pETシステム!

大腸菌の力を借りた楽しい組換えタンパク質の作り方講座、ここでは一例としてギネス認定超甘タンパク質・ソーマチンをゲットしようという感じで話を進めさせてもらっています。

前回、第1ステップとして、西アフリカに赴き、T. ダニエリ(ソーマチンを作ることで知られる植物)の葉っぱなりを入手してT. ダニエリのゲノムDNAをゲットするか、あるいは「西アフリカなんて行ってられないよ…」という場合は、金に物をいわせて、DNA合成サービスを提供している会社に、600塩基程度のソーマチン遺伝子の配列そのもののDNAを注文して作ってもらうかで、ソーマチンタンパク質・207アミノ酸の順番が記されたレシピ=遺伝子を、DNAという形で物質として得ることに成功していました。

毎回貼っていますが、 改めて参考までに、全体の大まかな流れを再掲しておきましょう。

大腸菌にタンパク質を作ってもらおう!】

1. 作りたいタンパク質のレシピ、つまり(アミノ酸の順番が指定された)DNAをゲットする!

2. そのDNAを、大腸菌が使える形に変換する!

3. 使える形に加工したら、満を持して、DNAを大腸菌にぶち込む

4. DNAがぶち込まれた大腸菌選別

5. 選ばれた「DNAがぶち込まれた大腸菌」をひたすら増やそう

6. タンパク質合成のスイッチON

7. 満を持して、目的タンパク質の収穫

8. さすがにそのまんまでは大腸菌まみれで汚いので、キレイに精製しよう!

→見事、手元には大量の純品タンパク質が!やったね!!


続いては「ステップ2:DNAを、大腸菌が使える形にする」ですね。

そう、業者に注文して、六百数十塩基の二本鎖DNAを手に入れたはいいものの、こいつを大腸菌にふりかけても、流石に大腸菌はこの「ソーマチン遺伝子(アミノ酸の順番を記述したレシピのみ)」を直接使うことは出来ないのです。

なぜなら、(以前の記事でも何度か書いている)「遺伝子のスイッチ」もなければ、このままでは「このソーマチン遺伝子DNAを取り込んだ大腸菌」を選別することもできない上に、仮に大腸菌が取り込んでも「大腸菌がこのDNAを自発的に増やしてやれるシステム」も備わっていないので、こんなのをいきなりぶち込まれても、大腸菌にしてみたら活用しようがないんですね。

…と、「スイッチ?選別?自発的に増やす…?」と何のこっちゃよく分かんないかもしれませんが、追って説明していきましょう。

…ってどこから説明すればいいのか難しいですが、結局、大腸菌というのはたった1つの細胞で個体として完結している単細胞生物で、しかもめちゃくちゃ増殖が速い(最速20-30分で、1匹の大腸菌2匹に分裂します)というのが最大の特徴というか売りというかポイントといえるように思います。

この特質から、大腸菌を使った場合、「ソーマチン遺伝子DNAを取り込んだ大腸菌だけをセレクションして、そのソーマチン遺伝子DNAを持ったまま、大量に増え続けてもらう」ことが可能となり、これが実際、タンパク質を作る上で、ものすごく素晴らしいシステムになっているのです。

もしこれが人間のように大量の細胞が集まってできた個体だったり、同じく人間のように1世代が数十年という長すぎる時間スパンであったら、DNAを取り込んだ「当たり細胞」のみから成る個体のセレクションやら、何世代も増やし続けるやら、そんな悠長なことはできません。

そういう複雑で時間のかかる生物を使ってしまうと、とにかく可能な限り沢山のDNAをぶち込んで当たりの確率を上げ、外れの細胞がまじっていようが何だろうが、当たり細胞が含まれる個体なら手当たり次第に全てのサンプルを飼い続け、子孫が増えるのを待つわけにもいかないので適当なタイミングで見切りを付けてタンパク質を回収……みたいな実験をせねばいけなくなるわけですが、これではすこぶる効率が悪いんですね。

一方、大腸菌なら、まず確実にソーマチンDNAを取り込んだ個体のみを選別することが可能であり、さらに、その「当たり菌」だけを何十世代もガンガン増やすこと(飼ってる容器の限界まで……1リットル容器なら、1兆匹とか)も、余裕で可能になるのです。

この戦略の優れている所は、最悪1匹でもDNAを取り込んでくれればそいつを増やせばいいので…

「取り込ませる用のDNAを、そんなに大量に用意しなくてもいい
(まぁDNAを増やすのは簡単なので別にそこまで重要なポイントでもないですが、少なくとも、さっき悪い方の例として見ていたパターンの、「DNAを可能な限り多く取り込ませたい」(「使えば使うほど良い」)的な、上限なし青天井で終わりの見えない状況ではないのは間違いなくメリットですね)

…という点、そしてさらに、

「全ての細胞(大腸菌)が目的のタンパク質を生産してくれるので、一切無駄がない

…という形になってるのが、本当によくできたシステムになっているわけです。


しかし、これを実現するためには、当たり前ですが、「大腸菌が、取り込んだDNAを、以後自分の力で増やしていってくれる」ことが必要になります。

言い換えると、大腸菌は分裂して増えますが、「分裂時に、ソーマチン遺伝子DNAもコピーされて、分裂後両方の細胞ともがそのDNAを保有し続けてくれる」状態でないといけないわけですね(じゃないと、せっかく導入したDNAが分裂のたびに減っていってはいずれほとんどが「欲しいDNAをもたない大腸菌」になっちゃいますし、そんなのを増やしてもしょうがない)。

…と、そんな都合いいことが可能なのか?

もちろん可能だから現実的に大腸菌が使われているわけですが、ここで昔の偉い人が目をつけたのが、プラスミドと呼ばれる、特別な機能をもったリング状DNA!

まぁ「特別」といっても、あくまでDNAですから、A, C, G, Tの4文字がひたすらつながっただけで、分子自体は特別でも特殊でもなんでもない、本当にただのDNAなんですけどね。
(要は、プラスミドDNA(大抵5000~6000塩基対ぐらいです)の中に、A, C, G, T4文字の組み合わせで「意味のある文字列」となる部分が存在しており、その領域が特別な機能を生み出してくれてる、ってことですね)


プラスミドとはいったい何なのか…?

大腸菌は、こいつだってもちろん生き物なので、大腸菌自身が生きるための遺伝子セット=ゲノムDNAを、我々人間と同じく染色体の形で保有していますが、そのゲノムDNA以外に、リング状のプラスミドDNAというものを保有しているやつがいることも知られていました。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/プラスミドより

まぁなぜこんなものがあるのかは、それこそ大腸菌に聞いてくれとしかいえないわけですが、薬剤耐性とか細胞同士の接合とか、生きる上では必須ではないけれど、あるとたまに便利なこともある、要はアクセサリーとかオプションみたいなものですね。

これをもつ大腸菌は、そのプラスミドDNAに乗っかってる特殊能力をゲットできるようになる、まさにゲームの装備品みたいなもの…なんていえるように思います。

最重要ポイントとして、この二本鎖DNAがリングになっているプラスミドDNAというものは、大腸菌が分裂するときに、分裂後に生まれる方にもしっかり分配される単細胞生物なので性があるわけではないし、そもそも完コピなので分裂後は一切区別がつかなくなりますが、新しくできた方は「娘細胞」と呼ばれます。元になった方は当然「母細胞」)ことが挙げられます。

その理由は、プラスミドDNAの中に、「ori」(originのこと。日本語では「複製基点」)と呼ばれる数百塩基程度のエレメントが存在するのですが、大腸菌が分裂するときに、大腸菌自身のもつDNA合成酵素がこの配列を認識して、まさに文字通りここを基点として、分裂時に娘細胞にもきちんとコピーしてくれるからになります。


…と、昔の賢い人は、このプラスミドに着目して、「こいつに自分の好きな遺伝子を乗せて(組み込んで)大腸菌にぶち込んでやれば、大腸菌が増えると同時にこの遺伝子も増やせるのでは?」と考え、さらに、大腸菌セレクションに必要なエレメントや遺伝子スイッチをON/OFFするのに使えるエレメント、さらにさらに目的タンパク質の精製に使える各種エレメントなど様々なオマケ要素も盛り込んで、めちゃくちゃ便利に使える人工プラスミドを開発したのです。

結果、目論見どおり、「欲しいタンパク質の遺伝子DNA」をこの人工プラスミドに導入し、その「目的遺伝子入りのプラスミド」を大腸菌にぶち込んでやれば、大腸菌が延々と自力でコピー&増殖分裂でプラスミドを増やしてくれて、スイッチを入れることで目的タンパク質を大量に作り出せるという素晴らしいシステムが生まれたのでした。

…うーん、こっから先は、明らかに入門編を逸脱していて、クッソ細かすぎてどうでもいい話でしかないんですけど、専門外の方にも理解できる範囲の話をしていきたいのと同時に、せっかくだから分子生物学・生化学系を専攻してちょうど勉強をし始めたぐらいの学生の人なんかにも(もし読まれることがあれば)多少は意味がある内容になるといいなぁ、という感じのことをワガママな願いながらいつもこっそり目指しているので(まぁ、どっちつかずで、初見の人には意味不明、しかしある程度学習した人には今さら過ぎてどうでもよしの、最悪パターンになってる可能性も高いですが…)、この際もう少し詳しめに見てみましょう。

いろいろ派生シリーズもあるものの、最初期に開発され、今でも世界中多くの研究室で使われているのが、pETシリーズという名前の付けられた、人工プラスミドを使ったタンパク質発現システム!

(pETというのは、plasmid for expression by T7 RNA polymeraseの頭文字を取って付けられた名前だったんですね。後述しますが、T7というのは、使われている遺伝子スイッチの名前です(そしてexpressionが「発現」)。
 もちろん、「ペット」という響きがいいので、あえて、やや無理くりに付けられた名称である気もしますけどね…!)

このpETシリーズのプラスミドは、大腸菌のセレクション用エレメント、遺伝子スイッチ、精製用のタグ…といった各項目の内、それぞれどの能力が採用されてるかに応じて非常に沢山の製品がありますが…

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https://research.fredhutch.org/content/dam/stripe/hahn/methods/biochem/pet.pdfより

(ちなみにこちら↑、開発元のNovagenは既に吸収合併されて存在しないため、公式ではないものの、背景知識から完璧にまとめられた素晴らしいマニュアルなので、有志の教育機関が今でもしっかりアップしてくれている形ですね。
 この表(画像)も、50ページもあるその超有能マニュアルPDFからの抜粋です。)

…詳しい話は追ってするとして、シンプルにして便利な完成形であるpET-15bという名前が付けられたプラスミドが、シリーズの中でも特に汎用されているかな、という気がします。
(まぁ、自分が初めて使ったのがこれだったので、思い入れがあるってだけかもしれませんが。)

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https://www.emdmillipore.com/US/en/product/pET-15b-DNA-Novagen,EMD_BIO-69661#anchor_VMAPのリンクPDFより

これが、いわゆるプラスミドマップと呼ばれる、そのプラスミドにどのようなエレメントがどこに載っているのかを示してくれる図ですね(前述の通り、プラスミドはリング状です)。

5708塩基(二本鎖なので正確には「塩基対」ですが)のこのpET-15b、簡単に説明すると、3882番目の塩基の辺にoriがありまして、ここが上述の通り大腸菌にコピーして増やしてもらうために重要な領域…

そしてApと書かれた、4643-5500番の塩基に存在するのが、「このプラスミドを導入した大腸菌をセレクションする」ために使うエレメント、868-1945番にあるlacIというのは、まぁ遺伝子スイッチの一種…

そして、黒塗りの矢印でハイライトされた部分(プラスミドマップ右上の部分)が、自分の好きな遺伝子を自由に組み込むことができる部分となっています。

前回のステップ1で入手したソーマチン遺伝子は、ここに挿入することになります。

…と、これだけでは全く説明不足でチンプンカンプンかもしれませんが、前置きで長くなりすぎたので、詳しい話はまた次回に持ち越しとさせていただきましょう。

…う~ん、マジでちょっと深入りしすぎな気もしますが、あんまり細かすぎたり難解すぎたりしないように、ざっくりとポイントだけ抑えて、分かりやすく説明していきたい限りですね。

では次回、このpETシステムを、もうちょい具体的に見ていくとしましょう。

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