紫外線について

引き続き、光のご質問(聖なる質問みたいですが(笑))に触れさせていただくとしましょう。

Q6. 波長が短いほど光のエネルギーは大きく、波長が長くなるほどエネルギーは小さくなるとのことだが、じゃあ紫色に見える400nmの光は、色のあるものの中では1番エネルギーが高いってこと?逆に赤色はエネルギーが低い…?
 それが正しかったとして、だから、何なん…??具体的には、一体どういうことだってばよ?!

A6. 波長については、まさにその通りで、色として目に見える光線の中では、紫色の光のエネルギーが一番大きいし、赤色の光のエネルギーが一番小さいです。

エネルギーに関しては前回もちょろっと触れましたが、結局、一番分かりやすいエネルギーの変換先はでしょうか。

だから、紫色のみの光を浴びた場合と、赤のみの光を同じ量浴びた場合、紫の方が圧倒的に熱さを感じることになります(もちろん、どちらの場合も吸収されなきゃ意味がないので、可視光線全てを吸収する、黒い服を着たような場合ですね)。

それ以外にも、紫色の光線のみを出す懐中電灯とかがあったら(レーザーポインターみたいな?)、赤色の光線のみを出す装置より、同じ強さの光でも圧倒的に速く電池が減るし、コンセントにつなぐものであれば電力を消費することになります。短波長の光線自体がより大きなエネルギーをもっているから、それを作るのにも当然より大きなエネルギーが必要ということですね。

他にも例えば虫眼鏡に紫色の半透明フィルターをつけて、太陽光から紫色の光だけを集めるのと、赤フィルターをつけて赤色の光だけを集めた場合、おなじみ光を一点に集めて紙を燃やす実験をしたら、圧倒的に紫光線の方が早く燃え始めるはずです。

もちろん、紫光線の方が大きいエネルギーをもっているからですね。
(ただ、いうまでもなく、太陽光そのものが一番早いです。太陽光は全色の光が含まれており、一方、紫色の光はその内「紫光線だけを取り出した」ものなので。)

…あぁ、それより、現実的に簡単にできるという意味では、光を集める紙の色を変えた方が分かりやすいかもしれませんね。

黒い紙・紫色の紙・赤い紙・白い紙に虫眼鏡で光を集めると、燃える順番は、黒→赤→紫→白になることが予想されます。

改めて、赤い紙は赤い光を反射している=紫の光は吸収している(紫紙はその逆)ので、エネルギーの大きい紫の光が紙に吸収されることになる、赤紙の方が早くエネルギーが集まるから、ってことですね。

白い紙も、ほとんどの光を反射するからこそ白いわけですが(=吸収される光が少ないので、燃えるまでに一番時間がかかる)、もちろん完全反射ではなく、一部の光は吸収されているはずなので、粘り強く光を当て続けたらこれもいずれ燃えることでしょう。

(ただ、これはエネルギーの説明をするための仮の話で、実際の太陽光線に全ての色の光線が同じ強度で含まれているとは限らないため、実際の実験結果は違うかもしれません。
 あくまでも、全部同じ強度の光線が注がれていたら、上の通りの結果が予想される、ってことですね。

…調べてみたら、現実の太陽光は、どうやら紫の波長の光は赤よりもだいぶ少ない(青~緑が一番強い)ようで(参考:太陽光のスペクトル↓)、現実的には先ほどの筋書き通りにはいかないかもしれませんね。)

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https://www.researchgate.net/figure/This-figure-shows-the-solar-spectra-and-how-the-proportional-energy-content-of-visible_fig1_237550734より

(追記:パッと見「だいぶ少ない」と思ってましたが、改めて冷静に見ると、紫色のピークの高さは端っこの方が低いだけで、一番高い部分(や紫全体)はむしろ赤と遜色ないぐらいだったかもしれませんね(ちなみに、赤外線=Infraredは目に見えないので、赤い紙やフィルターとは関係ありません)。
 まぁでも端っこの短波長領域のみ=真の紫色領域のみを考えれば、その光線の存在量は結構少なそうです。でも、その分エネルギーも大きいので、やっぱり総合すると紫の方が強いといえるかもですね。)

そしてもちろん、紫色の光線よりさらに波長が短くなった紫外線のエネルギーはさらに大きいですし、紫外線よりさらに波長が短くなると、究極エネルギー体ともいえる(いやそんな言い方は誰もしてませんが)、放射線になります。

放射線までいくと、あまりにもエネルギーが大きすぎて、DNAやその他生体分子に大きなダメージを与えるというのは、以前触れていた通りですね。
(当然、放射線照射ではDNAの他にもタンパク質とかあらゆるものがダメージを受けますが、タンパク質はあくまで自分が遺伝子の通りに作った生産物であり、こいつは壊れたらまた作ればいいだけといえる一方、DNAはその「作るための設計図」ですから、これが破壊されるとヤベぇことになるため、DNAのダメージの方がよく槍玉に挙げられるのではないかな、という気がします。)

紫外線についても、まぁこれもあえて語るまでもない一般常識かと思いますが、凄まじいエネルギーをもっている光線なので、日焼け肌の老化につながることが知られています。

個人的には、(客観的なデータはなく、単なる直感ですが)肌の老化に最も強くつながるものは、栄養や睡眠や運動・代謝なども大きな影響を及ぼすとは思うものの、やはり最大の影響があるのは紫外線を浴びることだと思います。

直感的にもそうですが、やはり以前話題になっていた、The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINEにて報告されていた、「25年間トラックドライバーとして働き、顔の左半分にのみ直射日光を浴び続けた(左ハンドルなので)男性の写真」があまりにもインパクトが大きかったのもありますね。

(記事掲載の写真はこちら↓。

 

 割とインパクトが強い&ホラー映画のジャケットみたいな構図なため、いきなりバーンと載せると驚かれるかもしれないので、軽く【閲覧注意】かもしれませんが…)

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https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1104059より

全く同じ栄養・睡眠などを摂取している一個人の顔なのに、ここまで異なる肌の状態になるわけですから、紫外線のエネルギーがどれほどのものなのかは想像に容易いように思います。

(一応、簡単に検索してみたら、肌のエイジングの要因一覧に関する査読つき論文(↓)でも、特に順位付けがされているわけではないですが、太陽光が筆頭に挙げられていましたね。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
2017年の論文ですが、太陽光、糖、喫煙、スキンケア、ストレス、睡眠、秒(時間)の順に並んでおり、やはり紫外線がお肌の大敵代表といえるように思います。
 防ぐのも容易ですしね、肌を若く保ちたいなら、紫外線対策はきっちりされるのが最も効果的といえるかもしれません。)

 

Q7. そういえば、ネイル(ジェルネイル)を硬化させるのに紫外線ライトを使うのを思い出した。あれは、青紫色っぽくて、めちゃくちゃ熱いよ。紫のエネルギーが大きいというのは、そういうことをいっているのか…?
 いや待てよ、青紫色ってことは、紫外線ではなく紫色の光ってこと??あれ、でも色のついてない光の時もあるような…?紫色の光と、紫外線に境界はあるの?

A7. こちらもめちゃくちゃ面白いご質問ですが、これは、そうである点と、そうではない点が混じっている感じですね。

まず、ジェルネイルが固まるのは光重合という仕組みによるものであって、これは小さい分子が次々と手をつないで高分子になる反応(ペットボトルとか、サランラップとか、ナイロンとかの記事で触れていたのと同じパターン。高分子化を起こすきっかけが、光というだけ)であり、この反応が進むと硬化熱が発生します。

なので、僕はジェルネイルの経験がないのでまぁ正確には分かりませんが、恐らく熱さを感じるのはライトの光線というより、その硬化熱がほとんどではないかと思います。
(もちろん、かなりの強さの光を当てるようなので、光線そのものから出る熱も多少はあると思いますが、多分、ジェルの付いていない指とかを入れてもあまり熱くはないのではないかな、という気がします。)

ただ、そもそも紫外線を当てることで硬化が進むのは、紫外線がもつエネルギーが大きいから、というのは、その通りだといえる感じですね(まぁエネルギーというより、紫外線は化学反応を惹起する力が強い、ともいえるかもしれませんが)。


ちなみに、紫外線そのものは、可視光線から外れているから当然、目には一切見えません。

ただ、それだとどこを照射しているか分かりづらいので、紫外線照射装置には意図的に青紫色の光線も混ぜてある(安全のために)といえましょう。
(といっても、特に意図的に加えているというよりも、そもそもそんな特定の波長だけを出す装置を作るのも手間というかコストがかかるので、紫外線を発射する装置を作ると、意図せずとも紫外に近い紫色付近の波長の光も混じってしまう、ともいえるかもしれませんが。
 赤外線ストーブが、赤外線だけを出すのも難しいので長い波長の光をドバッと生み出すことで、結果、赤い波長の光も同時に放出されている、のと近い感じですね。)

紫外と紫の境目は、例のWikipediaの情報によると、大体380 nmぐらいですね。そこより短くなると、途端に人間の目では見えなくなる感じです。
(まぁ境界部はもう大分見づらく、人によっては既に見えないなんてことも多いと思いますけどね(濃い紫が、段々透明になっていく感じ)。
 どこまで見えるかは、その人の「目の良さ」(視力というより、「夜目が利く」みたいな目の性質の話)次第といえましょう。)


ちなみに、紫外線照射装置の場合、当然、エネルギーの甚大な紫外線を当てるわけですから、日焼けとか、肌へのダメージなどのリスクがゼロとは言い切れません。

ただ、そんな数時間とか浴びるわけではないようですし、そもそも紫外線の中にも波長によって違いがありまして(当然、波長が短い紫外線ほど、エネルギー大&人体ダメージ大)、絶大なる人体ダメージを与える一番波長の短いUV-C(今さらですが、紫外線は英語でUltravioletで、UVと表記されますね)を出すネイル用製品は存在しないようなので(危なすぎるので当然そんなのは販売されていません)、そんなに心配するほどの危険性はないと思われます。

もちろん、UV-C(波長280 nm未満)より波長の長いUV-B(280-315 nm)でも肌へのダメージは避けられませんし(日焼け・シミ・ソバカスの主要因)、さらに波長の長いUV-A(315-400 nm)も、エネルギー的には断然小さいとはいえ、こちらは浸透力がUV-Bより強いとされているので(ちょうど、エネルギーは弱い赤外線が、色々なものに吸収されやすく熱を発しやすいのと同様)、皮膚の奥深く真皮に到達して内部からダメージを与えるヤベェやつともいわれており(参考:日本ロレアルの解説記事など)、UV-Aだからといって、「へっへぇ~、エネルギーが小さいから問題ないもんねぇ~」と浴びまくるのは良くない感じですね。

ちなみに、どの波長のUVを使うべきかは、使うジェルによる(どの波長の光で硬化が最も促進されるかは、ジェルの成分次第)ので、ネイルサロンとかのお店でやる場合は適切な照射装置をお店の人が出して使わせてくれるんだと思いますが、自分でやる場合は、ちゃんと対応するUVライトを用意する必要がある感じですね。

…まぁ、基本UV-AもUV-Bもどちらも照射されるから(先ほども書きましたが、特定の波長だけを出す装置の方がむしろ高くつくと思うので、UV-AもBもドバッと放出される装置がほとんどのはず…恐らくUV-Aの方がメインになっているとは思うけれど)、少々の波長の違いは気にする必要がないとも思いますが、紫外線の健康被害を考えて、最近はLEDを使った、「紫外線ではなく、紫色近辺の可視光線を使ったジェルネイル用ライト」も売られていると目にしました。
(こちらの記事(↓)とか、背景知識含めて、とても丁寧な解説ですね)

11nail.com
記事にある通り、LEDの方が強力なライトを当てられる(から短時間で済む)上、ライトの寿命も長いので交換の必要性もない(そして何より、可視光なので、健康被害が紫外線と比べて皆無といえるぐらい小さい)のですが、装置そのものは紫外線ライトよりも値段が張る感じになります。

そして、この用途で使われるLEDの波長は紫外線ライトのそれとはだいぶ異なるので、自分でやる場合は、使うジェルがLEDの波長に対応しているかをチェックする必要がある、ってことですね。


あと紫外線といえばやはり日サロで使われているのも一般社会ではなじみがあるものかもしれませんが、日本皮膚科学会のQ&A記事にもある通り(まぁそんなの学会にいわれなくとも何となく明らかですけど)、やっぱり、肌へのダメージを考えたら、意図的に焼くのはちょっとデンジャーな行為じゃないかなぁ…なんて思えちゃうのが本音かもしれないですね。

僕もちょうどガングロギャルが流行っていた世代ですし、見かける度に、「これは……将来の肌がマジで心配だぁ」と余計なお世話な心配をしていたものですが(って、よく考えたらTVの中以外で見かけたこともなかったし、仮に見かけても、そんないきなりヤマンバギャルの将来を心配するとかキモイことは別にしなかったですけど(笑))、最近は美白ブームもあり肌を焼く行為そのものが廃れてしまったと思うので、むしろ逆に日サロのビジネスは大丈夫なんだろうかと心配になるレベルかもしれません。

最後関係ないですが、生命科学実験でも、例のエチブロに染めたDNAの検出なんかで、UV照射装置はめちゃくちゃ使っています。

ただ、短波長のUVを使うとDNAが化学的に変化してしまうので、長波長のUVを使うのが基本ですし(たまにそういう知識を知らない学生が間違えてしまいがちです)、長波長であったとしてもUV照射の影響が最小限になるように、特に制限酵素で切ったDNA断片をアガロースゲルから切り出すときなんかは、超短時間のUV照射に留めることが極めて重要なポイントになります。

短波長のUVを使って、長時間照射してしまうと、マジであっさりとクローニング実験が失敗するので(UVで、わずか一箇所でも変化してしまったDNAは、大腸菌が増やせなくなってしまうため)、UVというものの威力は、生命系研究者なら身をもって実感しているものな感じですね。


関連して、次回も日常生活になじんだ話でもう一つ脱線記事を続けさせていただくとしましょう。

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