一本二本、構造の補足

遺伝子のスイッチ→代表的なものは、プロモーターとRNAポリメラーゼ→今回の、一連の実験例で使うのはT7由来のもの…という流れで、特にT7について見ていたとともに、T7に限らず一般的なDNA→RNA(=転写)の仕組みを、簡単な図で紹介していました(遺伝子のスイッチとはどんなものなのか)。

このDNA→RNAという全ての生体反応で一番大事ともいえるプロセス(遺伝子に刻まれた情報を、実際に機能する物体に変換する作業の最初のステップ。もちろん、その「機能する物体」というのは、タンパク質のことですね)について、「RNAとDNAは正味の話どういう形で存在しとるん?具体的なイメージが湧かないぜぇ~」というご質問をいただいていたので、それに関連して、DNAやRNAの形・構造について見ていたのが、前回前々回あたりの話だった感じですね。

特に分かりやすい一例として、生体の中で一番量が多く存在しているRNAである、rRNAという巨大な分子の二次構造を紹介していたんですけど、前回図を貼っていたように、RNAは一本鎖として存在はするものの(DNAのように、2つの別個の鎖がくっついて二本鎖になるのではなく、一つながり・単一の鎖があるだけということ)、実は割とビックリするぐらい沢山のステム(=折れ曲がってA⇔UかC⇔Gがくっつくことで、部分的に二重鎖になった所)を形成し、複雑な分子内構造を作って存在している…ということが見て取れたのではないかと思います。

それに関していくつか補足で、前回は触れなかったんですけど、鋭い方はもしかしたらお気付きになっていたかもしれませんが、A⇔UとC⇔Gのみならず、GとUも、ちゃっかりステムを形成しとるやん、という点がまずありますね。

まぁ同じ図ですけど、前回も貼った、各ヌクレオチドの文字が十分見やすい拡大図を再掲しておくとしましょう。

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https://people.biochem.umass.edu/fournierlab/3dmodmap/ec2d16sframes.phpより

何気に5'末端から始まってすぐ、前回も注目していた最初のステムの部分に存在していたのに無視していたんですが、12番13番のUUが、21番22番のGGと、丸い点で微妙にステムを作っている様子が見て取れるかと思います。


そう、ヌクレオチド塩基は、A⇔UC⇔Gでペアを作るとずっといっていましたが、実は、GUは「ゆらぎ塩基対」(英語でwobble base pair)と呼ばれる、A-Uほどは安定していないけど、A-CやA-Aといった、磁石のN極同士ぐらい全くくっつかないやつらよりは断然強い力でペアになることが知られています。

まぁ、AとGは割と似てますからね、AU同様、GUがペアを組めるのもまあまあ納得といえるかもしれません。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ゆらぎ塩基対より

…でも、それがまかり通るならば(=「AとGは似てるからね」ってのがいえるなら)、GCがペアを組めるならACもペアを組めなきゃアカンのとちゃいますのん、って気もしますが、まぁACは全くくっつくことができません

GUだけ例外でくっつけるって何でやねんと思えるものの、これも結局、理由は分からんけどまぁ「そうなってるからそうなんだ」という話でしかないわけですが(まぁ後述の通り、構造を見ればそうなる理由の説明はできますが、そもそも論として、「なぜGとUだけがウォブルペアを形成するように生体分子は進化してきたのか?」という理由は不明ということ)、別にRNAの構造予測アルゴリズムを開発したりRNA分子の構造に着目して何か新しい機能をもたせる分子を創製したりとか、そういう研究をするのでもない限り、割とどうでもいい話なので気にしなくてもよいでしょう。


というか、しれっと「塩基対形成についての、原子レベルの図」を今さっき貼ってましたが、そういえばこの辺の話は全く触れていませんでしたね。

ずーっと「手をつなぐ」とか「ペアになる」とか、まぁ前回から「ステムを形成」とか適当に色んな表現で書いてたんですけど、その実態は、先ほどの図にある通りの、「酸素原子Oまたは窒素原子Nの、水素原子Hの引っ張り合い」みたいなものが、その「手つなぎ」の正体だった、って形です。

これは水素結合と呼ばれる相互作用で、ぶっちゃけ生化学では死ぬほど重要な結合なんですけど、やっぱり入門編としては意味不明というか、マジでこんなの見ても正直ワケワカメなんですよね…。

そんなわけで、ずっとこいつには触れず、何とか「手をつなぐ」「くっつく」とかごまかしたまま話を進められねぇかな、などと思ってたわけですけど、GUのウォブルペアのせいで(おかげで?)、ついに話に出すことになった形ですね。

まぁごくごく簡単にいうと(…って、簡単にまとめられないから今まで放置してたんですが…)、水素原子と、酸素原子や窒素原子の間には電子の偏りみたいなのが存在しまして、電気的に微妙に+(プラス)に帯電している水素を、電気的に微妙に-(マイナス)に帯電している酸素や窒素が綱引きのように引っ張り合うことで、結果的に水素を介して2つの酸素or窒素が手をつないで(実際は逆に、「水素を自分の方に引き寄せたい!」と水素を奪い合ってるような感じなわけですけど)、両者譲らず、最終的に、その3原子が電気の力でくっついてるように見える…ってイメージですね(あくまで、大分ざっくりしたイメージで、正確性には若干欠けますけど、まぁイメージとしては悪くないでしょう)。


ということで、水素結合に触れたので、今回は記事タイトルを「Hの結合」とかにでもして、思わせぶりな感じで衆目を集めてアクセスアップを図ろうかとも一瞬思いましたが、まぁそういうのは何かアレなのでやめておきました。

ポイントとしては、AとU、そしてGとUも、先ほどのWikipedia画像にあるように、各塩基のH, N, Oを介して、合計2本の水素結合が生まれるため、AとU(ゆらぎペアでGとUも)は、隣にいると手をつなぐことができる(ペアになる・ステムを形成ともいえますが)わけですね。


なお、CとGは、なんと3本の水素結合が形成されます!

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https://ja.wikipedia.org/wiki/水素結合より

なので、A-UペアとC-Gペアとを比べると、圧倒的にC-Gペアの方が強く結びつくことが知られており、C-Gがいくつも並んだステムは、A-Uばかりから成るステムより、断然カチカチの、固いしっかりしたステムになるんですね。


とはいえ水素結合は、あくまでも微妙な電気の差から生じる静電気みたいな力であり、図でも点線で表されていたように、炭素C-窒素NとかC-C間の結合のような、何があっても離れない(…わけではないけど、この結合によって一つながりの分子として存在しているわけで、C-CとかC-Hとかは、極めて強固な結合です。ずっと見てきた有機化合物の構造でおなじみ、直線で表せれるこいつらは共有結合と呼ばれますが、まぁこれも超重要単語ではありますけど、今は別にどうでもいいでしょう)やつとは訳が違い、割と弱い結合に分類されるものですね。

ちょうど、金属の鎖でつながれたのがC-Cなどの共有結合だとしたら、水素結合は、弱い磁石をくっつけたような、条件によっては簡単に外れる結合でしかない(でも、通常の状況なら、ピッタリとくっつきあうぐらいには意味のある結合)、って感じといえましょう。


このことから、なぜDNA・RNAには方向があるのかも説明がつく感じですね。

水素結合は(さっきもちょっと触れましたが)どちらか一方だけが点線で表されていることが図をよくご覧いただくと見て取れるように思うんですけど、実線のN-H(これは共有結合ですね)側を水素結合のドナー(供与体)、一方、点線が伸びている方を水素結合のアクセプター(受容体)と呼んでいます(なお、ヌクレオチドの場合はN-Hしかないですが、実際はO-Hもドナーになり得ます)。

そして、DNAやRNAの塩基は、ちょうど逆向きに向かい合うことで、このドナーとアクセプターがピッタリ出会える(向き合える)ように配置されているんですね。

なので、同じ方を向いている塩基同士だと、場所的にあうのがドナー・ドナーみたいになり、上手いこと水素結合が形成できないので二重鎖を作ることが出来ない、という話だったわけです。

…ま、細かい原子レベルの結合の様子はマジでどうでもいいと思いますけど、一応、仕組みとしては、今まで見てきたDNAの二本鎖やRNAの二重鎖部分は、水素結合が形成されることで、AはTまたはUと、CはGと、ペアを作れますよ、って話でした。


あと構造に関してもう1つ、ステムの中には、長い二重鎖構造の間に一部、ペアを形成しない部分というのも、当然見受けられます。

ちょうど、先ほどの拡大図を先頭の5'末端から見ていくと、25番目のCまでが前回見ていたステムを形成し、そこから、27番目のGを皮切りに割と長いステムが存在していますけど、GAUUと来て、31番目のGがピョコンと1塩基だけステムから飛び出しています。

これは当然、こいつがペアに参加しないことでその他の領域がぴったりステムを形成できるようになるから、いわばハブにされてる感じですが、普通にこういう形も許容されるのがRNAってことですね。
(場合によっては、こういう出っ張りが機能をもつ上で重要なこともあります。…でもまぁ大抵、ステムループの方が大事なことが多いので、出っ張りはむしろない方がより良いことの方が多いですが。)


ちなみにこういう飛び出ている部分は「バルジ」(bulge;膨らみのこと)と呼ばれています。

バルジといえば、大学院時代、2個下で同じ研究室に入ってきた(自分が博士1年のとき、修士1年で入学)後輩の学生が、入学後の顔見せ的な卒研発表会(大学4年のときに行った自分の研究の発表)で、「私はRNAの研究をしており、このバルブ構造が…」と、ずーっとバルジをバルブと呼んでしまっており、最後質疑応答で、若手の先生が「…あのぉ、あと、ずっとバルブっていってたけど、バルブじゃなくてバルジね…」と苦笑まじりに伝えて、その子は「わぁー、ずっとバルブだと思ってました、すみません…!」とめちゃくちゃ恥ずかしそうにしていたのが印象的ですねぇ。

(いやでも自分の卒研なら、指導教官に直されてただろうし、卒研発表ではなく、読んだ論文の発表会とかそういうのだったかな?
 いずれにせよ、勘違いは誰にでもありますし、もっと大きな舞台で恥をかかなくて済んだのは幸いといえるかもしれませんね。)


…ということで、実はもうちょい補足しておこうと思ってたこともあったんですが、やや細かすぎる気もしますけど、追って元質問への説明にも必要っちゃ必要ですし、次回もまた順にもう少しだけこの辺を掘り下げていこうかと思っています。

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