくべき事柄について、自分が息を呑むほど、信じられないぐらいに無知であったことに気が付いたんだ。
この4年間、無知でなくなるための努力を続けてきた私は、2020年の初め、ついに自分の考察を本格的な書籍として出版することを決め、最初の不完全な原稿を個人のリポジトリに投稿した。それ以来、誰かに読まれても恥ずかしくないような洗練されたものにするために努力してきたのである。
でも、誤解しないでくれ:私がいくら文献を参照し、出典を引用して格好をつけても、「That Type of Girl」の核心は、壮大さを気取ったただのTumblrの投稿に過ぎないんだ。
Q. この本を読んでくれる人がいると思う?
A. 簡単な見積もりとしては、ノーだね。そもそも書くこと、そして出版することが楽しかったんだ。だから実際に読んでくれる人については、ほとんど期待していない。
私はたまたま営業班に所属しているので、人々が商品に何気なく興味を持ち、実際に購入するまでの「セールスファネル」の考え方には精通しているんだ。大体このような流れになると思う:
このような本に興味を持つ人は、おそらく世界中に300人程度しかいない(いわゆる「TAM;最大市場規模」)。その内の100人くらいがこの本のことをたまたま何らかの形で知り、その内の30人くらいがこのページを訪れて、この本についてもっと読みたいと思うかもしれない。そしてその内10人くらいがわざわざ本をダウンロードし(このページまたは別の所で)、3人くらいが少なくとも一部を読み、(運が良ければ)1人くらいはこの本をちょいちょい面白いと思ってくれるかもしれない。
それ以上であれば、私は驚くと同時に、とても嬉しいと思う。
Q. なぜ、PDF版を自由にダウンロードできるようにしているの?
A. 改めて、それで良くない?金儲けのために書いた本ではないので、無料で配布することに何ら問題はないんだ。また、この本の潜在的な読者は非常に限られていることを考慮すると、読みたい人が簡単にアクセスできるようにしたかったんだ。PDFファイルならほぼどの端末でも読めるし、特定のオンラインサービスに縛られることもないからね。
Q. なぜ、Amazonなどのオンラインサービスでも販売するの?
A. Kindleのような特定のサービスに縛られた端末で電子書籍を読むことの利便性を好む人もいるし、その利便性に見合った金額を支払ってもらうことにも問題は感じないからね。電子書籍版の価格は、一般的な自費出版物の価格と同じになるように設定しているよ。
また、紙媒体で本を読みたい人もいるので、アマゾンでペーパーバック版も販売している。こちらも、他の自費出版作品と同じような価格に設定さ。
Q. なぜ、この本のソース・テキストファイルを公開したの?
A. いいでしょ?この本の各章は、ブログの投稿と同じように、通常のテキストファイルとともに、Markdownフォーマット言語を使って書いたんだ。そしてこれもブログの投稿と同様に、多くのソフトウェア開発者が使用している「git」システムを利用して、バージョン管理システムで改訂記録を残したりもしている。この本の内容をそういう「生のまま」で公開することは技術的に容易だったし、そうすれば、いつかどこかで誰かの役に立つかもしれないと思ったんだ。
特に、この本の各版のフォーマットに使用したElectric Bookというソフトウェアを宣伝したかったということもあるね。このソフト自体は無料でダウンロードできる。これから著者になろうとする人たちにとって、私がElectric Bookを使って自分の本を作ることができるという実例を示すことは、役に立つかもしれないと思ったわけだ。
(自分でできない人、やりたくない人でも、Electric Book Works社の素晴らしい社員たちの協力で、Electric Booksのシステムを大いに利用することができるんだ。彼らはめちゃくちゃいい奴らで、私のような人間にもソフトウェアを使えるようにしてくれたので、そのお返しに私は喜んで潜在的な顧客を紹介するつもりなんだ。)
Q. なぜ、CC BY-SAライセンスで本を公開しているの?
A. CC BY-SAライセンスは、より正式にはCreative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International licenseとして知られており、これに則り、誰でもこの本のテキストを、組版元となるMarkdownファイルを含め、変更ありでもなしでも自由に再配布することを許可しているよ。主な制限は、改変・派生作品を同じCC BY-SAライセンス(またはGNU GPL 3.0のような互換性のあるライセンス)の下で配布する必要があるということだね。
CC BY-SAライセンスは、ウィキペディアの記事にも用いられている。その実際の効果は、二次的著作物の作成と配布が容易になるということであり、こうして作品が他の文脈で使うために修正され再配布されるようになると、自由に配布できる著作物の総量も大きくなっていくという寸法さ。
つまり、例えば誰かが『That Type of Girl』を他の言語に翻訳することに興味を持ったとしても、ライセンス条項に従っている限り、私からの特別な許可は必要ないんだ。そして、その翻訳を他の人がさらに改訂し、改良することも可能で、この場合も特別な許可は一切必要ないということになる。
まぁ、そんな翻訳をわざわざする人がいるかどうか、甚だ疑わしくはあるけどね。でも、もしそのような人がいたとしても、必要な許可を得るためにあれやこれや煩わされて欲しくないんだ。私がその許可を与えるためにもうこの世にいない状況であれば、特にね!
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では、次回から、同人誌本編を順番に翻訳して見ていこうかと思います。