最新の遺伝子治療なら、筋肉だって増やせる!

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そもそも遺伝子を変えるにはどうすればいいか?という疑問を投げかけたまま前回は中途半端な所で終わっていましたが、その辺をもうちょっとだけ深追いしてみましょう。


まず、生体外で、専門用語だとin vitro(イン・ビトロ:「試験管内」ともいわれますが、まぁ今時の生命科学実験ではあんまりいわゆる「試験管」(中学理科とかでおなじみ、ガラスのアレ)は使われないですけど(プラスチックのチューブ(ずっと前にこの記事で触れていた、親指サイズのやつ)とか、細胞培養用のシャーレとかがメインです)、高校の生物で、先生に「ビトロはガラスの古い呼び名であるビードロに近いから、こっちが『試験管内=生体外』って覚えられるね」と教わったのをよく覚えています(実際はvitroとビードロは全く別の用語なので無関係ですが…)。なお、対称となる語はin vivo(イン・ビボ)で、こちらは生体内での研究という意味ですね)……

…補足が長くなりすぎたので仕切り直すと、生体外すなわちin vitroで遺伝子を改変するのは、マジでクッソ余裕のよっちゃん、数時間もあれば瞬殺で実現可能です。


一番簡便かつ強力な手法が、途中になったまんまの「ソーマチンを合成しよう」という一連の話で見ていた(色々脱線しすぎて特に「この記事」とは挙げられないですけど、その内タグをつけて記事の整理もしておきたい限りです)、DNAを制限酵素で切ったりリガーゼで貼ったりという、もう今の時代では古典的ともいえる遺伝子工学技術ですね。

希望のDNAを合成してくれる会社の力を借りれば、話題のPCRを行うことで、簡単にどんな遺伝子でもほぼ無限に増幅することが可能だし、特定の1塩基だけを変更したり、好きな配列を挿入したり、要らない配列を削除したりなど、自由な遺伝子改変なんてマジでお茶の子さいさい、僕ぐらいになるともう両目つぶっててもできるぐらいの(いや両目つぶってたら無理だろ)、本当に誰でもできる簡単な手法が確立されています。

(その辺も、以前の記事ではまだごくサワリに触れた程度だったので、またいずれ戻って、より分かりやすく「何がどうなって、具体的に何ができるのか?」みたいな説明をしてみたいです。
 特にPCRとか、これは本当に単純なものなので、仕組みを知っておくのは悪くないでしょう。)


しかし、in vivo、つまり、生体内というか生きている人間の遺伝子を変えるとなると、これは中々大変なのです。

倫理的な問題ももちろんありますが、それ以前の段階で、技術的にも、例えば前回も触れていた「副腎の細胞の遺伝子を、嫌婚タイプ(繰り返し配列のGが2つ、Cに変わってしまった)からノーマルタイプに戻したい」と仮に思ったとしても、そうそう簡単にはいきません。

むしろ、「副腎の細胞のみを…」という制限付きより、「全身全部の細胞の遺伝子を…」の方がもしかしたら逆に簡単まであるぐらいかもしれませんが(超強力な遺伝子改変薬みたいなのが将来もしも出来たら、血液に乗せて全身の細胞に運ばせればいいだけともいえるので……もちろん現実・実際の話はそんなに単純ではないですけどね)、全身37兆個といわれている全ての細胞の遺伝子を余す所なく書き換えるなんてことは、現在の科学技術では到底不可能という感じですね。


とはいえ「全てを完璧に」はまだ無理ではあるものの、技術は本当に少しずつしかし確実に進歩し続けています。

例えば、遺伝子疾患の代表例に筋ジストロフィーというものがありますが(以前の記事でも、何度か触れたことがありました。遺伝子・ゲノムもからめたこの辺の記事他ですね)、つい最近、昨年末、京大と武田薬品工業との共同研究チームが、従来の遺伝子改変技術よりも遥かに効果が長時間持続する遺伝子治療薬の開発に成功…という、非常に素晴らしくまた夢のある報告がなされていました。

日本語記事でも特集されていましたね!(↓)

monoist.itmedia.co.jp
このまとめの元となっている原著論文は、こちら(↓)ですね。
PMCで無料公開されているので、どなたでも全文参照可能です。)

www.ncbi.nlm.nih.gov
日本語記事がなかったら、せっかくなので逐一解説していこうかとも思いましたが、普通に先ほどのITmediaの記事でバッチリ丁寧に概要が紹介されていたので不要ですかね。


一応ごく簡単に触れさせていただくと、こちらはマウスを使った動物実験ではあるんですけど、筋ジストロフィーを発症させたマウス(これも、遺伝子改変で作られたものになります)に、CRISPR-Cas9と呼ばれる新時代の申し子・現在最注目の遺伝子編集薬を、体内に導入するためにミクロな脂肪分からできたナノ粒子・LNPで包み込んで注射してあげた所、薬入りのナノ粒子を注射したマウスで筋肉の量が長期間(1年)に渡って増加した(もちろん、塩水入りのナノ粒子を注射したマウスには、何の変化もなし)、という報告です。
(あぁ、筋ジスは、ざっくりいうと筋肉が失われる病気というものなので、筋肉を増やすことが目標ということですね。)

論文および解説記事には、画像付きで、静脈注射および筋肉注射による遺伝子編集効果も紹介されていましたが、静注することで広い範囲の筋肉に効果を及ぼすことも示されていました。


まぁITmediaの日本語解説記事でポイントはしっかり紹介されているのでそれ以上触れる点もないわけですが、これは本当に期待できる技術ですね。

顕微鏡下での観察では、筋肉の38.5%で遺伝子が正しく治療された様子が観察できた(2週間間隔で6回の注射、最後の投与から2ヵ月後の状態)とのことで、もちろんまだまだ全ての細胞の遺伝子が治療されたというレベルまではいかないんですけど、約40%というのでも相当なものですよ。

そして、ヒトへの応用にはまだまだいくつもの検証ステップが必要ともいえるものの、従来の治療法よりも効果が長くまた広いのが特徴のこの手法、ぜひとも承認薬となり、苦しむ患者さんの光になってくれることを願いたい限りです。


なお、このナノ粒子LNPは、話題のコロナワクチンでも使われているもので、これも薬やワクチンを運ぶ上で、今現在大変注目&応用されまくっている期待の分子ですね。

そしてそれ以上に、先ほど言葉だけ出して中身には触れなかったCRISPR-Cas9というもの、こちらが一体何なのか、今回はそれに触れようと思っていたものの例によってスペース&時間不足で、こちらも次回持ち越しとさせていただきましょう。

ちょっと専門的過ぎて、意味のある説明も難しいかな…と思えるものの、これはマジで今めちゃくちゃ一番ホットなバイオ研究のテーマなので、名前と大体ざっくりどんなものなのかぐらいに触れてみることで、理解のホンの一助にでもつながりましたら幸いに存じます、という感じですね。

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