そもそも、誰の遺伝子なんだよ?(笑)

これまで、ヒトゲノムが解読され、ゲノムブラウザで全30億塩基対(60億文字分)にいつでもだれでもアクセスすることが可能になっている、といった話をツラツラと書いていましたが、こういう話を聞くと100%誰もが、

「いやDNAなんて人それぞれなんだから、そのDNAは一体誰の何だよ(笑)。俺はDNAを提供した覚えなんてないけど、俺の情報もあんのか?まさか、特殊な電波か何かで勝手に読まれてる…?こっわ、勝手に読まれないように、頭にアルミホイル巻かなきゃ…」

…などと思うわけです。

実際僕も、まぁホイル巻はともかく、「一体誰の?」という疑問を、この話を聞いた頃に感じていました。

その疑問は当然、冗談抜きに誰しもが感じる話であり、ヒトゲノムプロジェクト公式のFAQにも、ばっちりと掲載されています。

(そもそもこのヒトゲノムプロジェクト、日本語では「ヒトゲノム計画」と呼ばれますが、一応2003年に完了(ワトソン・クリックによるDNA二重らせん構造の発見からちょうど50周年…間違いなく、そのメモリアルに間に合うように全力を尽くされたんだと思います)しているので、個人的に「計画」って言葉は何となく「将来の予定・あくまでいつかやる予定のプラン」ってイメージが強いこともあり、なんとなく「ヒトゲノム計画」より「ヒトゲノムプロジェクト」という呼び方のほうがしっくりくる印象があります(「プロジェクト」なら、ちゃんと「実際に行われた研究」を意味してる気がするため)
 まぁ完全に終了はしておらず常に更新され続けているプロジェクトですし、別に「計画」という単語には「プロジェクト」という意味もあるので、独りよがりの勝手なこだわりなんですけどね。)

こちらが、NIH管轄の、ヒトゲノムプロジェクト公式サイトのFAQです。

www.genome.gov
3番目の、Whose DNA was sequenced?から、抜粋翻訳引用させていただきましょう。

誰のDNAが読まれたの?

この点につきましては、DNA配列決定のためにサンプルを提供していただいたボランティアの方々を保護するために、意図的に伏せられている情報になっております。読まれた配列は、複数のボランティアのDNAに由来するものです。ボランティアの身元が明らかにならないように、ボランティアの募集や、DNAの元となる血液サンプルの収集と管理には、慎重なプロセスがとられました。

ボランティアの方々は、DNAの「ライブラリー」(全遺伝子のコレクション)を作成した研究所の近くで出されていた、ローカル公共広告で集められました。候補者には、様々なタイプの人が採用されました。採用されたボランティアの方々は、十分な説明を受けた後、インフォームド・コンセント十分な情報が伝えられた上での合意)を経て、血液サンプルをご提供いただきました。最終的に使用された5〜10倍の数の血液が提供されれたため、自分のサンプルが使用されたかどうかすら、ボランティアの方自身にも分からないようになっています。また、実際のサンプルが選ばれる前に、ラベルは全て剥がされていました。

__________


ということで、プロジェクトも進み、たくさんのボランティアの方が参加しているものの、全て完全に匿名で行われているということなんですね。

ゲノムブラウザで前回前々回と見ていた通り、1つの遺伝子内でもたくさんの変異が報告されているわけですが、上述の通り、既に多くの人由来の複数データがありますから、あくまで個人の変異(違い)は個人差であり、基本的に多くの人で共通しているものがデータベースに「ヒトゲノム」として登録されているといえる感じでしょう。


あんまり面白くない結論ですが、実は、ヒトゲノムプロジェクトが進行中~完了した初期には、そんなにたくさんの人のデータを採取する余裕もなかったでしょうから、色々な噂も飛び交っていたようです。

こちらの、WIREDの2000年の記事、もう原文の英語版は削除されているようですが、日本語訳版は今でもしっかり残っている当時の文章、面白いですねぇ~。

wired.jp
記事によると、初期に解読されていたDNAの大部分はある1人の男性から採取されたものだそうで、業界人の間では、「このプロジェクトを最も強く引っ張っていたセレラ社(現在はQuest Diagnostics社に買収されて消滅)の当時の社長、クレイグ・ベンター氏のものであろう、彼はそういうことをしたがるタイプの人間だ」ともっぱらの噂だったそうです。

フォーブスの方にも、彼の波乱万丈な半生を取り上げた記事がありましたね。

forbesjapan.com
う~ん、いかにも自分の遺伝子を読んで人類代表として公表したがりそうな、ガッツにあふれる野心家の面構えでいらっしゃいますね、ヴェンターさん!(偏見、適当)

もうこの際ヴェンターさんじゃなくて、ヴェンチャーさん(venture:意味「(生命・財産に危険がおよぶ心配のある)冒険的企て」goo辞書より)に改名してはいかが…?

 

まぁヴェンターさんはともかく、ヒトゲノムプロジェクトのWikipediaページに、ゲノムドナーの項目があり(英語版のみ)、そちらも面白そうな内容だったので、 日本語版には存在しない段落であったため、最後にこちらも紹介させていただきましょう。

en.wikipedia.org

ゲノム提供者

IHGSC(ヒトゲノムプロジェクト・国際コンソーシアム)にて、研究者が、多数のドナーから血液(女性)または精子(男性)のサンプルを収集しました。集められた多数のサンプルの内、ごく一部のDNAのみが解析されています。そのため、ドナーの身元は保護されており、ドナーも、研究者も、誰のDNAが読まれたかを知ることはできないのです。プロジェクト全体では、多くの異なるライブラリー(コレクション)から採取されたDNAクローンが使用されましたが、これらの内のほとんどはピーター・J・デヨングさんが作製したものです。公開されているHGP(ヒトゲノムプロジェクト)製のゲノム配列の大部分(70%以上)は、ニューヨーク州バッファローの匿名の男性ドナー1名(コードネームはRP11;「RP」はロズウェルパーク癌センターを意味する)から得られたものです[58][59]。
(※注:ヴェンターさんの当時の所属=ニューヨーク州立大学バッファロー校。匿名になってねぇ~(笑))

HGPの研究者は、(各20人からランダムに選択した)2人の男性ドナーと2人の女性ドナーの血液に由来する、白血球を使用しました。これらのコレクションの内の1つ(RP11)が、品質を考慮した結果、他のコレクションよりもかなり多く使用されたのです。些細な点ではあるものの、技術的な問題としては、男性サンプルに含まれる性染色体(X染色体1本とY染色体1本)のDNA量が、女性サンプル(X染色体2本)に比べて半分強しかないことが挙げられます。その他の22本の染色体(常染色体)は男女ともに同じです。

HGPの配列決定のメイン部分は終了しましたが、DNAのバリエーションの研究は、国際HapMapプロジェクト(以下HMP)によって続けられています。HMPは、ハプロタイプ(Hap)と呼ばれる遺伝子セットの中の、一塩基レベルの多様性(一塩基多型、SNPと呼ばれる)のパターンを特定することを目的としています。HMPのDNAサンプルは、ナイジェリアのイバダンに住むヨルバ族、東京に住む日本人、北京に住む漢民族、フランスのCEPH(ヒト多型性研究所)所有のリソース(西欧および北欧を祖先に持つ米国の住民由来)の、合計270人から採取されました。

民間企業であるセレラゲノミクス社のプロジェクトでは、5人の異なる個人のDNAが配列決定に使用されました。当時、セレラ社の主任研究員であったクレイグ・ヴェンターさんは、後に(「サイエンス」誌に掲載された公開手記の中で)、自分のDNAが、解析グループ21サンプルの内の5サンプルに選ばれて使用されたことを認めています[60][61]。

2007年、ジョナサン・ロスバーグさん率いる研究チームが、ジェームズ・ワトソンさんの全ゲノムを公開し、60億塩基に及ぶ一個人のゲノムを初めて明らかにしました[62]。

__________


へぇ~、DNA二重らせん発見者の1人、ワトソンさんは、何気に、匿名じゃない完全実名で、自分の全DNA情報を公開されてるんですねぇ~。

知りませんでした。

でも、全DNA情報が公開されても、今の技術ではまだその人そのもののクローンをゼロから作る技術なんてありませんから、「気付いたら、街中にワトソンさんが何万人もいた!」なんてことにはならないので安心でしょう。

でも、もしかしたら、いつかそれが可能になることも…。

まぁ、我々の生きている間には、流石にまだ無理かな、と思います。


ということで今回は「ヒトゲノム…って、誰のや!」という疑問について見てみましたが、改めて結論をまとめると、データベースでアクセスできるのは、匿名(一部隠れてないのもあるけど)のボランティアのゲノムであり、集合データなので一応代表的な人間のDNA情報になっている(基本的に、人間のDNAの99.9%は同じ)、って感じですね。

(1000塩基に1つ=0.1%とかある個人差の変異に関しては、検出されたものについては、ちゃんと登録されていて確認できるのが、こないだのゲノムブラウザの画面でも明らかだったと思います。)

次回は、関連して、またちょっとこの辺の分野の技術的っぽい話に触れてみようかと思います。

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