CRISPRのサワリを解説その3 ~1兆分の1の…編~

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前回は、Cas9(タンパク質)とCRISPR RNAはお互いにくっつくのです、なんてことに触れていました。

「くっつくって言っても、どうやって?意思のある物体でもあるまいし、どんな力が働いてこいつらはくっつくの?」という想定質問に対し、「普通に、細胞の中を飛び回っている両者がたまたま近付いたり接触したりした時に、くっつくのです」ということを述べていたわけですが……

記事アップ後、その点に関して1点追加の想定疑問が思い浮かんだので、補足しておきましょう。


ズバリ、「いや『たまたま接触』って、そうそう都合よく接触できるんけ?たまたま接触してくれなかったらどうするわけ?」という不思議さを感じる方が、もしかしたらいらっしゃるかもしれないかな、というポイントです。

まぁこれに関しては、絵では1分子ずつしか描かれていないんですけど、実際に生体に投与したり試験管内で反応させたりするときは、メチャンコ大量にぶち込むため、反応溶液内に分子は極めて豊富に存在することになりますから、間違いなく沢山のCas9とクリスパーRNAが偶然出会うのも余裕になっているのです、といえるお話になります。

(というか、間違いなく沢山の分子同士が出会えるような十分量をぶち込むことで、両者が必ずペアを組んで、薬としての効果が見られるように設計している、ともいえますね。
 仮に細胞の中に数個ずつの分子しか投入しなかったら、薄すぎて実際Cas9とRNAは出会えないかもしれません。)


例えて言えばそうですね…

「東京ドームに、4万人の野球ファンが入っていて、数十人の野球選手がいるグラウンドになだれ込む。野球ファンは、選手と接触すると握手することができる」

…という例を考えると、ドームのグラウンドに4万人の人がいれば、仮に野球選手が俊敏に逃げ回ったとしても、確実にファンにつかまってしっかりと手をつなぎ合う状態になることが想像できるといえましょう。


それと同じで……いや、せっかくなのでもうちょい今見ているCRISPRーCas9の話に即した形の例に改変してみると……

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https://www.thermofisher.cn/blog/learning-at-the-bench/gene-editing_bid_ts_1/の図1より(補足追加)

改めて、Themo Fisherの解説記事の改変図を貼らせていただきましたが、このCRISPR-Cas9というシステムでは、

・Cas9とクリスパーRNAがまずくっついて、複合体を形成する。

→その「クリキャス複合体」が、ターゲットとなる遺伝子と更に接触しなければ、DNAを切ることができない

…という仕組みになっていますから、いうなれば……


・オレンジのハッピを着た巨人ファンと黄色のハッピを着た阪神ファンを東京ドームに2万人ずつ入れる

→巨人ファンと阪神ファンが出会ったらお互いに肩を組み、2人ペアを形成する

→2人ペアとなった人たちが野球選手と出会うと、ユニフォームを奪い取っていいというルール


…という例え話がピッタリで……


・ドームの中(細胞の中)には巨人ファン(Cas9)と阪神ファン(クリスパーRNA)が大量にいるので、肩を組む相手を見つける(クリキャス複合体を形成する)のは楽勝

→野球選手(ターゲット遺伝子)の存在数はそれと比べると少ないけど、肩を組んだファンはドームの中にマジでウジャウジャ存在するので(笑)、時間をかければ、大半の選手のユニフォームを引っぺがす(遺伝子を切断する)ことが可能になる

…って話ですね。


…ぶっちゃけ、こんな例え話、意味あったか?…と思えたうえ、言うほど全然上手い例えにもなってないんですけど(笑)、まぁ一応、ドームの中に数万の人がいたら、自分の相手とペアを組むのも余裕だろうし、そこから更に少数のターゲットを探し出すのだって簡単でしょう、というイメージのためのお話ですね。

まぁ、「系の中に十分量存在するので、接触も容易い」の一言で済む話ではありましたが(笑)。

 

無駄に長くなりましたが、話を続きのRNAの方へと移しましょう。

前回のおさらいをしておくと、このクリスパーRNAの後ろ半分は、Cas9タンパク質とくっつくための配列でした。

では、前半分は何をしているのかというと、これはズバリ、「ターゲットとなる遺伝子とくっつくための配列」なのです!


そう、このRNA塩基が数珠つなぎでつながった「クリスパーRNA」というヤツは、後ろ側でDNAを切断してくれるCas9タンパク質と、そして前半分で切断対象のDNAと手をつなぐことで両者を近づけてくれるという、2つの分子を接近させてくれる役割をもった、いわば仲をとりもつキューピッド的なヤツだといえるわけですね。


しかし、このCRI-Casシステムは、「自分の好きな遺伝子DNAを切断できるのが売り!」という話でした。

なぜそれが可能になっているかというと、ここがマジでスゴイ所で、このクリスパーRNAの前半部(crRNAと呼ばれますが、名前はどうでもいいので、「前半分」と呼び続けましょう)は、自分の好きな配列にいくらでも書き換えることが可能なのです。


ちょうど、上の図だとこのRNAは「GCAUUU…」という並びの文字列で始まっていますが、ここの部分(最初の20文字)の制限は一切ないので、全然違うAACUGGC…という並びだろうとなんだろうと、とにかくどんな20文字を並べても問題ありません。

そして、RNAやDNAは二本鎖を形成するという特徴がありますから(以前この辺の記事(一本?二本?形について簡単に)でもちょろっと触れていましたが)、この20文字のRNAとペア(AはT or Uと、CはGと手をつなぐ感じですね)を形成できるDNAが、生物のもつ大量の遺伝子の中から見事に探し当てられて、ガッシリと手をつないで離れなくなる…って仕組みなのです。

(改めて、「探し当てる」といっても、別に何らかの意思が働いて意図的に見つけるとかいうわけでもなく、「たまたま接触した場合にピタリとくっついてくれる」というだけなんですけど、先ほどのしょうもないドームの例のように、ウジャウジャ存在するから確率的にそれは十分あり得る事象になっている、ということなわけですね。)

 

しかし、4種類の塩基が20個並んでいるという形だと、果たして何種類の遺伝子を認識可能なのでしょうか…?

20というと随分少ない気もしますし、小学生並の直感では、4×20で、まぁ並び方も色々あるだろうから、少し増えて100ぐらい?とか思うかもしれませんけど(まぁ流石に思わないと思いますが(笑))、いうまでもなく全然そんなレベルではありませんでして、これは4の20乗なので……
(もうこの手の計算も以前の記事で何度か触れてましたけど、下のような思考プロセスを経ることで、脳内3秒余裕、ってやつですね(笑))

4^20=2^40=(2^10)^4(2の10乗の4乗)

→2の10乗が約1000=10^3なのは常識なので、これはざっくり、(10^3)^4(10の3乗の4乗)となりますから、ここからもよくある思考パターンで、1000ごとの単位が4回レベルアップすると考えまして、K(キロ・thousand=千)→M(メガ・million=百万)→G(ギガ・billion=十億)→T(テラ・trillion=一兆)ということで、まぁ10の12乗が1兆というのも半ば理系常識なので単位レベルアップを考えるまでもないわけですけど、約1兆種類の配列が作れるということになるわけです。

(正確には、1099511627776(1兆995億1162万7776通り)ですが、まぁ最早995億なんて誤差よ誤差、ってレベルでしょう。)


意外ですね!

たった20個の並び(しかも1個はたった4種類の文字のみ)なのに、その組み合わせは全部で1兆通りあるのですから、小学生並の「100通り?」は冗談にせよ、そこまで数が大きいってのも、案外結構想像を超える感じではないかと思います。


ヒトの全遺伝子DNA(ゲノム)は大体30億塩基といわれていますから、1兆通り作れるこの20文字の並びをもってすれば、理論上は余裕でどこの領域とペアを作る配列でも形成可能というお話になるんですね。

しかも、20塩基がピタリ合う確率は約1兆分の1なので、どこか目的の遺伝子とくっつく配列を作ったら、ほとんどの場合、それが別のどこかともくっついてしまう(結果、ターゲットではない遺伝子もクリスパーRNAに引き寄せられて、切断されてしまう)ということは、まず起こらないことになっている、ということがご理解いただけるのではないかと思います。

 

…と、そうはいっても、この辺の話はマジで初見の方には突っ込み所というか疑問に感じる点が結構あるのではないかと思われるので、次回はその辺の想定質問に触れていくといたしましょう。

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